月と陽のあいだに 227
落葉の章
ハクシン(8)
叩きつけるような白玲の言葉に、ハクシンは初めて顔色を変えた。
「あなたに、私の何がわかるっていうの?」
余裕のある笑みが、ハクシンの顔から滑り落ちた。
「私は自分の夢を叶えるために、自分の足で歩いていくことができなかった。そのもどかしさが、あなたにわかる? 友だちもなく、空想の中でしか自由に生きられない悲しさが、わかる?
あなたを見ていると、本当にイライラする。あなたは、血筋も能力も外見も、私よりずっと劣っているくせに、私が欲しいものをみんな持っている。そんなこと、許されるはずないでしょう?」
「あなたの悲しさなんか、わかりたくもない」
白玲が、ハクシンを睨みつけた。
「あなた一人が思い通りに生きられないわけじゃない。ままならない境遇の中で、みんな一生懸命もがいているのよ。それでも、思い通りにならないからって、他人の命を奪ったりしないわ。
あなたのやっていることは、ただの八つ当たり。そんなの、愚か者のすることよ。
そんなんじゃ、何度生まれ変わっても、ネイサンはあなたを見向きもしないわ。
あなたって本当に可哀想な人ね」
「お黙り!」
ハクシンが握っていた杖を投げつけた。だがそれは白玲に当たることもなく、ハクシンの足元からわずかに離れた床に落ちて、カラカラと乾いた音を立てて転がった。
居並ぶ人々は一言も言わず、向き合った二人の皇女を見つめていた。
白玲はもう震えていなかった。そして、ハクシンはもう儚げな少女ではなかった。
「あなたに惑わされて、アンジュは人生を棒に振ってしまった。あなたのせいでトーランは死んだのよ。あなたのつまらない虚栄心のために、アンジュの家族もトーランのお母様も悲しい思いをしなければならない。直接手を下さなくても、あなたは立派な人殺し。一体、あなたのどこが優れているというの?」
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