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1シャンテンは何種類か?

みなさん、こんにちは。

今年もまた麻雀noteの時期がやってきました。

今回は「1シャンテンや2シャンテンの形は何種類あるのか」を考えたいと思います。


1シャンテン形は何種類か

では、さっそくですが、1シャンテンの形は何種類あるのでしょうか

結論から言うと、手牌構成で分類すれば原則として3種類です。

1シャンテンというのは、ここではテンパイの一手前の手牌の状態を指すものとしておきます。要は、あと1枚有効牌が来ればテンパイする手牌13枚のことです。

対して、テンパイ形というのは和了牌が来ればあがれる形です(形式テンパイ除く)。

誰しも麻雀というゲームを最初に教わるとき、「麻雀は一番最初に4メンツ1雀頭をそろえるゲーム」と教わることでしょう。

七対子や国士無双、流し満貫と言った変則的な和了形を除けば、原則として和了形はこの1種類しかありません。

では、テンパイの形は何種類あるのでしょうか

テンパイ形は2種類です。

和了形は「4メンツ1雀頭」を作るものでした。そして、テンパイ形とはその一手前の状態でした。

ということは、テンパイ形は「メンツが4つない(3つしかない)か、雀頭がないか」どちらかの形をしているはずです。

これを「雀頭の有無」という観点から分類すると、前者は雀頭があってメンツが足りてない形で、後者は雀頭がない形です。

テンパイ形はこのどちらかの形をしています。

最初に戻って、1シャンテン形はテンパイ形よりもさらに一手前の状態なので、「雀頭がないか、3メンツない(メンツが2つしかない)か、メンツの素となるターツが足りないか」の3種類になります(ターツオーバーまで数えれば4種類)。

以下この問題について考えていきます。

シャンテン数とは何か

そもそも任意の手牌13枚を前にして、この手牌は「~シャンテン」であると判断するにはどうすればよいでしょうか。

この問題に関しては「シャンテン数を数えるための公式」があります。詳しくは以前、「シャンテン数の数え方」というnoteに書きましたので、それを引用します。

手牌向かって左側から、
① ブロックの個数を数える(上限は5個。6ブロックも5個と数える)
② メンツの個数を足す
③ ①と②の合計を8から引く

※例外 「5ブロック0トイツ」の場合、1を引く。
やるのはこの3ステップです。

まだちぃ「シャンテン数の数え方」

これを式として表現すれば、

8-(トイツの有無(有り=1、無し=0)+メンツの数×2+ターツの数×1)=シャンテン数

です。

ただし、適用する際のルールが2つあります。

1つはブロック数は最大で5つまでカウントできるというルールです。

もう1つは、「メンツとターツの合計」は4つまでカウントできることです。

ブロック数の最大が5であるというのは、6ブロックあっても5ブロックまでしか数えないという意味です。

「メンツとターツの合計」が4つまでというのは、たとえ5ブロックあっても、雀頭候補となりうるトイツが0個ならブロック数は4までしか数えられないというルールです。

麻雀は4メンツ1雀頭を揃えるゲームなので、5ブロックの内訳としてメンツ枠が4つ、雀頭枠は1つだからです。なので、2個目以降のトイツは刻子の種としてターツとしてカウントします。

以上述べましたが、「~シャンテン」というのは要するにこの8から引く数がいくつなのかで決まります。

この8から引く数の合計が7ならその手牌は1シャンテン(8-7=1)ですし、6なら2シャンテン(8-6=2)です。

手牌の表し方について

まず手牌の構成を

雀頭:メンツ数:ターツ数

のように表記します。

・和了形

・140型

例えば、和了形は4メンツ1雀頭でターツが0個です。

和了形(140型)

なので、1:4:0(1雀頭:4メンツ:0ターツ)となります。「:」を省略して140型と書きます。

ただ、和了形という形は他のイーシャンテン形とかと違って14枚形である点が特殊です。どう特殊なのかというと、和了形以外の形は全て13枚形である点です。

これに関して、私は以前、和了形を「8から引く数の合計」が9になる手牌としたため「-1シャンテン」であると理解していましたが、現在ではこの言い方は正確でなかったと思っています。

というのは、テンパイ形と和了形との違いはどこにあるかというと、テンパイ形はツモってきた14枚目が不要牌であるのに対して、和了形は和了牌であるというのが違うだけで、ツモる前の形(13枚形)には差がないからです。

