掲載体験記

きっかけ
 患者さんの質問に答えられなかったが、論文を引いても一件もヒットしなかった。過去のカルテを8年分くらい見返してみると教科書的な内容と全く違った。これはおかしくないか?と思った。

とりかかり
 まずは倫理委員会を通すためにたたき台を作る必要がある。当然ながら事故を避けるためには国際的に正当な手続きをしっかり踏まなければいけない。人体実験は結果が良くても許容されない。特に英文論文ではこの時点でアウトになる。
 カルテの記載から、定説に使われている記述情報(所見、検査データ、各種スコア)を全て書き出した。それでも全く分からないので似たような別の分野で調べられている検査を加えてみた。見事にヒット。綺麗に2つのグループに分かれた。

「無矛盾な公理の集合はそのものの無矛盾性を証明できない」が頭をよぎる。

 抜けがあると痛いので一応、研究倫理のweb講習を再度受けておいた。

執筆準備
 とりあえず全体的な話の流れを考えるために学会発表形式にしていつでも口演できるようにまとめて8分程度のスライドにした。
 最近数年の似たような和文の論文をひたすら読んで構造の共通点を見出した。数値とかを全部変えて話がスッキリするまで話の持っていき方を真似た。
 google翻訳(多分DeepLの方がbetter)で英語論文にしてみて、今度は似たような英語の論文と比較した。割と構造が違うが、英語論文の方が書き方はパターン化されておりシンプルだった。書き方があまり被りすぎると剽窃チェッカーに引っかかるらしいが全てオリジナルにならざるを得なかったので問題なし。
 論文の図表形式に合わせてスライドを修正。

執筆
 まずは結果を書いて、それから考察の項目をいくつかタイトルだけ入れた。
 メソッドを入れて除外した方がいい項目がないか、本当に数値が間違ってないか記録と矛盾がないかチェックした。意外とカルテの記載が間違っており、矛盾に満ちていたので事実関係を文字通り調査し、必要に応じて聞き取り。あまりに矛盾するデータは良いデータでも泣く泣く削除。ほんの一部で済んでるものは欠損にした。
 イントロダクションを他の論文と被らないように、なるべく最近の論文レビューに関連した話題に沿うように書き出す。新規制のある最後の話題につなげるようにする。論文レビューを手に入れるのがとても困難。ダメな施設縛りの反則を犯して大学のデータベースを使わせてもらった。病院で論文の閲覧権?を買っているようなところはダメな施設じゃないのでダメな施設を前提でどうしたらいいのか考えるとプレプリントを公開しているサイトや、たまに画像で公開しているところ(違法じゃないのか?)があるので参考にしてもいいかもしれない。言わなきゃわかんないし。
 イントロダクションにある項目にからめて上記の文献を踏まえて考察を書いていく。

投稿
 知らない分野だったので特に何も考えずに英文だけ校正してもらい、何となくgoogle検索してヒットしたものの中から掲載料のかからないものに出していった。だいたいが1週間くらいで返事が来て他のジャーナルを勧められた。最近はリジェクトとはっきり言わないのだろうか。査読に回ることもなかった。
 5誌目くらいでやっとリジェクトされない雑誌に行き当たるも「形式が違う」と言われて直す。よくわからないのでそのまま出したところ、なかなか辛辣なコメントがついて全文書き直しとなる。そこまで言うならなぜリジェクトしないのだろうと思ったがデータ自体に文句があるわけではなかったのかもしれない。こうした流れはだいたい教授や指導教官に指摘されてから投稿するものなので1人で書くときは辛辣なコメントは教授に見てもらったものと考えるしかない。それを考えると随分と優しく親切なものである。たまたま後ろのデスクに偉い評議員の人が数名いたので聞いてみたらイケる!とのことだったので安心できた。なんでそんな偉い人がこんないけてない病院にいるののかはたぶん聞いてはいけない。とにかくここは恵まれていた。わからない時は同僚に聞いてみるしかない。何人か論文を見せ合ったりもして、他人の論文に意見を求められることもあった。分野が被っていたらなにかしらまともなコメントができるものである。

 そしてコメントに従って書き直す。たまたま同条件の良さげな論文と思ったのを参考にしたがやはりジャーナルの書き方に合わせて話題の持って行き方を直す。考察の説明をくどくないくらいに細かくしたつもりだったが思ったより共通認識がなく意味がわからないと言われたので研修医に説明するようにくどくど説明してみた。

 統計はとても難儀である。そもそも学生の時にそんな講義なかったよなと。遠い記憶ではエクセル使ってやれと習ったがエクセル使ってる時点で信用ならないと思われるリスクがある(やはりNGのようである)。そして統計検定自体が前提とか補正とか母集団の違いとかよく分からないので使うまでが難しいけどRstanを使うようにした。これなら巨大な数のシミュレーションで標本集団が正規分布になる(あくまでも元の母集団にはなり得ない)。書籍のコードをそのまま改変して使った。最近は統計検定でpがどうこう言うのは流行らないようで推測までしないといけないらしくて敷居が高い。マルコフ連鎖モンテカルロ法の書籍が意外と充実しているのでオススメであるがパソコンが古いと動かない。

再投稿
 投稿したらアクセプトされてしまった。多分そんなに有名なジャーナルのでないような気がするのでそんなものかもしれない。ちゃんとしたIF5とかのジャーナルだと苦労しそうだがここではそんなものはターゲットにしていないので気にしてはいけない。

考察
 最初から英語論文を読んで構造を決める→投稿するジャーナルを決めてその形式にまとめて投稿するというのがやはり良いようだ。英文を直してくれる人が今はいないので節約のために形式を整えずにそのまま次に出すということをしたが余計な時間がかかった気がする(お金は節約できたけど)。
 図表をExcelで作ったけど表はExcelを貼り付けると編集が難しいので嫌われる。
 翻訳はDeepLが良いようだ(使ったことないけど)。
 やっぱりまとめたところで色んな人に見てもらうのが良い。
 知らない分野のジャーナルを適当にIFだけで選択すると思いがけずその分野のトップジャーナルに投稿してしまって余計な手間を食う。分野によってIFは低く出てしまう。
 統計はちゃんと勉強しよう(一番時間がかかった)。


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