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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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#謀略

月と陽のあいだに 223

月と陽のあいだに 223

落葉の章ハクシン(4)

 目を伏せたアンジュの傍で、ハクシンは青ざめた顔をしていた。
「アンジュに問う。そこまで執拗に白玲殿下のお命を狙った理由は何か?」
 長老の声が途切れると、広間には沈黙が降りた。
 直立の姿勢を崩さないまま、アンジュは顔を上げた。
「それは……白玲殿下の存在が、皇家の汚点であるからです」
 居並ぶ人々が息を飲み、皇帝の目がわずかに細められた。

「亡きアイハル殿下のお血筋

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月と陽のあいだに 222

月と陽のあいだに 222

落葉の章ハクシン(3)

「近衛士官で『目と耳』でもあるアンジュを使ってオラフに情報を与え、そなたを害するように仕向けたのはハクシンだ。直接手を下さずとも、ネイサンと姫宮、それにトーランの命を奪ったことは看過できぬ。ハクシンには相応の罰を与える」
 皇帝の声に迷いはない。白玲は改めて姿勢を正し、皇帝に拝礼した。
「此度の夫の死については、私にも責任がございます。私一人でオラフの凶行を止められるとい

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月と陽のあいだに 221

月と陽のあいだに 221

落葉の章ハクシン(2)

 医学院での襲撃事件の後、皇帝は『目と耳』を使って、逃げたオラフの仲間を追った。皇帝の『目と耳』は、それぞれ市中に子飼いの間者がいる。それぞれがどんな間者を使っているかは、必要以上には伝えない。
 それが、今回は勝手が違った。オラフの供述をもとに、『サージ』の人相風体や立ち回りそうな場所を皆に知らせ、サージの捕縛を急いだ。しかし、どこを探してもサージはいない。まるで『目と

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