ですので、14枚形である和了形を「-1シャンテン」として特別に扱う理由は一貫性を欠くのではないかと思うようになりました。

・テンパイ形(0シャンテン形)

次はテンパイ形です(以下は画像の14枚から中を切った時のシャンテン数を指しています)。

ちなみにシャンテン数というのはテンパイまでにあと何枚有効牌と不要牌を入れ替えなければならないかという数字なので、テンパイは0シャンテンになります。

先ほど申し上げた、「8から引く数の合計」が8になる手牌を指します。

このテンパイ形は和了形からみて、雀頭かメンツのどちらかが足りてない形です。ゆえに、雀頭の有無で040型と131型のどちらかになります。

これを先ほどの公式に当てはめて検算すれば、

・040型


040型は、4メンツが出来ていて雀頭のない形です。要するに単騎待ちのテンパイです。

テンパイ形(040型)

8-(トイツ数0+メンツ数4×2+ターツ数0×1)
=8-(0+4×2+0)
=8-(8)
=8-8
=0
0シャンテン(=テンパイ)です。

・131型

131型は、雀頭と3メンツが出来ていてターツが残っている形です。このターツがメンツになれば和了となります。

テンパイ形(131型)

8-(トイツ数1+メンツ数3×2+ターツ数1×1)
=8-(1+3×2+1)
=8-(8)
=8-8
=0
0シャンテン(=テンパイ)です。

雀頭を作る方がメンツを作るよりも、変化も含めて圧倒的に速いのがわかると思います。

・1シャンテン形

では、1シャンテン形はどのようになるでしょうか。

1シャンテン形はテンパイ形からみて一手遅れた形です。先ほどの式で言うと、8から引く数の合計が7になる手牌です。

これは雀頭メンツターツのどれかが一手足りない形になるので、031型か122型か130型の3種類になります。

以下、これらも検算して確認しておきます。

・031型(ヘッドレス形)

031型は、雀頭となりうるトイツのないイーシャンテン形です。「ヘッドレス形」と呼ばれています。

ヘッドレス形1シャンテン(031型)

8-(トイツ数0+メンツ数3×2+ターツ数1×1)
=8-(0+3×2+1)
=8-(7)
=8-7
=1
1シャンテンです。

・032型(031型のターツオーバー形)

032型もヘッドレス形ですが、各ブロックの合計が031型よりも1だけ多くなる(のでシャンテンが進む)ように見えます。

しかし、「メンツとターツの合計を4までしか数えない」というルールがあるため、032型は031型とシャンテン数は変わらず、032型は031型のターツオーバーの派生形となります。

ヘッドレス形1シャンテン・ターツオーバー(032型)

8-(トイツ数0+メンツ数3×2+ターツ数1×1)
=8-(0+3×2+1)
=8-(7)
=8-7
=1
1シャンテンです。

・122型(2メンツ形)

122型は「2メンツ形」と呼ばれている形です。3メンツない1シャンテン形です。

2メンツ形1シャンテン(122型)

8-(トイツ数1+メンツ数2×2+ターツ数2×1)
=8-(1+2×2+2)
=8-(7)
=8-7
=1
1シャンテンです。

「完全1シャンテン※」というのはこの122型の一種です。

・130型(くっつき形)

130型は俗に「くっつきテンパイ」と呼ばれている形です。

「テンパイ」という名前はついていますが実体はイーシャンテンです。ターツが足りていないので、ターツができればテンパイする形です。

「くっつき」というのは、孤立牌に有効牌がくっついてターツができることを指しています。

ターツというのはトイツやメンツよりも作りやすいため、このテンパイの受け入れがもっとも広くなります。

孤立牌に有効牌がくっついて聴牌する前提として、雀頭候補になるトイツが1つ以上あることが必要です。トイツが2つある場合にもくっつきと呼びうる形にはなります。その場合、2メンツ形にも取れる形となります。

くっつき形は広さ以外にも例えば、「リーチ宣言牌がくっつき形を否定するなら関連牌濃厚になるな」どの特徴があります。

くっつき1シャンテン形(130型)

