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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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#審問

月と陽のあいだに 225

月と陽のあいだに 225

落葉の章ハクシン(6)

 ハクシンを抱きしめて、一番の被害者は自分の娘だと言い募る皇太子。
 それを見る皇帝の視線が、さらに冷ややかになったのは明らかだった。

「アンジュ、そなたは白玲皇女を嫌悪して排除するために、ハクシンを誘惑して金を引き出し、自分が疑われたのでハクシンに罪を着せようというであろう。守るべき主人に手を出して、己の意のままにしようなど、護衛にあるまじき行為ではないか」
 皇太子

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月と陽のあいだに 224

月と陽のあいだに 224

落葉の章ハクシン(5)

 「違う」と叫び続けるアンジュを制して、皇帝はハクシンに目を移した。

「ハクシンよ。そなたが幼い頃からネイサンを慕っていたことは、余も知っていた。だがそれは、筝の師に対する、あるいは身近な年長者に対する淡い憧れであり、成長すれば己の立場を弁えるものと見守ってきたのだ」
 ハクシンは大きな目を見開いて、じっと皇帝を見つめている。
「そなたの容姿の美しさは、『月蛾の至宝』と

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月と陽のあいだに 223

月と陽のあいだに 223

落葉の章ハクシン(4)

 目を伏せたアンジュの傍で、ハクシンは青ざめた顔をしていた。
「アンジュに問う。そこまで執拗に白玲殿下のお命を狙った理由は何か?」
 長老の声が途切れると、広間には沈黙が降りた。
 直立の姿勢を崩さないまま、アンジュは顔を上げた。
「それは……白玲殿下の存在が、皇家の汚点であるからです」
 居並ぶ人々が息を飲み、皇帝の目がわずかに細められた。

「亡きアイハル殿下のお血筋

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月と陽のあいだに 222

月と陽のあいだに 222

落葉の章ハクシン(3)

「近衛士官で『目と耳』でもあるアンジュを使ってオラフに情報を与え、そなたを害するように仕向けたのはハクシンだ。直接手を下さずとも、ネイサンと姫宮、それにトーランの命を奪ったことは看過できぬ。ハクシンには相応の罰を与える」
 皇帝の声に迷いはない。白玲は改めて姿勢を正し、皇帝に拝礼した。
「此度の夫の死については、私にも責任がございます。私一人でオラフの凶行を止められるとい

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