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『ほんとうのハウンド警部』【#まどか観劇記録2020 53/60】


一筋縄ではいかないストーリー

観終わってからずっとモヤモヤしています。(いい意味で!)
あの作品から何を受け取るべきだったのだろう。何を受け取り損ねたのだろう。このまだ考えなければいけないような気分は作品と演出家からのメッセージだと思うのですが、なかなか答えが出ないのです。

この作品は一見したところ喜劇でした。
新しい生活様式にも慣れてきちんとルールを守っている観客が思わず笑い声をもらしてしまうほどわかりやすく入りやすいコメディ仕様。客席からの笑い声なんて久しぶりに聞いたななんて感傷に浸っていたのですが、そう簡単には帰してもらえませんでした。

舞台の上の現実と虚構が混ざりあい始めたあたりではまだ油断していました。なるほど、そう来たか、なんて主人公のムーンばりにこの作品を批評できるかもなんて思っていたのに。あれよあれよという間にこちらまで混乱させられて、ラスト、大量の冷や水を掛けられたような心持ちで終わりました。その間、体感ではわずか5分。たった5分で75分間が書き換えられてしまった。

あれは、なんだったのでしょう…。


劇中劇の演出の巧妙さ

作品は劇中劇を見る舞台評論家二人という構成で進みます。

事前にホームページなどで『ほんとうのハウンド警部』について知ることができる情報で、すでに現実と虚構が混ざり合うなんて書いてあるものだから、なるほどこの劇中劇に二人の評論家が紛れ込むのだなと警戒して観ていたのです。

しかし、この劇中劇はどうにも…作中の舞台評論家二人の言葉に同意しますが“一流の作品には思えない”感じ(笑)。せりふ回しが大げさでどうにもわざとらしいし、登場人物同士の関係もわかりやすい三角、いや四角関係、その上ミステリーという状況もよくある設定です。

と、言うのが、実は罠だったのではないかと、今では思います。

リアルな舞台評論家二人に対して、あまりにわざとらしく作り物という印象を前面に出している劇中劇。こんな両極端が混ざり合うわけないという油断を誘っていたとしか思えません。とはいえ、リアルに近づいたわけではないのです。わざとらしいまま、すべてを飲み込んでいった。想像する中で一番ばかばかしくてありえないことが起きたというのが結論です。

覚えやすい設定、せりふのせいで同じことが繰り返されていることにすぐさま気づいた我々観客は、そこに舞台評論家の一人が参加し始めたのを見て、主人公のムーンと同じセリフを心で思います。「何をしているんだ、さっさと元の場所に戻れ」と。

しかし、このわざとらしい劇中劇は底知れぬ恐ろしさを隠し持ったままそれを許さずすべてを飲み込みました。

私はしばらくの間、何が起こったのかよくわからなかったし、罠だったのか!と言った演出の巧妙さに思い至ったのは観劇した数日後という有様です。

演出の小川絵梨子さんに脱帽です。
そしてこの演出を可能にしたのは、リアルの部分から境界を飛び越えた生田斗真さんと吉原光夫演技があってこそだったと思います。長々とした堅苦しいセリフも音楽のように魅力的に聞かせるシーンは特に素晴らしかったです。

とても難しかったけれど面白かった。この作品くせものだなーーーー!


おまけ
最初から最後までずっと舞台上に死体役の方がいらっしゃるのですが、公演時間の75分間、ただの一度も自分の意志で動かないのです。なんというか、これまた思い切った演出だなと。


***今後の情報

舞台はシアターコクーンにて2021年3月31日まで上演中です。チケットもまだ買えそうです。

また、3月27日(土)14:00公演と18:00公演がライブ配信(アーカイブ付き)されるとのこと。チケット詳細は下記からご確認ください。
http://siscompany.com/hound/HoundStremingDetails.pdf

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