8-(トイツ数1+メンツ数3×2+ターツ数0×1)
=8-(1+3×2+0)
=8-(7)
=8-7
=1
1シャンテンです。

以上より、1シャンテン形は大きく見れば3種類あります。

・雀頭がないのが「ヘッドレス形(031型)」
・メンツが3つないのが「2メンツ形(122型)」
・ターツが足りてないのが「くっつき形(130型)」

です。

このような大きな括りの中で、ターツオーバーの032型や、完全1シャンテン形などが位置付けられるべきだと思います。

一般的に、雀頭、メンツ、ターツの構成要素は、ターツ、雀頭、メンツの順にできやすいため、テンパイのし易さはそのまま「くっつき>ヘッドレス>2メンツ形」となります。

・2シャンテン形

さらに、2シャンテン形がどのようになるかも考えてみます。

2シャンテン形は、8から引く数の合計が6になる手牌です。

これは、030型か022型(023型)か121型か113型(114型)の4種類、()のターツオーバー形を含めれば6種類です。

8から引く数の合計は6でなければならないので、メンツが3なら、雀頭やターツは0にしかなりません(0+3×2+0)。

ターツオーバー形をどのように扱うかは置いておいて、これ以外の形がありえないのを示せるのがこの分類法の意義です。

とりあえず雀頭の有無で分岐して、雀頭のない形であれば3メンツならターツは0ですし、2メンツならターツは2です(023型はターツオーバーです)。1メンツ形では2シャンテンにはなりえません(8から引く数が6にならない)。

対して、雀頭のある形だと、この8から引く数の6から雀頭分の1を引いた残りの5をどのように配分するかで、2メンツならターツは1ですし(1+2×2+1)、1メンツならターツは3まで行けます(1+1×2+3)。1メンツでターツが4だと「メンツ+ターツ=4」に抵触するのでこれはターツオーバーになります。

以下、これらも検算して確認しておきます。

・030型

2シャンテン(030型)

8-(トイツ数0+メンツ数3×2+ターツ数0×1)
=8-(0+3×2+0)
=8-(0+6+0)
=8-6
=2

2シャンテンです。

この3メンツが確定したヘッドレス形2シャンテンは、以前、天鳳TLの一部で「せせらぎリャンシャンテン」と呼ばれていました。

・022型(023型)

2シャンテン(022型)

8-(トイツ数0+メンツ数2×2+ターツ数2×1)
=8-(0+2×2+2)
=8-(0+4+2)
=8-6
=2

2シャンテンです。

こちらもターツオーバー型として023型があります。

2シャンテン・ターツオーバー(023型)

・121型

2シャンテン(121型)

8-(トイツ数1+メンツ数2×2+ターツ数1×1)
=8-(1+2×2+1)
=8-(1+4+1)
=8-6
=2

2シャンテンです。

・113型(114型)

2シャンテン(113型)

8-(トイツ数1+メンツ数1×2+ターツ数3×1)
=8-(1+1×2+3)
=8-(1+2+3)
=8-6
=2シャンテンです。

2シャンテン・ターツオーバー(114型)

結論

以上より変則形を除けば、

和了形は1種(140型)

テンパイ形は2種(040型、131型)

1シャンテン形は大きく分ければ3種、ターツオーバーまで入れれば4種(031型(032型)、122型、130型)

2シャンテン形は大きく分ければ4種、ターツオーバーまで数えれば6種(030型、022型(023型)、121型、113型(114型))

だと思います。

追記:2024.7.19

これに関して、雀頭候補になりうるトイツの数でイーシャテン形を分類する考え方があります。

例えば、井出・小林『麻雀技術の教科書』p99~p101では雀頭の数で分類を試みています(この分類は麻雀連合の須藤浩さんという方の発案と書かれてました)。

イーシャンテン形を、シャンテン数公式の8から引く数が7になる手牌の集まりと定義すれば、トイツの数は0~2にしかならないため、旧来のヘッドレス、くっつき、2メンツという分類より曖昧さがなくすっきりはします。

トイツ0個はヘッドレス形、トイツ2個で2メンツ形までは言えますが、トイツが2つでも「くっつき形」と呼びうる形が存在するからです。

例えば、3345m123678p677sみたいな亜両面+両面トイツの牌姿です。

3mを雀頭とみなせば(122型の1だとみなせば)、33m+45m123678p677sで2メンツ形だし、7sを雀頭とみなせば345m123678p77s+3m+6sの130型でくっつき形にも取れる形です。旧来の分類だとここに曖昧さがありました。

