ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー‼"頂の景色・2"』【#まどか観劇記録2020 59/60】
2.5次元舞台といえば、の『ハイキュー‼』や『テニスの王子様』といった作品が気になっていたものの今まであまり機会に恵まれなかったのですが、いよいよ演劇『ハイキュー‼』がラストということで観劇しました。
長年の疑問に素晴らしい答えをいただいたので、そのことを中心に書きます。
・ボールという不安定要素をどう扱うのか
・点の取り合いという盛り上がりの多い中で全体の流れをどう作るのか
ボールの扱い
長年ずっと知りたかったのが、ボールの扱いについてです。
『ハイキュー‼』はバレーボールのお話ですので、試合のシーンを描くにはボールは必須となります。しかし、ボールなんて体育の授業で身に染みていますが、なかなか人間の思い通りには動いてくれないものです。客席に飛んで行ってしまったらどうするのだろうなどと心配していたのですが、さすが長年続いてきた作品、考えつくされていて見事でした。
その1:棒付のボールを黒子が動かす
舞台には白いフードを被った黒子(白子?)が登場し、長い棒付のボールを操作します。
これによってボールが作品の意図を離れてどこかに行ってしまわないようにコントロールすることができますが、その使い方もよく考えられていて、ひとつのボールの軌跡を表現するのに複数のボールを使います。そしてボールの動きに合わせてその瞬間に該当するボールに光を当てるという表現方法です。
これによってネットをまたぐボールも表現できるし、サーブであれば最初だけ本物のボールを使って(直後に黒子が回収)最初のインパクトを確保しつつ表現することもできます。
その2:プロジェクションマッピングを使う(ボールなし)
舞台ハイキューの技術力あってのものですが、プロジェクションマッピングを使うやり方です。
棒付のボールを使うのではできないスピード感の表現だったり、ボールそのものの勢いを見せることができました。
プロジェクションマッピングで驚いたのは、ところどころ登場人物もプロジェクションマッピングで表現されているのです。普通に会話が続いているのを見ていたら、どうにも片方の人がはけないなと思ったらプロジェクションマッピングだったとか。遠目から見ているとあまり違和感もなく受け入れられてしまうほどに技術は進歩しているのだと驚きました。
その3:照明とキャストの動きで表現する(ボールなし)
ボールを扱うプレーヤーをスポットライトで照らすと同時に、レシーブするのかスパイクするのかブロックするのかというキャスト側の動きで見せる方法。
その1でも思いましたが、照明の使い方が非常に細やかなので、表現の幅が広がるのだと感じました。一体どのくらいの照明をつかっているのだろう。
加えて、キャストの身体の使い方が本当にうまいと思います。
スローモーションが見えるというすばらしさ。アニメの表現で、見せ場になると表現がスローモーションになる演出があると思うのですが、それを実際に再現するのは難しく、ましてやバレーボールはボールを触る直前などはほとんどの場合が空中に跳躍している状態です。それなのに、スローモーションの動作からボールを触った瞬間の緩急を表現することができるキャストがすごいと思いました。アニメのシーンがそのまま目の前で再現されるのです!すごい!
といいつつみんなボール使いがうまかった。
演出の仕方でこんなに多彩にボールを違和感なく表現できるのに感心し、これならボールの扱いがうまくなくても事故は起きないと長年の疑問に素晴らしい答えをいただき満足しました。しかし、ラスト近くのシーンで普通にボールをサーブするシーンがあって、文句なしにお上手だったので、やっぱりできるという選択肢はきちんと持たれているのだなと感服しました。
ゲームコートの見せ方
次に試合のコートの表現にも感動したので書き残しておきます。
私は、舞台ハイキューが初見だったので、勝手に本物のバレーボールの試合のテレビ中継のようにコートを横から見る形で展開されるのだと思っていたのですが、舞台は後ろ半分が傾斜の奥行の広いステージとなっていて、そこで横にも縦にも斜めにもコートが展開されるという自在な空間構成でした。
傾斜による高さがあるので、縦に展開されても奥のメンバーまでしっかり見えるし、その方がポジションの取り方もよく見えます。ネットはこちらも黒子の方々がキャストの動きに合わせて動かしているのでひとつの動きごとに舞台が大胆に動くことが視界のバリエーションとしても見ごたえがありました。
ダンスをしたり、フライングをしたり、あらゆる方法を用いてバレーボールを表現していてその発想の多彩さに感心するばかりです。
クライマックスの作り方
少年漫画らしく、一点ごとにかける想いの表現がしっかりされていて、素晴らしかったです。たとえ登場人物を誰一人として知らなかったとしても、一人一人に見せ場があってそれが素敵なので全員が好きになります。この1点が入ってよかったーーーーと知らぬ間に手に汗を握って応援している自分がいました。
ただ、ひとりひとりに、一点一点にドラマがあるので、夢中になって応援していた最中、ふと試合は終わっていないということに気づきます。舞台作品としてすでにこんなに盛り上がってしまっていて最後まで持つのだろうかなんてお節介なことを考えたのですが杞憂に終わりました。
全体のストーリーにもきちんとフィナーレに向かう盛り上がりが用意されていたし、個人的に特に素晴らしいと感じたのは音楽でした。
音楽の盛り上がりが明らかにフィナーレに向かっているのを感じさせるので、否が応でも心が高揚します。音楽が感情にもたらす効果って本当にすごいですよね。
今回は演出的な工夫についてをメインに感想を書きましたが、2次元を3次元にするキャストの身体能力や努力、そして役者としての魅力もあふれる作品でした。思い出として過去の舞台映像が映し出されるのも胸が熱くなります。
様々な工夫が凝らされ、関係者のたゆまぬ努力があってここまで続いた作品なのだなと実感しました。舞台はやはり総合芸術だと思わせてくれた素晴らしい作品です。
**上演情報**
演劇ハイキューは今作で最後となります。
全国での上演に加え、東京凱旋公演の大千秋楽(2021/5/9)ではライブビューイング・ライブ配信もありますので、2.5次元舞台の代表作品をお見逃しなく。