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2021年読んでよかった本5選

今年は仕事でしこたま本を読んだのですが、それに対してやりきれない思いを抱えており、なんなら正月休み中にも読まなきゃいけないものがあってムシャクシャしているので、気持ちを昇華させるためにこういう記事を書いてみます。年末年始のお休み向けでもなんでもなく、職業的な視点でも個人的にもおすすめというわけでもなく、ただ自分が「これよかったなあ」と思った本の感想文です。

①『オオカミと野生のイヌ』
近藤雄生、澤井聖一/著  菊水健史/監修 エクスナレッジ

なんといっても写真が綺麗で、ぱらぱらめくるだけでも楽しめます。写真の邪魔にならない塩梅の、でも薄くなりすぎないテキストで、オオカミやキツネやそれに近い獣たちの生態も紹介してくれます。

オオカミたちはマズルがシュッとしていて目つきが鋭くて、格好いい写真がひたすら続くんですが、そんななかぱらぱらページをめくっていくと突如現れる小型犬……。それが主題じゃないのは分かってるんですが、あの脱力感を味わってほしくて、職場で何人かに見せました。良い。

紙も装丁もしっかりしていて、満足感のあるボリュームのわりには手頃な価格と思ったんですが、最近はこんなもんなのかな。何年か前にこの手の猫の図鑑を買おうと思ったらやたら高かった覚えがあるので、安いなあと思いました。「世界でいちばん美しい~」じゃないところもいいですよね。(世界でいちばん美しいが悪いわけじゃないんですが、そろそろ節操がなくなってきて辟易はします。)

②『やけに植物に詳しい僕の街のスキマ植物図鑑』
瀬尾 一樹/著  ‎ 大和書房

タイトルと帯でピンとくる方もいるかもしれませんが、やけに植物に詳しい悟空さんの本です。(悟空のTwitterは現在休止中)

本書では悟空の人格はなりを潜めて、植物図鑑として真面目にしっかり、だけど親しみやすく、そのへんの植物を解説してくれます。紙面のデザインも見やすく現代的で、本の厚みも薄すぎず厚すぎず、気軽に手に取って読みやすいです。仕事柄、こういう本があるとめちゃくちゃ助かります。ありがとうございます。

街に生えている植物ってどれも同じに見えるんですが(すみません)、それぞれに特徴があって、これとこれって別の植物だったんだなとか、何気なく見てたこれってこの花だったんだとか、身近で小さな発見がとても楽しいです。気軽にお散歩に出られるようになったら、この本を片手に街の散策に出かけたいですね。

③『水を縫う』
寺地 はるな/著 集英社

様々なところで紹介されて、文学賞も受賞し、今年の課題図書にも選出されている小説で、もうあえて言うこともないんですが、だからこそ言いたいです、めちゃくちゃ良かったです。課題図書になっちゃったので夏前に急ぎで読んだんですが、出先で泣きそうになったもんな。

手芸好きの弟・清澄が、「女性らしさ」を求められることが苦手な姉・水青のウエディングドレスを作ると言ったことをきっかけに、母、祖母、離婚した父やその友人たちの日々が揺らぎ、自分に枠組みされていた「普通」を見つめ直す連作です。というと近頃のセクシュアリティや多様性にフォーカスした小説のようなんですが、そんなに仰々しくなく日常的というか、自分にも「普通」じゃないことがあるかもしれない、自分らしさとして認めていいのかもしれないと思える身近さがあります。

姉のウエディングドレスと作るという目標点がありつつも、日常は静かに流れて行って、その流れていく時間のなかで悩み、葛藤し、それぞれが自分の中に気付きを得ていきます。終盤に物語が加速していく展開はいくつもの川が合流して勢いを増していくようで、そう、「水を縫う」なんですよね。格好つけた言い方したみたいになりましたけど、本当に、ああだから『水を縫う』なんだな、と思いました。清澄と水青の名づけのくだりとか……。

また、多様性のお話でもあるんですが、まさに「今」のお話だなと思います。多様性の時代と叫ばれて、世の中の「普通」が揺らいで、自分を見つめ直し始めているまだ不安定な時代のお話というか。こんなに悩まなくていい時代が来るといいなと思うし、良い意味で、このお話が時代遅れになるといいなと思います。今が一番面白いです。