しかし実戦では、「この手はくっつきに受けるか」などと考慮していることや1雀頭形であっても2つの型があることには変わらないので、本書では旧来の分類をある程度踏襲しました。

twitterでの議論の経過

ターツオーバー型の分類について

発端はこのツイートでした。

1シャンテン形を、完全形を別に扱う4種類とする考え方への異論です。

この4種で分類する際の問題意識は、1シャンテン形の強弱の比較のためで、それ自体には合理性があると思いますが、定説というものがあるのかないのかもわからないため、手牌の構成によって分類する考えをまとめておこうと思いました。

これまで私は、ターツオーバーをどう処理するかでブレはあるものの、和了形から手牌の構成による分類を行ってきました。2014年時点で以下のようなツイートがありました。

こちらは『勝つための現代麻雀技術論(旧現麻)』(2014年4月)を読んで私が理解した2シャンテン形の分類です。

2シャンテン形を雀頭の有無で分けて、ターツが足りているか、充分か、多いかで6つに分けています。

その後、色川木通(いろかわあけび)さんという方から疑問をいただいたので少し考え直し足りしました。

一点目の疑問は「14枚形でのシャンテン数とは何なのか」という問いです。

私の認識では、和了形とは8から引く数が9になる手牌なので、和了形を-1シャンテンと言って言えないこともないのかも知れませんが、シャンテン数というのは、14枚形からAを切れば1シャンテン、Bを切れば2シャンテンというように、基準はあくまでも13枚形にあるので、和了形14枚を「-1シャンテン」という言い方はおかしいというのもその通りではと思い至りました。

二つ目は、ターツオーバー形の分類に関してです。

1シャンテン形で032型を独立させていない(031型の派生としか見ていない)のに、2シャンテン形で114型は独立させているのは筋が通らないのではないか」という疑問をいただき、この疑問ももっともだと思いました。

これらの問いによって、「欠-充-多」としていたターツの分類を、「ターツが足りているかー多いか」の二つに分け直しました。

その結果、私も以下の結論を取ることにしました。

現実的には、何切る問題等で031型と032型が分かれてなくて困る事態にはならないと思うので、032型は派生形で良いと思っています。対して114型はたびたび問題になる牌姿です。

要は、人間の都合で分かれているだけじゃないかと思いましたが、戦術というのは一面、人間のためのものなので、それで良いのではと思う気持ちがあります。

これに関して、ネマタはまた少し違う分類を試みているようです。

どう分類すべきか私にも自信はありません。

ただ、『令和版 現代麻雀技術論』p74では2シャンテン形を9種類に分類していますが、孤立牌が浮き牌かどうかでの区別は不要ではないかと思っています。

また、以下の分類の方が興味深いのですが、私はこれをまだ理解できていません。

完全1シャンテンについて

※1シャンテン形の122型のところで書きましたが、完全1シャンテンに関してはネマタから以下のリプライをもらいました。

彼曰く、

111m23p23sのヘッドレスが本来は完全1シャンテンだったと聞いたことがある

だそうです。

また

「ポンチーよし」(愚形残りも含む)の沼崎定石が昭和初期からある用語なのに対して、「完全一向聴」(良形限定)はそれよりだいぶ後から出来た用語。完全一向聴を説明する際に、いわゆる「ポンチーよし」の形と沼崎定石が引き合いに出されることが多かったことが混同される原因になったのではないか

とのことです。

思うに、「完全」の定義が

①余剰牌がない

という意味と、

②良形が確定している形

という意味とで分かれているように思われます。

先の浅見了さんの「ポンチー」のページにあった沼崎定石の例は愚形含みでした。

私見では、「完全形」という場合、この①と②の要素は両方必要です。

なので、完全1シャンテンは2メンツ形とヘッドレス形にしか存在せず、くっつき形にはないのだと思います。

なぜならば、孤立牌にくっついてターツを作るくっつき形は、良形が確定しないために②の条件を満たさないからです。

ですので、原理的にはあくまで1シャンテンは3種類であり(うに丸本では4種とされている。p8)、2メンツ形とヘッドレス形には「完全形」が存在し、くっつきには存在しない(ネマタ曰く「黄金」はあるのかもとのこと)という五のが私の理解です。

これに関しては今後の検討課題だと思います。

また、①に関してうに丸さんの本ではp9で「すべての牌が受け入れに機能している」という表現を用いていますが、「機能」とは何かがわかったようでわからないので、端的に「余剰牌がない」とした方がわかりやすいと思い、こっちの表現にしました。

