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にわかイベント屋の顛末

昨日の伊豆はお昼から冷たい雨。散りかけの河津桜も震えていたに違いない。
そんなお天気の中、にわかイベント屋の本番当日と相成りました。

場所は、伊豆急行伊豆高原駅から徒歩10分ほどのところにある『りんがふらんか城ヶ崎文化資料館』というギャラリー・カフェ。
その一角をお借りして開いたのが「りんがふらんか おはなし会」。
椅子を15個並べただけの小さな小さな空間が、私たちの晴れ舞台になった。

 おはなしを憶えて語るストーリーテリング。
 その楽しさをお伝えしたいと思います。
 子どもたちへ。そして、かつて子どもだったあなたへ。
 おはなしの花束を贈ります。

そんな気持ちで始めた大人のためのおはなし会だから、語るのは日本や外国の昔話と童話など。「大人向け」を意識せず、いつかどこかで聞いたことがあるような、素朴なおはなしを届けたいと思っている。

今回の演目は、『ねずみのすもう』と『ふしぎなオルガン』の2題。

『ねずみのすもう』は、貧しい老夫婦とねずみのお話。ある日、自分の家のねずみと長者の家のねずみが相撲をとっているのを、たまたま見てしまったおじいさん。おじいさんの家は貧しいから、ねずみも弱々しくて長者の家のねずみに負けてばかり。かわいそうに思ったおじいさんは、おばあさんに頼んでなけなしの米で餅をついてもらう。その餅を食べたねずみは、だんだん元気になって強くなる。一方、長者の家のねずみは、おじいさんの家のねずみがどうして強くなったのか知りたくなって……。
ねずみのすもうの様子も人のいい老夫婦のやり取りも、聞いているとほっこりする、悪役のいない「ねずみの恩返し」。たまには、こんな世界もいいものだ。

『ふしぎなオルガン』は、リヒャルト・レアンダーというドイツの外科医が、戦地から故郷の子どもたちに書き送った創作童話の一つ。
オルガン作りの職人は素晴らしい腕の持ち主で、彼の作ったオルガンは、神の御心にかなう花嫁と花婿が教会に入るとひとりでに鳴り出す。職人は自分も信心深い優しい娘と結婚することになり、二人揃って教会に入るのだが、オルガンは鳴らない。
職人としての矜持と自尊心がオルガン職人を突き動かし、取り返しのつかない行動をとらせてしまう。時が過ぎてオルガン職人の悔恨と、最後の赦しが切ない物語。

語る時間は10分程度。
プロの語りではないから、言葉がつまってしまうこともある。
それでも演者の声と語り口は、そのひとの人となりをそのまま表す。
おっとりと優しい語りもあれば、生真面目で清潔な語りもある。
それが聞き手に届く時、ふしぎに親密で心地よい世界が生まれる。
そういう時間を共有したくて、私はストーリーテリングをやっているのかもしれない。

開演直前までお客様が少なくて、「今日は身内の勉強会になりそうだ」と思ったが、最初のご挨拶をする頃には15だった椅子が20を超えた。
小さい子どもさんも3人。最後まで一生懸命聞いてくれたのが嬉しかった。

お客様がどんな心持ちでお帰りになったのか、本当のところはわからない。
ほんの小さな花を一輪、心に咲かせてくださっていたらとても嬉しい。
大きなイベントを運営する人にとっては、取るに足りないささやかな会でも、心を尽くして、誰かに喜んでもらえるのは本当に幸せなことだ。
自己満足かもしれないけれど、にわかイベント屋にとって忘れられない一日になりました。

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