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カスタマイズの誘惑



昨年からの外出自粛要請もあり、年に数回しか釣りに行かなくなっている。最初に釣りを始めようとリールを買ったのが2019年の12月で、翌年の3月には自粛要請なので、憧れていた「思いついたら釣りに行く」という生活とは程遠い。だが、その間ただひたすらにリールをカスタマイズしていたのでそれはそれで楽しい日々だった。

なぜカスタマイズは楽しいのか

クルマにバイク、自転車からミニ四駆、PCからカバンに至るまで。男の子ってこういうの好きでしょと言われるものに「カスタマイズ」がある。オリジナルのパーツを付け替えて新たな性能を引き出したり、自分なりの見た目にこだわったりする「改造」は、昭和40年代に生を受けた多くの男子にとっては魅惑の言葉だろう。巨大ロボが戦うアニメ、仮面ライダーや戦隊ヒーローはより強い敵を倒すためにパワーアップが必要だった。手持ちの武器を改造して強くなるというのはある種のイノベーションであり憧れでもある。

例えば、現在の自動車メーカーに勤務する若手エンジニアの多くは子供の頃に「ミニ四駆」に夢中だったという。数百円のパーツを付け替えるだけで驚くほどの性能アップを体感できるミニ四駆は、子供だけでなく今では立派な大人の趣味とも言える。

同じことがリールでも行われていると知った時、気持ちの昂りと共に「理想のリールを作りたい」という欲求が沸き起こっていた。

カスタム素材としての AbuGarcia ambassadeur

数あるリールの中でも、アブガルシア・アンバサダーはその歴史や構造の簡単さ、パーツの豊富さから多くのカスタムマニアが存在する。世界中にコレクターも多く、希少な機種はヤフオクでも毎日高値で出品されている。一時ほどではないがサードパーティのパーツも豊富で、それらのレビュー記事を読んでは妄想を膨らましていた。アンバサダーは両軸リールのクラシックとも言える4500、5500、6500と、サムバーとパーミングカップがついた4600、5600、6600のタイプに2分されるが、圧倒的に人気なのはクラシカルな外観の方。確かに格好良い。その他にも渓流や管理釣り場でトラウトなどを狙い軽いルアーを投げる改造が人気の1500、2500などもあるがこれはもうヤフオクなどの中古市場でも高騰しており、最初の一台にはちょっと、という感じであった。

4600C R.Gunnar Sprint

購入を決めたのは AbuGarcia ambassadeur 4600C R.Gunnar Sprint。フットナンバーを見ると080008とあるので1998年生産のものだろう。それまでのアンバサダーの赤に比べると薄く塗られた赤は、一説によるとコスト削減のためにアルマイトへの塗料をケチったとも言われているが、この機種オリジナルな感じがして悪くない。

ヤフオクで落札して届いたのは、使用感もなく箱や付属品も全て揃っていたが、その分ハンドルもスプールも回転が重く、内部を見るとグリスがベッタリと塗られていた。まずはそれを全て落としオイルを少量さすと見違えるように軽く動作する。この、メンテナンスをするとハッキリと変化が見られる感じがカスタマイズの面白さの入り口とも言える。

アンバサダーは、ウォームシャフトがスプールと一緒に動くから遠投が難しいという意見もあり、確かに一理ある。しかしキャストに際してブレーキになるのは各パーツのフリクションであったりブレであったりで、それほど工作精度の高くない機械が高回転に動こうとするので無理もない。遠心ブレーキやメカニカルブレーキのように使う人間が調整できる部分が7〜8割で構造的にブレーキとなる要素が2〜3割というイメージである。アンバサダーのカスタマイズの理想は各パーツの動作をスムーズにしブレーキの要素をなるべくなくし、使う側の調整の幅を限りなく100%に近づけることだと考える。

遠投カゴ釣り師の6500Cの改造も、ベイトフィネスを目指す方の2500の改造も方向としては同じだ。というか、全てのリールメーカーの製品はそこを目指し工作制度を高め品質の向上を行なっている。リールに革命を起こしたアンバサダーもシマノやダイワなどの国産メーカーのイノベーションに負けただけでなく、工作精度と品質管理とコスト管理に太刀打ちできなかった。AbuはAbuGarciaとなりPURE FISHINGの1ブランドとなった。しかし、メーカーがやりたくてできなかった事をやるのもカスタマイズの醍醐味だ。

ファクトリーチューンモデルを参考に

メーカーがやりたかった事の参考になるのが、たまに出てくるファクトリーチューンモデルだろう。

5600/6600CA は2020年に国内で発売されたモデルだが、価格は6万円もする。別にこれはボッタクリでもなく、手間暇かけて1台1台生産したらコストがそれだけかかるという事だ。面白いのはスペックの部分で、

製品特徴
サムバー式クラッチ
ギヤ比 5.3:1
高強度ブラスギヤ
ベークライト2点式遠心力ブレーキ
6+1 HPCR ベアリングス
2ハイブリッドセラミックBB
ポリッシュノブ
リベッテッドスタンド
ボールベアリング入りアイドルギヤ
マイナスタイプビス付属

基本的にベアリングを増やすチューンがメインで、セラミックBBまで使っている。

残念ながら4600CAは出なかったのだが、カスタマイズは基本的に各パーツのベアリング化を基本とすることにした。

カスタマイズの現状

ノーマルの4600C R.Gunnar Sprintはスプールに2つのステンレスBBとインスタントアンチリバースの3ベアリングだ。サードパーティからも種々のベアリング入り強化パーツが販売されていたが、中には精度があまり良くないものもある。理想はファクトリーチューン向けの純正ベアリング入りパーツだが、これを販売してくれる香川塩ビ工業という素晴らしいショップがある(いつもお世話になっております)。

まずはコグホイールをベアリング入りに交換。

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同時にコグホイル固定用のEリングを直径1mmのステンレスワイヤーに変更

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ベストタックルという伝説のアンバサダーチューニングショップがあるのだが、そこは5000番台と6000番台しか扱っておらず、今までは指を加えて眺めているしかなかったのだが、香川塩ビ工業がベストタックルとコラボして商品化をしてくれた。
あまりの嬉しさに即座に購入。

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上が2BBのウォームシャフト、下がベストタックルチューンのもの。

そしてクリックアンドコグもベアリング入りに。

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遠心ブレーキは、ブロックを外すことがなく0〜6のブレーキに調整できる6点遠心のものに変更

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ブレーキを変更したので、メインギアとピニオンギアも6点遠心用に変更

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左が6点用

そしておまけにマグネットブレーキを装着

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こうして一応出来上がったのだが、実際は2年間で実釣しながら試行錯誤した部分もあり、いきなりこの姿になったわけではない。

ちなみにベアリング数は
・スプール x2
・コグホイール x2
・ウォームシャフト x2
・クリックアンドコグ x1
・インスタントアンチリバース x1
の8個。
さらにハンドルにも4個入っているので合計は12個となる。

ここまでやって、では最新の国産リールに敵うかといえば、まず無理であろう。ただ、この手間暇が楽しいからやっているだけだ。

この2年間で釣りに行けたのはわずかに6回に過ぎない。4ヶ月に1度のペースだ。ただ、やっと感染拡大も抑えられてきて、10月からは緊急事態宣言も解除となりそうなので、これからは心置きなくこのリールを使い倒そうと思う。




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