おそらく「受け入れに関係している」と表現してしまうと111m23p23sの1mは受け入れには関係ありません。ただ、14p14s引きからの打1mなら良形に取れる「関係」がないわけでもないので、「機能」といったのではないかと理解してます。

ただ、じゃあ111m23p23789sとかだったときの789sはどう機能しているのか(切らないことでシャンテン数が維持されるという機能なのか)と考えると、機能の範囲がよくわかりませんでした。

「完全形」の定義については下の記事がとても良く整理されていたので貼っておきます。

まとめると、私の完全形の理解は

1シャンテン形は原理的には3種類です。

一般的には、

くっつき形>ヘッドレス形>2メンツ形

7枚形で比較すれば

・くっつき形(334p2345s)30/41
・ヘッドレス形(23m23456p)26/37
・2メンツ形(34p3367s北)16/16

その3つの中のより強い形として、いわばオプションとして完全形を位置付けます。

完全形(余剰無しかつ良形確定)
・ヘッドレス形(111m23p23s)28/28
・2メンツ形(334p3367s)20/20
・くっつき形には完全形はありえない

(くっつき形には、代わりにというか「黄金」(原義はタンピン三色と一通のくっつき形の両天秤)という形があります。ただ、黄金は手役(=打点)を念頭においた分類なので少しズレを感じます。)

くっつき形の中で一番強い(広くて良形率が高い)形は、

中膨れ三面トイツ+純正の三面単騎(345667m2345678p 45/52)

ではないか

と現在は考えています。

追記 2024.7.12

安藤もゆりさんが「暗刻+5連形+5連形」を挙げてくれました。

ヘッドレス形の完全1シャンテンを13枚に拡張したこの形はとても強いのを見落としていました。

評価値で言えば46/46⇒46で、中膨れ三面トイツ+純正の三面単騎の45/52⇒≒39より上です。

ネマタがすでに触れていたようです。

34567777m34567p

この形は11134567m34567pと比べて、7mの縦受けが3枚減りますが、最終形に五面張が残る可能性は高くなるのでその分、強くなっているらしいですが(私もそれはそう思います)、最終形をどのように評価値を補正すべきかを示せていないので、現時点ではなんとも言えない形です。

受け入れ、打点、最終形の三すくみをどう考えるかは4枚形の受け入れ(四連形)、打点(中ぶくれ)、最終形(亜両面)のところでも出てきましたが、大変興味深い問題だと思います。

テンパイの速さと和了までの速さ

受け入れ枚数の多い手牌イコール速くあがれる手牌ではないことは経験的に知られている事実だと思います。

例えば、名著『牌賊オカルティ』2巻15話で、スピードキングの異名を持つ些渡(さわたり)はこう言っています。

「つまるところ麻雀打ちの命はスピード、速さだ。しかしおまえら温室育ちの速さとは質が違う。俺の速さはテンパイの速さじゃなくアガリまでの速さだからだ」

『牌賊オカルティ』2巻15話

これは本当にその通りだと思うのですが、長い間私には、1シャンテンの段階でこれをどのように評価するのか、その方法がわかりませんでした。

余談ですが、以前、古書の戦術書を漁った時に知りましたが、昭和一桁台の頃はテンパイの速さ=和了への速さという認識だったようです(役なしであがれるし、リーチもない時代なので、認識が違いのかもしれません)。

……斯の如く聴牌に到達するに最も有利なる方法を執ることが絶対に必要である。和ることが終局の目的であるとしても、その目的たる和りに達する階梯たる聴牌に早く到達することを志すが当然であつて、聴牌の善悪等は第二次の問題であることは誰しも首肯出来るであろふ。

杉浦末郎『麻雀の戦術』(昭和4年)p119-120

少なくとも昭和を経た現代麻雀の認識は「テンパイの速さ≒和了までの速さ」であると思います。問題なのは任意の手牌を前にしたときに、これをどう評価するのかです。

一人麻雀練習機やpystyleさんのシミュレーター、今はなきツモアガリ確率計算機等には「和了率」が表示されます。これは受け入れ枚数にある程度連動しているように見えます。

しかし、受け入れ枚数と和了までの速さはイコールで無いと言うのです。かといって良形率がすべてというわけでもありません。

「良形受け入/全体の受け入れ」だとして、30/58の手牌と28/32、16/16の手牌だったらどの手牌が一番速い、あるいは価値が高いと言えるのでしょう。

絶対的な良形の受け入れ枚数で順位をつけるなら30/58が一番多いし、良形率で言えば16/16です。しかし、私の眼には28/32が一番魅力的に映っています。

この問題をどう解決したらよいのか長らくわかっていませんでしたが、この度、

「良形の受け入れ枚数×良形率」で出てきた数値を手牌の価値の比較の指標にしたらよいではないか

と閃きました。

例えば上の問題だったら、

受け入れ58枚中30枚が良形の手の評価値は、30*(30/58)なので約15.517です。

以下、28/32⇒24.5、16/16⇒16です。

ですので順位をつけるなら上から28/32、16/16、30/58となります。

これは、受け入れ全体の中でどのくらい良形になる受け入れがあるかという良形率と違って、受け入れ枚数の多寡に加え、受け入れた結果が良形になる割合を示す、いわば良形効率のようなものです。

この良形効率が高い手牌は、テンパイしやすく和了もしやすくなるのではないか、前述のテンパイの速さではなくアガリまでの速さを表せるのではないかと思いましたので、ここで一石を投じておきます。

ただ、手牌価値といった場合さらに打点を考慮しないといけないのでこれをそのままは使えないとは思います(打点に関しては、満貫の受け入れ枚数×満貫和了率みたいな、満貫効率みたいな指標がいるのかもしれない)。追記 2024.7.12

あとがき

菅野容夫『一しやん聴』

知っている人はそこまでいないと思いますが、菅野容夫(すがのやすお)さんという方の『一しやん聴』という麻雀戦術書があります。

本書の出版は昭和6年(1931年)の5月です。この年の9月18日に満州事変が起きますのでそれよりも前です。まだリーチ麻雀など全くない時代の話です。

1シャンテンの形を4枚形、7枚形、10枚形、13枚形というように、確定メンツ数を除いた部分で構成して分類し、天鳳の牌理機能のように受け入れを数えています。1シャンテンの受け入れ表が牌姿とともに1000以上載せられている奇書です。

私は本書の存在を全く知りませんでしたが、麻雀研究の大家である浅見了さんのサイト(麻雀祭都)をつらつらと眺めていて教わりました。

昭和6年5月、菅野容夫(すがのやすお)という人が「一しゃん聴」(文雅堂)という本を著している。これはさまざまなパターンのイーシャンテン型をいろいろな角度から検証したもので、厚さ3センチにも及ぶ大変な労作(古書価格¥4,000~¥8,000前後か)。興味のある人は古書店めぐりでも....

浅見了さんの麻雀祭都「ポンチーよし」より

「へえ、そんな本があるのか」と思い、すぐにAmazonで検索してみましたがひっかかりませんでした。

ただ以前、ウォルター・バジョットの『自然科学と政治学』を自分で訳してみたときに、大道安次郎訳の絶版本がどうしても手に入らず、国会図書館のデジタルサイトのサービス(国立国会図書館デジタルコレクション)を利用したのを思い出しました。絶版本をネットで閲覧できるサービスです。

すこし手間はかかりますが、登録すれば家に居ながらにして絶版本を読めるという素晴らしいものです。検索したら割と簡単に見つかりました。

昭和5年という時代

昭和5年と言えば今から93年前です。詳しくはないのですが、ここで麻雀がどのように受容されたのかを振り返ってみます。Wikipediaの「麻雀」の項からまとめます。

記録によると、1909年(明治42年)に清から麻雀牌を持ち帰った名川彦作さんという人が最初で、大正中期(1914年から1918年)以降はルール面において独自の変化を遂げつつ各地に広まったらしいですが、麻雀というものが一般に認知されるようになったのは大正12年(1923年)の関東大震災の後とのことです。今から丁度、百年前くらいですね。

Wikipediaには菊池寛が熱中したとあります。さすが菊池は「ギャンブルは、絶対使っちゃいけない金に手に付けてからが本当の勝負だ」という、大野伴睦の「酒は飲む以上わけがわからなくなるまで飲むべきだ」に匹敵する名言を残してるだけあります。

伝播の波はその後も拡大を続け、1933年~34年頃(昭和8年~9年)には、著名人が常習賭博(理由は花札もらしい)で逮捕されています。

久米正雄、里見弴(さとみ とん)、広津和郎(ひろつ かずお)などの、国語の資料集に載ってるような、いわゆる「鎌倉文士」たちが検挙されています。

以前、豊澤道生(とよさわみちお)さんという方の戦術書の中で、「(ピンフツモという不合理な「鎌倉ルール」を)昭和初期に鎌倉に住んだ文士たちが取り入れ、」云々という記述を目にしたことがありますが、この辺の人たちを指していたのだと思いました。

豊澤道生『麻雀・あがり方と得点計算』p123

文士賭博事件

この文士たちが芋づる式に検挙された事件を「文士賭博事件」と言うそうで、第一次と第二次があるようです。「福島民報」に記事がありました。

福島民報「1933(昭和8)年11月17日 久米正雄ら賭博で逮捕 「福島県 今日は何の日」」

この時は菊池寛が警察との間をとりなしてますが、結局、菊池も第二次の方で検挙されます。

これについては福地さんの記事も見つかりましたが、下のページが詳しかったです。

更に驚くべきことにはこの麻雀の一群は、同好の士の訃に接するやその靈を慰めると稱しては千點十圓の大賭博を開帳してゐたことが判明した(中略)三月一日には芝區田村町の吾妻屋旅館の一室で故直木三十五氏の靈を弔ふと稱して福田蘭童、多賀谷信乃、川崎備寛、淵川銀次諸氏で同樣千點十圓の麻雀を開いてゐたものである

https://naokiaward.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/91934-cbf2.html

ちなみにレートは1000点10円ないし15円くらいだったそうです(ちなみにルールは2000点持ち)。

当時のルールはアルシーアル麻雀であり、現在のリーチ麻雀とは点数体系が異なる。アルシーアル麻雀の持ち点は2000点で子の満貫(アルシーアル麻雀における点数の上限)と同じ点数である。

wikipedia「麻雀」の注20より

昭和2年の時点での10円の価値は2012年時点(1ドル約80円)での6000円くらいらしいので、2024年時点(1ドル約160円)だとさらに倍くらいなのかはよくわかりませんが、仮に6000円だとしても1000点10円なのでトビが12000円~です。

1ゲームどのくらいの所要時間だったのかわかりませんが、結構なレートにも見えます。菊池寛のWikipediaの項目には時事新報社の新米記者だった菊池の月給が25円とあります。

プレイしている連中はみんなそれなりに売れっ子なわけですが、1ゲームに新米の月の給料の半分とかだとかなり高額にも思えます。

以上から、昭和5年という年は、麻雀が一般に普及したとされる大震災の年から数えても8年が経過していますので、高度な戦術書が出版されるくらいに機が熟していてもおかしくはかったのだと思われます。

ブームの加熱ぶりからしても、このような奇書が生まれる素地もそれなりにあったのでしょう。

しかし、そんなこととはつゆ知らず、ほとんど100年前の本なので、どれくらい誤ったセオリーやオカルトに満ちているのだろうと逆の期待でページをめくってみましたがひっくり返りしました。その網羅性や問題意識の現代性からです。

本書の意義と限界

関係ない賭博の話に夢中になってしまいました。

さて、現時点から見た限りでの本書の意義と限界について私見を述べます。

本書の意義については、麻雀を合理的に解明しようとしたその精神と、1シャンテン形の受け入れ枚数を網羅しようとした点にあるでしょう。

牌姿だけで1000以上、1シャンテン形だけで約400ページは圧巻というほかありません。そのような本は現代でもないでしょう。

本書途中に出てくる上達法のコラムでも、現代と変わらないようなことを述べています。

また、研究姿勢についても次のように言っています。

『一しゃん聴』「合理的研究をせよ」

六、合理的研究をせよ

そもそも麻雀の研究も漠然と研究してはいけません。打牌に関しては殊に理論的に数理的に研究する様にしなければなりません。支那人の四十年五十年の牌歴を有する者は自分の経験で打牌しても理論的打牌と相違しないというふことになっても、我々は短時日でこれらと同等の雀技を得るにはどうしても合理的な研究に待たねばなりません。私が一しやん聴を上梓する様になったのも一(つ)はそんな理由から雀人をして麻雀の合理的数理的研究に突進せしめたいがために、不敏を顧みず合理的研究の先鞭をつけるものとして雀界に送り出したのであります。

