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雑誌『モノノメ』で東京の湧水地「真姿の池湧水群」を辿る

〈東京の湧水地〉
JR国分寺駅から徒歩20分、国分寺崖線の下に「真姿の池湧水群」(ますがたのいけゆうすいぐん)という湧水地があります。
2021年10月、この湧水スポットを訪ねるべく、地元の人から「お鷹の道」と呼ばれている道を歩いてみることにしました。

きっかけは、同月に新創刊された雑誌『モノノメ』です。都市特集である今号の「湧出東京」という記事では、東京がどんな地形の上に成立した都市なのか、湧水地マップとして示しています。


『モノノメ』のカラーページにある湧水地マップを目にした私は、今住んでいる野川沿いの町も、国分寺崖線の下にあることを確認しました。国分寺崖線とは、国分寺から小金井・三鷹・調布・狛江を経て世田谷の等々力渓谷に至る標高差約15メートルほどの崖線で、「ハケ」と呼ばれる地形になっています。多摩川が気の遠くなるような時を経て作り出した、この国分寺崖線と野川の源流である湧水スポットまでの小さな旅路をご紹介していきます。

1.湧水地まで徒歩20分
GoogleMapsによると、JR国分寺駅から徒歩約20分という近場に目的地はありました。知らない町を歩くというだけで、これから観光するようなドキドキ感があります。
国分寺駅南口から町に降り立ち、通りを進むと、大きな下り坂がありました。

周辺の地形から、この坂道も国分寺崖線だと分かります。坂を下ると「お鷹の道」と書かれた手作りの標識が、これから辿る道筋を示してくれていました。住宅地を縫うように進んでいくと、道に沿って水路がありました。住宅と住宅の間の水路には板が架けられているところもあって、地元の人御用達の橋のようでした。整備された水路が枝分かれして宅地の間を走る町は、ちょっとタイムスリップしたかのような不思議な印象があります。水の流れに導かれるように、水路を上流に進むと、すでに「お鷹の道」に差し掛かかっていました。



2.お鷹の道
崖線下の湧水を集めて野川に注ぐ清流沿いの小道は、江戸時代、尾張徳川家の御鷹場に指定されたことにちなみ、「お鷹の道」という遊歩道として昭和47~48年に国分寺市が整備しました。
約350mの綺麗な細い道を歩いていくと、草むしりをする地元ボランティアの方と、観光中のご夫婦に出会いました。せせらぎを挟んで、お話ししていたところ、流れの中に小さな魚が泳いでいるのを見つけました。クチボソと呼ばれる魚には、別の名前もあるようで、夏になると地元の子どもたちがやってきて、捕まえては放していくのだそうです。
左手に水の流れを感じながら、細い道を道なりに進むと、右手側はこんもりした竹藪で覆われていきました。だんだん心細くなってきたところで、ついに広い道に出ました。



3.「真姿の池湧水群」(ますがたのいけゆうすいぐん)
看板や休憩所が観光地めいた雰囲気を醸し出しているものの、背後には小さな山がありました。鬱そうと生い茂っている木々の下には、赤い鳥居が立っていて、どうやらここが真姿の池のようでした。
「真姿の池湧水群」は、野川の源流の一つで、世田谷区二子玉川で多摩川に合流するまでの約20㎞を野川として流れていきます。
この池には伝説があり、絶世の美女といわれた玉造小町が病気に苦しみ、病の平癒を願い全国行脚をした際に、武蔵国分寺で願をかけたところ、「池で身を清めよ」との霊示を受けて快癒したといわれています。現在は弁財天が祀られています。池の水は静かで、水面すれすれに鯉がゆったりと泳いでいました。
真姿の池の奥にある、急勾配の階段を一気にのぼると、そこには落ち葉を敷き詰めた雑木林が広がっていました。遊歩道では、ウォーキングしたり、犬の散歩をしたりする方とすれ違いました。雑木林の中の看板によると、階段の上は武蔵野の面影を残す雑木林で、武蔵野台地の縁にあたる場所でした。つまり、いつの間にか観光地から国分寺崖線の上に到達してしまったのです。

〈湧水スポットで東京を知る〉
私は、近所の野川で東京の自然の多彩さに何度も驚かされてきました。川面に佇むサギやカワウ、鉄砲玉のように飛ぶカワセミなど、野川には多くの鳥たちが集まります。そして、遊歩道では、地域猫と町の人々の関わりの場面に触れるたびに、いつもほっとさせられています。
川沿いを歩いていると、河岸段丘の上まで続く坂道の傾斜も、季節ごとに変化する動植物との出会いも、歩くリズムと同じくらい確かに感じられるようになっていきました。今住んでいる東京の西側の町が自分の町だと思えるようになってきたのも、土地を体感する時間が日常的にあるからなのかもしれません。

今回、『モノノメ』をきっかけに、野川の源流で急坂の斜度を体感し、国分寺崖線のはじまりの雑木林を歩いてきました。足元にある地形の成り立ちを知って、自分の足で源流を確かめるという行為は、まるで日常に残された小さな冒険のようでした。
次回は、国分寺崖線をキーワードに、野川の辿り着く地点である等々力渓谷を目指してみたいと思っています。

#モノノメ

◉参考ホームページ
国分寺市ホームページ
https://www.city.kokubunji.tokyo.jp/shisetsu/kouen/1005195/1004229.html

【全ページ解説集つき】モノノメ 創刊号
https://wakusei2nd.thebase.in/items/51216334
モノノメ 創刊号(本誌のみ)
https://wakusei2nd.thebase.in/items/51225747