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月と陽のあいだに 226

落葉の章

ハクシン(7)

「……それなのにあなたったら、ろくな防備もしないのだもの。頭が悪いだけじゃなく、詰めも甘いのよ」

 蒼白になった皇太子が、ハクシンを黙らせようと手を伸ばした。
 ハクシンはその手を振り払った。

「私はずっとネイサン叔父様が好きだった。それは、叔父様だけが本当の私を見つけてくださったからよ。
 愚かな大人たちは、私の見かけに騙されて、なんでも言うことを聞いてくれた。でも叔父様だけは私のあざとさを見抜いて、全然言うことを聞いてくださらなかったわ。
 だから余計に追いかけたの。なんとかして叔父様を振り向かせたかった。そして叔父様を私のものにしたかった。
 いつもたくさんの美女に囲まれていた叔父様が、あなたのどこを愛したのか、私には全然わからない。叔父様があなたに求婚したと聞いた時、世の中がひっくり返ったような気がしたわ。そして、絶対にあなたを許さないと思ったの」
 白玲に憎悪の目を向けるハクシンには、儚い少女の面影はなかった。

「だからオラフに、あなたを襲わせたのよ。アンジュにオラフの加勢をさせたのも私。あの時、ようやくあなたを消してしまえると思ったのに。
 それなのに叔父様ったら、あなたを庇って死んでしまうのだもの。本当に悲しかったわ。
 あなたがいなかったら、叔父様は死ななかった。お腹の子が死んだのは、あなたが叔父様を身代わりにしたせいよ。
 愛するものをみんな失ったのは天罰よ。いい気味だわ」

 白玲は、引き攣るように笑い続けるハクシンを見つめていた。紙のように白い顔をして唇を噛み締め、膝の上で握りしめた拳が小刻みに震えている。
 隣に座っているシノンが、見かねて手を伸ばそうとした時だった。

「『叔父様が好きだった』ですって? 笑わせないでちょうだい」
 掠れた声がして、人々の視線が白玲に集まった。
「あなたが好きだったのは自分だけ。言うことを聞いてくれないネイサンを振り向かせることで、自分を誇示して、自分の存在を確かめようとしただけでしょう。
 でもうまくいかなかったから、焦れてあれこれ画策した。私を標的にしたのは、ただの八つ当たり。そんなの、ただのわがままじゃないの」
 今度はハクシンが目を見開いて白玲を見つめた。
「多忙なネイサンに、お子様のわがままに付き合う時間なんかなかったわ。あのひとは、毎日毎日、国のため人々のために心を砕いていたのよ。
 ネイサンは、あなたが殺した。自分で手を出してきたくせに、悲しいなんてどの口で言うのよ」
 白玲はハクシンに向かって、言葉の礫を叩きつけた。

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