マガジンのカバー画像

月と陽のあいだに

238
「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
運営しているクリエイター

#再会

月と陽のあいだに 206

月と陽のあいだに 206

流転の章岳俊(5)

「陽族の笛の音をぜひ聴きたいものだ」
 書状を読んだ皇帝の望みで、岳俊は再びネイサン邸に呼ばれた。
 通された音楽室には、彫りの深い顔立ちをした哲学者のような老人が座していた。目の前でひれ伏す岳俊に、老人は声をかけた。
「堅苦しい挨拶はよい。今日は珍しい笛の音を聴きに来たのだ」

 促された岳俊は、もう一度礼をすると、顔を上げて横笛を構えた。
 ゆったりと草原を渡る風のような

もっとみる
月と陽のあいだに 205

月と陽のあいだに 205

流転の章岳俊(4)

 岳俊はネイサンに向き直ると、改めて深くお辞儀をした。
「輝陽国でもお噂はお聞きしておりました。お目にかかれて光栄に存じます」
 そう言って岳俊は懐から包みを取り出すと、白玲に差し出した。

 中には一通の書状と、流水紋の刺繍の施された絹の手巾が入っていた。
 上質な紙に書かれた達筆な筆跡は、紛れもなく蒼海殿下のものだ。
 一別以来の挨拶の後には、白玲の父アイハルの事件と湖州

もっとみる
月と陽のあいだに 204

月と陽のあいだに 204

流転の章岳俊(3)

 一人であれこれ考えていると気が滅入る。そんな白玲を心配したアルシーが、城下で耳よりな話を仕入れてきた。
 輝陽国から旅芸人の一座がやってきて、歌や踊りを披露して人気を博している。特に笛の奏者は素晴らしく、一度聞いて意味る価値があるというのだ。
 旅芸人が険しい暗紫山脈を越えて、月蛾国までやってくるのは珍しい。白玲は、もう何年も聴いていない故郷の歌を懐かしく思い出した。
「ア

もっとみる