マガジンのカバー画像

月と陽のあいだに

238
「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
運営しているクリエイター

#罪と罰

月と陽のあいだに 230

月と陽のあいだに 230

落葉の章ハクシン(11)

 広間から連れ出されたハクシンとアンジュは、身分を剥奪され牢に繋がれた。
 明日はハクシンが幽閉の塔へやられるという日の夜、皇太子と皇太子妃がハクシンに別れを告げにきた。
 皇太子は、ハクシンが好んだ果実酒を小さな盃に満たした。塔で我が身を振り返り、皇帝の赦しを待つように言う父に、ハクシンは皮肉な笑みを返した。
「お父様は、やっぱりお父様ですね。お望み通りにいたしましょ

もっとみる
月と陽のあいだに 229

月と陽のあいだに 229

落葉の章ハクシン(10)

 白玲は、力が抜けたように椅子の背にもたれて、ぼんやりと空を見つめていた。隣に座ったシノンがその手を握った。そんな二人を守るように、ナダルがじっと立っていた。

 広間に満ちていた淡い光が赤みを帯びて、窓際に置かれた香炉の影が、長く尖って床に伸びた。
「私、信じたくなかったの。ハクシンが私を嫌っていること」
 ようやく我に返ったように、白玲がぽつりとつぶやいた。
「私は

もっとみる
月と陽のあいだに 227

月と陽のあいだに 227

落葉の章ハクシン(8)

 叩きつけるような白玲の言葉に、ハクシンは初めて顔色を変えた。

「あなたに、私の何がわかるっていうの?」
 余裕のある笑みが、ハクシンの顔から滑り落ちた。
「私は自分の夢を叶えるために、自分の足で歩いていくことができなかった。そのもどかしさが、あなたにわかる? 友だちもなく、空想の中でしか自由に生きられない悲しさが、わかる?
 あなたを見ていると、本当にイライラする。あ

もっとみる
月と陽のあいだに 226

月と陽のあいだに 226

落葉の章ハクシン(7)

「……それなのにあなたったら、ろくな防備もしないのだもの。頭が悪いだけじゃなく、詰めも甘いのよ」

 蒼白になった皇太子が、ハクシンを黙らせようと手を伸ばした。
 ハクシンはその手を振り払った。

「私はずっとネイサン叔父様が好きだった。それは、叔父様だけが本当の私を見つけてくださったからよ。
 愚かな大人たちは、私の見かけに騙されて、なんでも言うことを聞いてくれた。でも

もっとみる