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地テシ:231 「狐晴明」の基礎知識! 告知と小ネタ篇

劇団☆新感線「モフモフ手練れ」いや「狐晴明九尾狩」東京公演が無事に終了致しました。ご来場の皆さまにはご観劇の際に様々なご不便をお掛け致しました。ご協力頂きましてありがとうございます。
実を言いますと、劇団☆新感線は昨年の「偽義経冥界歌」と今春の「月影花之丞大逆転」と、二本続けて完走できておりません。なんとか今回こそは無事に大阪公演の千秋楽まで走り抜けられるように、気をつけて頑張りたいと思います。

そんな「モフモフ手練れ」いや「狐晴明」も、今は東京公演と大阪公演の狭間でございます。着々と大阪公演の準備を進めているところであります。このBlogでも、よりお楽しみ頂けますように基礎知識講座を書いて参りましたが、今回はちょっと趣向を変えて細々した小ネタをいくつか取り上げたいと思います。
ええ、思いはするのですが、その前に! その前に、いくつか告知をさせて下さいませ。


つい4時間ほど前、私も参加致します今年末の明治座「シンる・ひま オリジナ・る ミュージカ・る 明治座で逆風に帆を張・る!!」の詳細が発表されました。ど年末である12/28(火)〜31(金)に明治座でミュージカルですって。あらまあ!
この祭シリーズには二年前にも参加致しましたが、なんかイケメンがいっぱい出てくるんですよ。しかもお芝居と歌謡ショーの二部構成で、とにかくハチャメチャな現場なんですよ。今年はどうなるかまだ判りませんが、とにかく若い人々に負けないようにぶちかましていきたいと思います。


続けて告知をもう一つ。

2022年劇団☆新感線42周年興行・春公演「神州無頼街」の公式HPが更新され、公演が行われるコトが改めて告知されました。2020年の秋に上演されるハズだった今作ですが、一年半の熟成を経ましていよいよ来春上演です! 詳しいスケジュールはまた改めての発表となりますが、無念の延期となった公演が本当に上演できることがとにかく嬉しいんですよ。
幕末の港町を舞台に、福士蒼汰さんと宮野真守さんのバディが走り回る痛快時代劇。どうぞご期待下さいませ。




さて、思う存分告知したところでスッキリ致しました。では改めまして「狐晴明」をより楽しんで頂くための基礎知識講座に参りましょうか。今回は「小ネタ篇」です。
テーマとして取り上げて解説するほどじゃないけど、知っておいた方が面白くなる小ネタをいくつかまとめてお送りいたしますね。


まず書いておきたいのがね、「九尾のヨーコ」についてですよ。漢字で書けば「九尾の妖狐」でして、まったくもって何の問題もありませんが、声に出して言うと「九尾のヨーコ」となってしまいます。なってしまうのですよ。
うっかりすると「九尾の陽子」のコトか! とか思っちゃうんですよね。いや、知り合いに九尾の陽子さんなんかいませんけど。うっかりもしませんけど。
特に私の世代だとダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を思い出してしまうというオマケ付き。「一寸前なら覚えちゃいるが」ですよ。「アンタ、あの娘のなんなのさ」ですよ。いや、そんなことはどうでもいいんです。
皆さまも、この舞台に何度も出てくる「九尾のヨーコ」というセリフを聞いたら、即座に脳内で「九尾の妖狐」と変換して下さい。予測変換に出てくるくらいまで繰り返して頂ければもう大丈夫です。


次は「検非違使庁の佐(すけ)」について。検非違使(けびいし)については以前に書きましたよね。京の都を守る警察のような軍隊のような人々です。
物語の終盤、河野まさとくん演じる又蔵将監(またくらしょうげん)さんが出世して「検非違使庁の佐」に昇進します。そして「実質、検非違使を束ねる身分だ」と啖呵を切ります。この辺りがちょっと判りにくいかもしれません。
律令制ではそれぞれの役職に四段階のランクがあり、上から「かみ→すけ→じょう→さかん」となります。今でいうところの「部長→次長→課長→係長」みたいなカンジ。
この「かみ→すけ→じょう→さかん」には役職によって違う漢字が当てられるのでややこしいのですが、軍部である衛府(えふ)では「督(かみ)→佐(すけ)→尉(じょう)→志(さかん)」となります。ほら、軍人さんって《少佐》とか《大尉》とかのランクがあるじゃない。それはこの時代からの名残なのです。
で、一番偉い督(かみ)には有力な貴族が就任しちゃうので現場には出てきません。ですから佐(すけ)が「実質束ねる身分」ということになるのです。「オレは検非違使庁の次長だから現場では一番偉いんだよ」って意味のセリフなのですね。まあ、とりあえずなんか偉くなったんだなという認識でも大丈夫です。
ちなみに、この「かみ→すけ→じょう→さかん」が国司になると「守→介→掾→目」となります。ほら、時代劇で羽柴筑前守(はしばちくぜんのかみ)とか吉良上野介(きらこうずけのすけ)とか出てきたじゃないですか。あれ。あれです。あの《かみ》と《すけ》ですよ。


続いては「緡銭(びんせん)」。物語の終盤、藤原近頼である私が言う「この緡銭一本が米二十俵の値打ちにもなったわ」というセリフに出てきます。緡銭とは《穴の開いた銭をヒモでまとめた》もの。つまり小銭を一纏めにして高額として扱うモノです。劇中にも出てくる、銭をまとめて棒状にしたモノですね。
時代劇の「銭形平次」が銭を投げる時には、棒状に束ねた銭から一枚抜き取って投げるじゃないですか。といっても判らない世代の方が多いかもしれません。ええ、例えで失敗するタイプです。でも、あんなカンジなのよ。棒状に束ねた銭のことを緡銭と言うのです。
ちなみに、戯曲では「米一俵の値打ち」だったのですが、作家である中島かずきさん本人から「米二十俵の値打ち」にしてくれと修整が来ました。賀茂銭の価値をより高めるために変更されたのです。
なお、劇中では銅銭における銅の配分が下がって価値も下がったという逸話が出てきますね。ていうか私が言いますね。実際にもそうだったようでして、鉛などの混ぜ物が増えて銅銭の価値が下がっていきました。国産銅貨は銅の配分が低くて価値が低く、市場では主には中国から輸入された宋銭などが用いられていたようです。


最後は「山の民」について。今作では「山々を駆け山々に暮らし、山のことならば誰よりも詳しい人々」と説明されています。中島さんも大好きな歴史家である網野善彦さんや小説家の隆慶一郎さんの著作にも出てくる、山に暮らす漂泊民のコトです。「まつろわぬ人々」とも呼ばれ、様々な特殊技能を持っていたようです。
もちろん今作に於いては、単に「山に詳しい人々」という認識で構わないのですが、網野善彦さんや隆慶一郎さんの著作も大変面白いので、気になる方はぜひご一読下さい。手始めとしては網野先生なら「日本の歴史をよみなおす(全)」(ちくま学芸文庫)を、隆先生なら「吉原御免状」(新潮文庫)をオススメいたします。歴史観がガラッと変わりますよ。


小ネタをまとめてお送り致しました今回、如何でしたでしょうか。意外と長くなっちゃったのでかなり端折った説明になってしまっていますが、ザックリとこんな意味なんだよとだけでも伝われば幸いです。
なんだか細かい話ばかりですみません。でも、こういった細部を知っておくと更に楽しめると思うのです。基礎知識講座はあと二回ほど続きますので、まだまだ細かいコトを言っていきますよ。よろしければどうぞお付き合い下さいませ。