ラフィーンと心的制約
人は無意識のうちに自らの行動に制約を課して、答えから遠ざかってしまうことがある。
前回機能的固着という認知バイアスについて考察したのに続いて似た認知バイアスである心的制約について考察してみたい。
心的制約の例として有名なものに9点問題というものがある。
問題:1つの〇から出発して、9つの〇すべてを通る4本の直線を一筆書きで引け
やってみよう。
答えはスクロール
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回答例1
9つの点が作る正方形の外に飛び出すという発想をできただろうか?
回答例2
さらに型破りな解法にこんなものもある。
問題文には〇の中心を通らなければいけないとは書いていないから、4本どころか3本の直線で結べる。
多くの人が上の図のグレーの領域から出る線の引き方をしてはいけないと、自分でありもしない心的制約を課して、解法から遠ざかってしまう。
このような状態になる過程はこうだろう。
まず直線で結べる点は最大3つであることから、3つを結ぶ直線を引いてみる。
たとえばこうであったり
あるいはこう。
そこから一筆書きできる線で結べる〇は最大で二つであるので、そのような線を追加してみる。
とやっているうちに、いつの間にか正方形に囚われてしまうのだろう。
はじめに試した方法以外の方法を意識の外にやってしまう。自分で勝手に課した制約の中で解けない問題に取り組んでしまうのである。
このような心的制約をTCGでも感じることがよくある。
例えば《策謀の予見者、ラフィーン》に対してだ。
なるほど、強いクリーチャーがいるらしい。どうしたらうまく除去できるだろうか。
ラフィーンのテキストはこちら。
護法がついているので後手2ターン目の2マナ除去では間に合っていない。打ち消されない除去や1マナの除去を使うには…と考えていればもう閉じた正方形の中である。
護法を持っているのであれば無理して除去するよりも、場にいても強くない状況を作ったほうが楽なのではないか。
もしラフィーンのテキストがこうだったらどうだろう。
誰も使わないだろう。《策謀の予見者、ラフィーン》は出たターンに誘発したり、複数のクリーチャーで攻撃できてこそ強い。
このことはヒストリック級のカードであった《光輝王の野心家》がArenaフォーマットでリバランスされて(解除済み)誘発がターン終了時になったとき、アルケミーですらほとんど使われなくなったことからよくわかるのではないだろうか。
ルーティングがついているとはいえ、1重いナーフ後の野心家は弱い。
となれば必ずしもラフィーンそのものを除去しなくてもよい。2マナのラフィーンが強いための条件となっている部分を処理するというアプローチも可能で、それは除去耐性を持っているラフィーン本体の除去よりも簡単なのである。
そのような発想で、相手のラフィーンを強く使わせないようにしながら、自分は3を強く使うというアプローチを取っているのが今年度世界選手権優勝デッキのグリクシスや、前環境のティムールタイタンである。
2マナで除去を使い3マナで《鏡割りの寓話》を出す。打点ではイーブンな状況でも宝物を使い、上のレンジで勝負をすることもテンポ損せずに後からラフィーンを処理することもできる。
相手の脅威を直接処理するのではなく、それが強い条件を壊すことが成功したのは私の経験だけでも今回が初めてではない。
去年の《軍団のまとめ役、ウィノータ》が環境を支配していたときもそうであった。
私はその環境下でイゼットコントロールで世界選手権の権利を手に入れた。重要な発見は「4/4/4バニラは強くないのでウィノータは処理しなくてもよい。ウィノータを誘発させるための軽量クリーチャーを効率よく処理できれば勝てる」というものだ。
赤いデッキでタフネス4を除去することは簡単ではないが、軽量クリーチャーを効率よく除去することは簡単であった。一度失速させればウィノータを誘発させるためにクリーチャーを出して待って殴るまでの2ターンがかかる。
この戦略はウィノータをどう守るか/倒すかにプレイヤーの意識が集中していたからうまくいったところもあるだろう。
目的達成のための手段は見方を変えることにより一気に簡単になることがある。
殆どのプレイヤーが正方形の中で試行錯誤をしている。9点問題と違ってもしかしたら正方形の中に正解はあるかもしれない。しかし、既に探しつくされた正方形の中に答えがあることは稀である。正方形を突き破ってブレイクスルーを探しに行こう。
おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう