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アカネというゲームが大変面白かったので

3月末、スイッチさんのストアに現れた黒いサムネイル。銀色の髪の女が煙草加えてる姿が描かれた上に、赤い文字で「アカネ」と書かれています。価格は500円。価格の高いゲームが面白いゲームとは限りませんが、価格が安いゲームは「安かろう悪かろう」と残念なゲームであることが多い。サムネのロゴがWordかExcelから飛び出してきたようなフォントの場合、残念なゲーム率さらにアップ。普段ならスルーか。でも何故か気になるアカネさん。ちょっとサムネの先を覗いてみましょうか。

まずは紹介動画をチェック。どうにも怪しい日本語のネオンが彩る街の一角で、アカネさんとやくざの命の獲り合いが繰り広げられています。ドットのキャラが活き活き動く様はかなり好み。続いてストアページの紹介文に目を移します。

サイバーパンクな未来都市メガ東京を舞台に、1ヒット1キルの生きるか死ぬかの戦いがはじまる!

銀髪の少女アカネは、幼い頃、野良犬同然の姿で、サムライ道を教えるイシカワという男の道場の門を叩く。カツローという名の男への復讐を果たすべく、アカネはイシカワから日本刀と銃の扱いを学び、さらに門外不出の奥義を会得した。
数年の時が流れ2121年、アカネはメガ東京にいた。復讐の時がついにやってきたのだ。アカネは、この場所から生きて帰れるとは思っていない。目の敵にするあの男と手下のやくざの"クソ野郎ども"を、全員あの世への道連れにして死ぬ覚悟でいる。

もうアカネさんが気になってしようがない。ウィリアム・ギブスンのサイバーパンク小説や映画『ブレードランナー』と共に青春時代を過ごした者として、この雰囲気を見せられちゃ突撃するしかない。残念な出来だったとしても今なら170円。大好きなセブン-イレブンの牛乳寒天をうっかり床に落としたと思えばどうということはない。いや、落とした寒天を片付ける切なさ考えるとどうということはある。たとえが悪かったです。お金払ってCPUの天和を眺めるだけの昭和のビデオゲームに比べれば操作できるだけでも有意義。

ということで買いました、アカネさん。遊びました、漢字で書くと朱音さん。長いことビデオゲームと共に過ごし、沢山の作品に遊んできまして、痛そうなゲームに突撃しハズレを引いてしまったとしても、「そうそう、このがっかり!」「惜しい!このがっかり!」と、残念さを楽しめる仕様が実装されている我が身でありますが、残念ながら今回はその能力は必要ありませんでした。面白い。めちゃくちゃ面白い。あまりの面白さにセールじゃなく定価でちゃんと対価支払いたかったと思うほど。

アカネさんの宿敵たち

アカネさんはとてもシンプルな、見下ろし型のアクションゲームです。雑居ビルに囲まれた広場で、敵から一撃喰らうとそこでゲームオーバーという緊張感の中、それまでに何人道連れにできるか。そんなゲームです。わらわら沸き続けるヤクザを倒し続けます。敵はもちろんカツロー率いるクソ野郎の皆様。

クソ野郎の皆さんは4タイプ。まずはモブなヤクザさん。全身入れ墨ふんどし姿のモヒカンさんやら、映画マトリックス風な黒服サングラスな方まで、わがままファッション反社コーデな皆さんがわらわらと襲ってきます。一撃で倒せますが、アカネさんも一撃喰らうと終わりますので、モブとはいえ油断できません。
続いては戦車と呼ばれている大男。1ショット1キルの世界ですが、戦車は5発入れないと倒せません。ということですれ違いざまに斬ったり、遠くから撃ったりして倒すのですが、うっかりつかまれるとアカネさんがぼこぼこにされます。
3タイプ目は狙撃手。遠くからアカネさんを狙ってくる彼ですが、弾はこの後説明するガードを使うと弾き返すことができまして、慣れると大丈夫というか、はじき返した弾で倒す、かっこいい立ち回りができるので出てくるとワクワクします。
最後はサイバー忍者。こちらにダッシュ攻撃を仕掛けてきます。普通に攻めると刀は効かず、銃弾ははじかれ跳弾でこちらがやられてしまうという非常に厄介な彼。ダッシュ攻撃後、わずかに出来る隙を狙って倒します。

そんなクソ野郎どもを100体倒すと登場するのがアカネさんの宿敵カツロー。名前を漢字で書くと「活路」。カツローさん、基本はサイバー忍者強化版という感じで、100体目がレベル1、200体目がレベル3、300体目以降はレベルMAX。違いはレベル1は斬撃のみ、レベル3は遠距離攻撃、レベルMAXではダッシュ攻撃も繰り出してきます。攻撃を凌いだ先の一瞬に、刀の一撃でひるませた後とどめの一撃を喰らわすことができればアカネさんの勝利。

アカネさんの立ち回り

ここからはアカネさんの操作方法です。左スティックで移動、Aボタンで攻撃。アカネさんの武器は二種類。刀と銃。普通にAボタンを押すと刀で斬撃。ZLボタンを押すと銃を構えまして、この状態で左スティックで狙いを定めてAボタンを押すと銃を発砲。刀を振るうとスタミナゲージが減り、これが尽きるとしばらく刀を振れません。連続で10人斬ったら尽きる感じ。銃は撃てる弾に限りがありまして、弾切れ起こすと撃てません。残弾はゲージで表現されて、時間と共に少しづつ回復しますが、相手を刀で倒すと早く回復します。刀振り続けるとスタミナ切れ起こしちゃいますが、足を止めると回復が早まります。
この他にBボタンを押すとガード、Lボタンを押すとダッシュができます。ガードはボタンを押してる間、相手の攻撃をガード可能。ずっとガードすることはできず、一定時間でガード解除されるので、押すタイミングが大切です。ガードが最も活躍するのは狙撃手登場時。狙撃手紹介のとこで触れたように、ガードしてると敵弾をはじき返せまして、それで敵を倒すことも可能。ガードしてチュンチュンと敵弾はじいて敵を倒すのアカネさん超かっこいいです。
ダッシュは敵との間合い詰めたり開いたりするときに使います。囲まれた時の回避や敵との間合いを一気に詰める時に使います。アカネさん、スコアのひとつに連続キル数があります。まず敵を1体倒すとゲージが出ます。これが尽きる前に敵を倒し続けると連続キル数が伸びていきます。連続キル数は弾丸ゲージ回復にも影響しているので意外に大事。ダッシュで上手に間合いを取り、連続キル維持し回復を促す立ち回りも必要です。

このゲーム、画面下にゲージがあるのですが、これはアドレナリンモードとというモードを発動させるために使うゲージです。敵を倒し続けると溜まっていきまして、最大3ゲージ溜まります。ゲージが1本以上溜まってる状況でXボタン押すとアドレナリンモード発動。この状態になると、押した時に立ってた場所にサークルが現れまして、そこからアカネさんが移動すると直線が引かれます。で、移動した後にRボタンを押すと、引かれた直線上にいる敵を一掃できるドラゴンスラッシュという技が発動。そして、ゲージ3本消費して発動できるのがアカネさんの最大奥義ドラゴンスレイヤー。ボスを除く、すべての敵を一掃できます。

物語るチュートリアル

上記の操作を覚えることができるチュートリアルがあるのですが、このチュートリアルがいい。師匠のイシカワが子供時代のアカネさんに技を伝授する流れで進んでいきます。ちゃんと子供時代のアカネさんが用意されている。こういう限られたところに力入ってると、遊ぶこちらの想像力が掻き立てられてときめきます。ストーリー絡めて丁寧に操作説明してくれるチュートリアル。チュートリアルは基本1回遊べば十分ですが、僕はたまにイシカワ師匠に会いたくなってチュートリアルプレイしてます。

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1つしかないステージに詰まった魅力

アカネさんの扱いが分かったところで、戦いの舞台を見てみましょう。ビルに囲まれた広場。ここがアカネさんが命を懸けて戦う決戦場です。周りのビルには「地元の食べ物」や「夕食」など、店名とは思えない日本語の看板に溢れています。道頓堀グリコサインのような看板もあります。広場にはジャンクフードのデジタルサイネージや「揚げた魚」と書かれたキッチンワゴンがあり、広場中央の「良い読書」という看板のお店の前では、なんだかよく分からない生き物が呼吸してます。サイバーパンクな舞台=怪しげな日本語の看板、というのは、やはり映画『ブレードランナー』の冒頭のイメージの影響が大きいでしょうか。燃えてるバイクはAKIRAっぽくもある。薄暗い路地裏に輝くビビットな色遣いのネオンやデジタルサイネージがいかにもサイバーパンクな雰囲気で、殺伐とした斬り合いの舞台を盛り上げます。広場中央の「良い読書」の上には読書するパンダが描かれていまして、「新潮社のブックスタンドかな」と思わせる作りだったりするので、思ってるより日本文化を理解した上で、サイバーパンクな世界を作り上げてるのかもしれません。戦いの舞台はここひとつだけ。とはいえ、一つのエリアに作品の世界観がぎゅっと詰め込まれています。その作りを観察して、舞台をあれこれ想像するのが楽しいです。

アカネさんはブラジル生まれ

アカネさんが世に出たのは、2018年9月のSteam版今回僕が遊んだスイッチ版はその移植版となります。ゲーム部分はどちらも一緒ですが、Steam版ステージの周りに通行人が歩いていたりしてスイッチ版より少し賑やか。より想像力を刺激させる雰囲気となってそうです。残念ながら現在の僕はPCゲーム遊ぶ環境がありませんが、機会があれば実際に遊んでその差を感じてみたいです。

開発したのはLudic Studio。ブラジルの小さなゲームスタジオです。Steam版リリース直後にGame Spark上で行われたインタビューによると、ブレードランナーと黒澤映画のような古典的サムライ映画から影響を受けた『Saigo’s Ultimate Battle』というゲームを開発。これが好評だったため、このシステムを用い、より世界観を膨らませて生まれたのがアカネさんだそうです。インタビューの中で、影響を受けた作品として『るろうに剣心』や『キル・ビル』、『サムライチャンプルー』や『サムライジャック』の名前があり、確かにアカネさんで遊んでみると、ゲーム中の殺陣のテンポや気持ち良さには、それらの作品の影響を色濃く見ることが出来ます。個人的にはブラックラグーンの銀次さんとレヴィなんかも思い浮かびました。1対多数の戦いにロマンを感じるのは万国共通ということでしょうか。こういった形で僕の好きなものの影響を受けた作品に出会えるとうれしさがこみ上げます。

アカネさんを推す

自分の手で、殺陣を演出する、そんなゲームです。こういう感じの、自分で立ち回りを考えて「俺かっこいい!」という快感を味わえるゲームといえば、僕はデビルメイクライやベヨネッタを思い浮かべますが、アカネさんも立ち回りのかっこよさでは負けてない。剣を振るスタミナと、銃の残弾を意識して立ち回れば、自然と華麗な立ち回りができる。そこに加わる、一撃喰らったら終わりという緊張感。たった一つのステージしかない、果てない戦いのゲームですが、キャラクターを動かす楽しさは決して劣るものではありません。ピクセルアートの簡素なキャラですが、実に活き活きと動き、そして激しく散っていきます。とにかく操作して楽しい。一撃喰らったら散ってしまうアカネさんですが、タイムリープするかの如くすぐさま復活して、また一人でも多く道連れにすべく死地へ赴くテンポの良さ。いくらでも遊べてしまう魔力があります。長くゲームをやってますと、ゲームに追い回され、ゲームに疲れてしまうこともありますが、そんな時にスッと懐に入ってきて、ビデオゲームを操作する楽しさを思い出させてくれるゲームでもありました。アカネさんのおかげで、「もっと面白いゲームはねぇかあ」とアグレッシブにゲーム捜す意欲が湧きました。ありがとう、アカネさん。

以上、アカネさんの感想文でした。いやあ、惚れました。こういう作品に出合うために未だにビデオゲーム追い続けてるといっても過言ではない、出会えてよかったです。

最後に、地球の反対側からアカネさんを届けてくれた、開発者の皆さんと、それに関わった皆さんに感謝を。素敵な作品ありがとうございました。

サポート頂いたものは概ねゲーム会社に回ると思います