④『関西弁で読む遠野物語』
柳田 国男/著 畑中 章宏/著・翻訳 スケラッコ/イラスト  エクスナレッジ

こういうのを待ってたんや。

民俗や山の怪異って興味あるんですが、いざ遠野物語を読んでみようと思うとやっぱり文章が難しくて、いや、今はいいかな……となりがちだったので、軽く読めて分かりやすい本が出て嬉しいです。関西弁ってなんか知らんけど関西生まれじゃなくても親しみがありますよね。なんなんやろ……。若者言葉もやたらエセ関西弁使いたがるし。

そんないい加減なノリで関西弁に翻訳されたわけではなく、元は遠野の伝承が語りによって受け継がれてきたものであること、著者の柳田国男も兵庫の人で、関西弁で人に語って聞かせてたかもしれないよね、というバックがあります。ちゃんとしてる。

また、遠野物語に収録されている順序そのままではなく、妖怪、神様、不思議な話、などお話のジャンルごとに再構成されているので、カジュアルに読むにはとてもとっつきやすいです。イラストも民話っぽくてかわいい。

⑤『われら滅亡地球学クラブ』
向井 湘吾/著 幻冬舎

良かったというか、今年読んだ中で一番好きだったな……。私の好みの問題なんですが、これが一番好きでした。

隕石が接近し地球の滅亡が迫っている、そんなどうしようもない終末期の少年少女のお話です。世界の滅亡に対して抗うわけではなく、もう滅亡は滅亡として受け入れていて、自分たちは大人になれないし、授業は自習になってしまうし、日々人が失踪していくし、じゃあ自分たちは死ぬまでに何をしようか、と模索していく姿が眩しくもあり切なくもあります。

だいたいの終末ものはこの前段階の時期が主軸になるんですよね。地球の滅亡に対する研究、武力による抗争、政府の情報隠蔽からの民衆の暴動など、そういうものは全部済んでいて、他の終末ものだったらナレーションベースで過ぎる時期が舞台(たぶん)。そういった混沌のなかで家族を亡くていたりもするし、シェルターへの避難計画はあるけどそれに対しての疑念と諦観はあるし、物資も限られていて、絶望した人から消えていく。滅地部は高校生3人+中学生1人とまだ子どもで、だからこそ絶望にまで至らないというか後ろ向きなポジティブというか、なんだろうな。まだ勉強したいことはあるし、人が消えた自然のなかにやってみたいことは生まれていくし、新しい命の誕生に全力をかけて祝福できる。子どもたちだけでできることには限界があったりもするんですが、なかなかに強かで、等身大に精一杯生きている姿に胸を打たれます。

説明が下手すぎて自分で引いてるんですけど、終末を前にした静かさ、そんななかの生き様、中高生が主役なりのコミカルさのバランスがとても私好みでした。私がこれを好き。とても。

余談ですが(本の話以外興味なければ飛ばしていいです)、2021年はこの滅地部と「結城友奈は勇者である 大満開の章」「ダンスマカブル」と、終わりかけの世界での少年少女の生き様のお話をたくさん味わえたなと思います。ゆゆゆは長い時代の中で自分は何をするのか・人として生きるとは何かを、ダンスマカブルは住環境や思想のぶつかり合いの果てで「世界」と「自由」を目の前にして何を選択するのかを、それぞれしっかり描かれていてとても充実していました。あとはバージョンアップ版だけど「NieR Replicant」も今年か。終わりかけの世界のお話って、人の生き様や他者への視線にフォーカスして描かれるから楽しいんですよね。


終わり方を考えてなかったのですが、以下は良いなと思ったけど読み切れてなくて選外にしたものや挙げようと思ったら読んだのが去年だったやつを載せてみます。ヌルっと終わります。


余計な説明はいらないな。あれです。レファレンスワークの紹介に注力してくださってるんですが、それを抜きにしても眺めてるだけで楽しい。

課題図書になるものって説教臭い印象があって個人的に嫌煙してたんですが、ヤングケアラーを題材に扱いつつもしつこくなく、同情なのか恋愛感情を抱いてるのかとか、思春期男子の悩みとか、読んでいてきゅんとしました。

野崎まどを履修してみたいけど連作も未完もな……と思っていた時期にちょうど発行されたので読んだ。もう映画。自分から時間削って一気に読んだ。発達したAIによりほとんどの人類が仕事をしなくてよくなった世界で、不調に陥ったAIのカウンセリングをすることになるSF。人間の発達や仕事とは何かを考えさせられながら楽しめました。楽しかった!

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