『一しゃん聴』p155

牌歴は現在なら雀歴、雀人は雀士ですかね。雀技は何と言うのか。テクニックとか引き出しとかでしょうか。

使われている言葉が現在と違うのも面白いですが、非常に合理的な記述です。

また、なぜ研究の対象を1シャンテンにしたのかというと、早和了をするため(下の画像は「早知り法」となっていますが、「早和り法」の誤植だと思います)だと明快に言っています(ルールは現代のリーチ麻雀と異なりますが)。

この方向も合理的だと思うし、1シャンテンピーク理論にも通じるものがあると思います。

ちなみに文中の「兵牌」とは「手牌」のことです。「雀相」が何を指すのか私にはわかっていません(「捨て牌相」という言葉がありますが、同じように形の特徴くらいの意味なのかもしれません)。

本書の問題点として指摘すべき、一つ目は分類の方法です。

確定メンツを除いて潰していくこの1シャンテンの分類法で漏れやダブりがなかったか(ちなみに重複は結構あります)、あるいは実戦で使えるような結論が得られたのかという点です。

たとえば、『現代麻雀技術論』で行われているような、1シャンテンを2メンツ形、ヘッドレス形、くっつき形と3種類で分類はされていません。

そもそも「1シャンテンの定義」(本記事で言う「8から引く数の合計」)を考えた形跡がありません。

……要するに必要な関連牌(各論に於いては総論で説述せるものと相違し聴牌する爲めに必要な牌を云ふことにする。)を自摸するか吃するか碰するかに依って聴牌する様に手の中が成つて居ることを一しやん聴と云ふのであります。本論に於いて一しやん聴の形式を数牌に依って示すと数の組合わせなので非常に多くなります。それで符号で示すべく工夫したのですが思はしくないので一しやん聴の形式を大体数牌で示すことにしました。」(太字はまだちぃ)

菅野容夫『一しやん聴』p37 

たしかに1シャンテンを区別するための指標についての記述はありますが、「もう1枚有効牌が来ればテンパイになる状態を1シャンテンと言います」と言っているにすぎません。

とりあえずラベルを張り付けた意味はあるでしょうが、これだけだとほとんど何も言ってないに等しいと思います。

分類の仕方もたくさんあるでしょうが、「シャンテン数に応じた手牌の形は、シャンテン数の公式に応じた手牌の構成で分類されるべきでないか」と私は思います。

その結果、手牌の構成要素として雀頭、メンツ、ターツによる分類となり、例えば、「ターツ>雀頭>メンツ」の順に作りやすいため、それがそのまま「くっつき>ヘッドレス>2メンツ形」との順にテンパイしやすさになる等々と説明されるべきではないかと思います。

少なくとも本書にそのような判断は見当たらず、ただ、牌姿ごとの受け入れ枚数が列挙されているように見えます。

二つ目は記法です。

明晰な思考を表現できる記法の発見というものは、何事においても偉大な一歩であるのは論を俟たないと思いますが、菅野さんがどのような理由で「符号で示すべく工夫」をうまくいかないと判断したのかがわかりません。失敗であるとされた理由や内容は見てみたかったです。

この記法がうまくいっていれば、分類法自体が変わっていた可能性が十分にあると思うと残念でなりません。

三つ目は研究対象です。本書で扱われているのはあくまでも1シャンテンの「受け入れ枚数」であって「期待値」ではない点です。

時代の制約というほかないのかも知れませんが、そのような分類法、記法、対象といったいくつかの限界(だと私が思っているもの)を抱えつつも、本書が戦術史において巨大な足跡を残していることは間違いありません。

結局、私たちが普段何気なく使っている、例えば雀頭、ターツ(リャンター、カンター、ペンター)、トイツ、亜両面、中ぶくれ、四連形、両翼形、2メンツ形、完全1シャンテン、くっつきテンパイ、ヘッドレス、ブロック等々の麻雀用語、言い換えれば概念で物を見ることができるのは、先人たちの工夫や努力の巨大な集積のおかげであるというのがよく分かります。

巨人の肩の上にのる矮人(nani gigantum umeris insidentes)というやつです。

というわけで、本書をちらちらと見て私は大変驚愕したわけですが、その後の麻雀戦術でのオカルトの隆盛などを鑑みるに、本書の合理的な精神がどうして受け継がれなかったのかという疑問を持たざるを得ませんでした。

かくいう私も本書の分類法を咀嚼しきれていないので、これについては引き続き検討課題とします。

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