見出し画像

掌編 「真珠」

 鉄道のレールに石を置く代わりに、真珠を置いた。砕ける様は、虹がかかるようだった。列車は何事もなかったかのように、ぼくの目の前を通り過ぎていって、どこかで人を轢いたかもわからない。
 手元には、片方だけの真珠のピアスが残った。もう役には立たないだろうと思った。猫を捕まえて、耳に嵌めてやった。猫の血は甘かった。いや、ぼくの血だったのか? 引っ掻き傷はやたらに痒い。痒いは甘い、と思ったのは本当に無根拠だけれど、その発想自体は一体どこから来たのだろう。きっと誰かが考えたことだろう、とぼくは思う。ぼく以外の誰かが考えたことだ。それが、何のきっかけか、ぼくの口を突いて出た。猫の血がきっかけなのかもしれない。猫の血を舐めると、そんなことを感じ取るのか? それでも、何かを考えつく誰かとぼくは、そう遠くないように感じる。
 途端、猫にくれてやったピアスが欲しくなる。真珠はどんな味がするのだろう。噛んでみて、割れるのか、砕けた欠片はぼくを傷付けるのか。真珠で開いた傷口は、どんな色をするだろう。
 まるで、問いを生み出せば、誰かが答えてくれると思っているみたいだ。
 傲慢。
 その通りかもしれない。
 ところで、傲慢とはどんな漢字を書けば良かっただろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?