見出し画像

月と陽のあいだに 220

落葉の章

ハクシン(1)

 御霊祭りが終わる頃、ネイサンの墓所が整い、納骨の儀が行われた。
 白玲は、ニナとアルシーに付き添われて、墓所に夫と娘の遺骨を収めた。墓前に深く拝礼した後、白玲は「することがあるから」と、月蛾宮に向かった。

 白玲は、皇帝に拝謁を願った。
「久しぶりの外出で疲れたであろう。ネイサンも姫宮も、これでゆっくり安らぐことができる」
 皇帝は、ようやく前へ進み始めた白玲を労った。
「裁きも終わり、オラフは所領と官位を剥奪の上、死罪と決まった。皇后は、勝手に見合いを進めて事件の原因を作った責任を取って、皇宮を去った」
 白玲は黙って頭を下げた。
「オラフは、皇后の妹の孫にあたる。そなたの婿には不釣り合いだったが、皇后は妹の苦労に報いてやりたかったのであろう。だが身内の罪に、皇后が無関係というわけにはいかぬ」
 皇帝の表情は変わらない。
「皇后位の返上を申し出たが、皇后には長く月神殿を守り余を支えた功績がある。それゆえ位はそのままに、孤児院へやった。皇后がここへ戻ることは、もう、あるまい」
 顔を上げよと命じられた時、皇帝の瞳がわずかに揺れたのを、白玲は見逃さなかった。

「折り入って、お話ししたいことがございます」
 皇帝が頷くと、白玲は人払を願った。
「これはあくまで推測でございます」
 皇帝と二人きりになると、白玲は切り出した。

 氷海の座礁事故の犯人と、オラフが繋がっていると考えること。
 氷海視察の犯人の情報源は、白玲自身だと考えていること。
 白玲が視察のことを知らせたのは、皇帝とネイサン、そしてハクシンの三人であること。

「ハクシン殿下とは友人で、命を狙われるような心当たりもありません。私の思い過ごしだと考えておりました。けれども……」
 孕ったと知った時、子を脅かすものは排除しようと決心した。
「ハクシン殿下に私の行動を知らせ、オラフとの繋がりを探ろうと思ったのです」
 皇帝が深いため息をついた。
「そなたはネイサンにも知らせず、自分を囮にしたというわけか」
 申し訳ございませんと、白玲は唇をかみしめた。

「そなたは間違っていない。余も先日、同じ話を聞いたばかりだ」
 沈黙の後、皇帝は机の引き出しから一束の書類を取り出して見せた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?