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ゲームを支配するボトルネックを考える

1. アドバンテージの認識

 私は小学生のときからカードゲームが得意だった。当時は遊戯王をやっていた。周りの友達は「ドレイン・シールド」や「攻撃の無力化」というカードを強いと思っていた。それが弱いと説得を試みるも失敗した記憶がある。

攻撃の無力化(引用元
カウンター罠
カードテキスト
①:相手モンスターの攻撃宣言時に、その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃を無効にする。その後、バトルフェイズを終了する。
ドレインシールド(引用元
通常罠
カードテキスト
①:相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分だけ自分はLPを回復する。

 遊戯王はライフポイント8000を削ることが勝利条件の一つだ。当時一般的にアタッカーとしてのモンスターの基準値は1500~2000程度。上記のカードを強いと認識するのは、この攻撃を防ぐことで相手の勝ちを2ターン程度遅らせることができるというロジックだろう。
 一方でこれらのカードは相手モンスターを破壊せずに盤面に残らせてしまう。そしてこれらのカードを使った側のプレイヤーはカードを一枚失いながら、相手のモンスターを処理しなければいけない状況は変わっていない。なので不利になる。

 有体に言えば「アド損」ということだ。小学生のときの私の周りでの強い子と弱い子を隔てる大きな壁はアドバンテージという概念に気付いているかどうだったかであったように思う。負ける子はライフを削る/守るゲームと認識していた。それに対し勝つ子はライフを削るために必要なアドバンテージの削り合いとしてゲームを認識していた。

 小学生のときの私たちとは違い、読者のみなさんはアドバンテージという概念をもちろん知っているであろう。それでもカードゲームで勝つのは難しい。アドバンテージ以外にもゲームを支配しうる要素が存在するからだ。

2. ゲームを支配する要素

 ゲームを難しくしている要素はMTGの場合は土地システムである。

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 「アドを取る」ことが大事であることと同じぐらい「テンポを取る」ことも重要である。土地から出るマナにより使えるカードの枚数が制限されるため、仮に手札が7枚あっても全て使える場合は稀である。手札にカードがあっても、残りライフが1で相手の場に複数クリーチャーがいて使えるカードが1枚だとどうしようもないわけだ。

 テンポとアド、どっちがボトルネックになるかはゲームによる。そしてデッキによってどっちをボトルネックにしたいかは異なる。ゲームに勝つためには、自分の得意な部分をボトルネックにして相手の得意な土俵に立たないようにするべきだ。


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 例えば白系のアグロでは、軽いクリーチャーが多く序盤のマナを効率よく使うことが得意である。テンポがボトルネックになるゲーム展開が望ましいので相手のカードのコストを重くするカードが好まれる。

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 それに対しコントロールデッキではアドバンテージ回復手段に優れる。なので軽い除去で序盤のテンポがボトルネックになる展開を凌いでアドバンテージがボトルネックになるゲームに持っていくことを目指すことが多い。

 アドバンテージとテンポは代表的なボトルネックであるが、それだけではない。

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ライフを手札に変える手段がある場合や、ライフを直接削ることを目的としたバーンデッキの場合はライフがボトルネックになる場合もある。

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 攻撃することにより追加効果を得るカードをお互いが使っている場合には攻撃を続けることができるかが重要。つまり残りライフであったり、盤面の総打点がゲームを支配することになる。

 どのデッキにも長所短所があり、自分の有利な土俵で戦うことを目的にプレイされている。各選択で自分の短所を補う、あるいは相手の短所を攻める。そのいずれかの目的があるべきだ。相手はテンポのゲームをやろうとしているのにアドバンテージを稼いでいたら、勝てるゲームも勝てないものである。

 MTGの初心者と中級者の間にはどこがボトルネックになっているかを見極める能力に大きな差があるように感じている。脱初心者のためにまず相手のしたいことされたくないことを認識し、自分の得意な要素をボトルネックにすることを意識するべきである。

3. テンポがボトルネックになるコントロール

 今までコントロールデッキでは1:1交換を繰り返しアドバンテージを取れる強くて重いカードを出して勝つことが目的だった。

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 《送還》は1マナのバウンスでアグロのテンポでの長所を潰すことが狙えるが、少なくとも私の知る限りコントロールでは使われなかった。相手の長所を潰しているが、相手のカードを減らさずに自分の手札を減らしている。これは同時に自分のアドバンテージでの長所を潰すということでもあるからだ。

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 だが、「エルドレイン」~「基本セット2020」の落ちた「真夜中の狩り」以降のスタンダードでは《消えゆく希望》がほとんどのコントロールで採用されている。このカードはおまけの占術がつき、《送還》よりも強いがそれは採用される理由としては割合としては少ない。それよりも大きいのはフィニッシャーの性質の違いだ。

 現スタンダードのフィニッシャーには二つの性質がある。

①コンボ性
②高いアドバンテージ獲得能力

 まず一つ目のコンボ性について。

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 《感電の反復》で《アールンドの天啓》をコピーして複数追加ターンを得るというのは現スタンダードではよく見る光景である。そしてこれが決まれば大きく勝ちに近づき、そのままゲームに勝つことが多い。このコンボのための8マナという明確な目標ができたということである。8マナが出るまで耐えさえすれば勝つことができるので、相手にリソースを使い尽くさせる必要はない。バウンスでもいいのでとにかくアグロにテンポをボトルネックにしたゲームを押し付けられることを回避できればいいというわけだ。

 もう一つの性質が高いアドバンテージ能力獲得能力だ。

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 《リーア》は今まで使った全ての除去がアドバンテージとなる。白単アグロにとって《リーア》を生かしたままターンを渡すことは実質的なゲームセットである。《船砕きの怪物》も全スペルで誘発し手札と今後のドローが倍になるようなものである。これらのカードにより、序盤はテンポを取られないようにしつつカードを使わせるという戦い方ではなく、序盤はアド損してでもとにかくテンポを取られないようにするという戦い方ができるようになった。カードを使わせるという自分の長所の押し付けが、テンポを取らせないという相手の長所の妨害に対し相対的に重要ではなくなったのだ。

 イゼット同士のミラーマッチでも、《船砕きの怪物》が盤面に定着さえすれば相手の《船砕きの怪物》は場に出る前にバウンスすればよい。除去としてバウンスが使われるようになった。現在のコントロール対決では相手のリソースを使い切らせることが減った。相手は使えるカードをまだ持っているがマナ総量がボトルネックになり感電天啓コンボを止められなかったり、《船砕きの怪物》の定着を許したりして負けることが多い。このときのボトルネックは《船砕きの怪物》を再度唱えることができるかのマナ総量、つまりテンポであることが多い。

 繰り返しになるが、自分の長所を押し付けて有利な土俵で戦うことが各カードを選びプレイする目的だ。ここで、目的である押し付ける長所の性質の変化により、その手段である軽マナ域のカードの採用基準が変わっていることが今のスタンダードで起きていることである。

 デッキの目的がわかるようになれば、同じデッキタイプでも細部の変化を追うことは面白いものである。私の書いたことに共感できる方はぜひともこれからも同じ楽しみを共有できれば、また共感できない方にはこれがきっかけで競技レベルでの楽しさを知っていただければ幸いである。

おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう