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地テシ:228 「狐晴明」の基礎知識! 検非違使篇

10月になりまして、劇団☆新感線「偽義経冥界歌」のBlu-ray BOXの発売が発表されましたね!

2019年に大阪→金沢→松本と各地をめぐり、2020年に東京→福岡と公演する予定だったのに東京の大半と福岡の全部が公演中止となってしまった舞台です。なんとか映像を残すことができたのですが、驚きなのが何だか物凄い5時間超えの特典映像ですよ!
2019年松本版の通し稽古フルバージョンや2020年福岡版の通し稽古ダイジェスト、メイキングなどなどの秘蔵映像に加え、全メインキャストによる副音声も収録されております。
特に、キャストの変更もありましたから、2019年版の橋本じゅんさんと新谷真弓さんの映像は貴重です。私も見たことが無いので楽しみにしておりますよ!
予約開始は10/27、発売は12/23! ぜひご自分へのクリスマスプレゼントとしてお買い求め下さいませ。クリスマスには二日早い上に、お支払い頂くのはご自分なのですが、それでもよろしければゼヒ! よろしければって何だ?


さて、台風が関東を襲っている中での、いや土曜日にはもう去った後での、いや台風は去ったのに終演時に雷雨が襲ったりした中での、劇団☆新感線「狐晴明九尾狩」ですが、皆さまご無事でしょうか。なんだか今回は週末に台風が来る確率が高いですねえ。

ちなみに、緊急事態宣言の解除により、10/1(金)の公演から「公演日前日チケット予約(抽選)」の受付が始まっております。劇場窓口での当日券の販売は致しませんのでお気を付けて。詳しくはこちらをご覧下さいませ。



さて、そんな「狐モフモフ」いや「狐晴明」をご覧頂く上で知っておいた方がより作品を楽しめる基礎知識講座。今回は「検非違使(けびいし)」と「滝口(たきぐち)の武士」篇です。今作にはこの二種類の武士が出てきます。

まず、大雑把な結論から言いますね。「検非違使」は京の都を警護する、警察と軍隊が合体したような組織。「滝口の武士」は皇居を警護する、天皇家のSPみたいな武士たちのコトです。
今作を見て頂く上では以上のような認識で大丈夫です。作中では検非違使は現代軍のミリタリーベストっぽい鎧を、滝口の武士はいかにも武士っぽい直垂(ひたたれ)を着ていますので見分けもつくと思います。



大丈夫? 判った? いや、むしろ判らなくても大丈夫です。なんか刀を佩いた強そうな人々が出てきたなと思って頂ければ大丈夫です。
ですが、もうちょっと詳しく知りたい方は、この先もお読み下さい。ただ、例によって私なりの解釈も含まれておりますので、正しい知識ではないかもしれません。その点はご注意下さいませ。


今作は平安中期を舞台としており、華やかな貴族文化が花開いた時代ですが、国の安寧としては危ういモノでした。重税により民衆が疲弊し、各地で反乱が起こったりしていました。新感線「蒼の乱」でも題材にした平将門の乱もこの時代の話です。
京の都だって決して安全ではなく、夜盗やならず者が跋扈していたようです。それらを取り締まるために設置されたのが検非違使なんです。

検非違使。読み方は「けびいし」。中学だか高校だかで、日本史だか古文だかの授業だかで、習ったんだか習ってないんだか。でも、その漢字のイカつさと読みの面白さで記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
「非違(ひい)」とは法に違反するコト。その非違を「検する」「使(つかい)」だから「検非違使」ってワケです。検非違使庁に属していました。

もちろん、律令(この時代の法律・国家制度)で定められた司法や治安を担当する部署は元々あったのですが、様々な制約があって弱かったのね。しかも、平安京を作った桓武天皇が軍隊を解体しちゃったもんだから、治安も悪くなっちゃったのね。
なので、嵯峨天皇が直属の部隊として軍隊的な強力な組織の検非違使を設置したのです。律令とは別に作った部隊なので《令外(りょうげ)の官》となります。
まあとにかく、検非違使というのは京を警護する強力な軍隊だったってコトですよ。

余談ではありますが、私が子供の頃にリリースされた「平安京エイリアン」ってコンピュータゲームがありましてね、東京大学の学生グループが作ったことでも話題になりました。
格子状に作られたフィールドで穴を掘って、攻めてくるエイリアンを落として埋めていくというアクションゲームなのですが、そのプレイヤーキャラクター(自機)が検非違使という設定だったのです。
格子状の簡素なグラフィックなのは当時のマシン性能の制約からそうなったのですが、格子状の街なら平安京だろう→平安京を守るなら検非違使だろう、という理由でこういう設定になったというエピソードが私は大好きです。
ただまあ、なんでエイリアンが平安京に攻めてくるのかは知りませんけどね。


では滝口の武士とは何なのか。こちらも宇多天皇が独自に設定した令外の官でして、天皇の政庁である内裏を警護する武士団です。つまり天皇のSPというワケです。
内裏の北東にあった滝口(庭を巡る水の落ち口)あたりに詰め所があったので滝口の武士と呼ばれるようになったとか。

この滝口の武士たちは当時の貴族たちが推挙したツワモノによって構成されていたのでかなりのエリート武士だったようです。そりゃ天皇のSPですからね。今作でも川原正嗣さん演じる滝口帯刀が無敵な強さを披露して下さいます。

もうちょっと時代が下ると上皇のSPである西面の武士とか北面の武士とかが設置されるのは歴史好きならご存じですね。
ではなぜ、検非違使とか滝口の武士とか西面の武士、北面の武士などの令外の官である武士たちが歴代の天皇たちによって独自に設置されていくのか。
それはもう、とにかく当時の権力争いが激しかったからだと思います。天皇・上皇・法皇といった天皇家だけではなく、摂政・関白などの有力貴族も入り乱れて権力の取り合いが行われました。ですので、それぞれが自分の身を守るために武士たちを登用し、権力を与えていったのです。
天皇、貴族を守るために登用された武士たちが徐々に力を蓄え、やがて天皇、貴族たちから政治権力を奪い取って武家政権が打ち立てられていく。いやあ、歴史って面白いですねえ。


最後にもう少しだけ余談を。

新感線「偽義経冥界歌」の主人公でもある源義経が、朝廷によって検非違使に任命されていたってご存じでしたか。
源平合戦の途中、木曽義仲を京から追い落とした義経は、京都の治安を守るために朝廷から検非違使に任ぜられたのですが、そのことが源頼朝の癇に障って兄弟仲が悪くなったという説もあるのです。
また、義経を「判官(ほうがん・はんがん)」と呼ぶのも、義経が検非違使になるために与えられた官職である左衛門少尉が四等官の第三位(判官)だからです。ここから判官贔屓という言葉が生まれたんですね。落語「青菜」の「その名も九郎判官→ああ、義経にしておけ」ってフレーズも有名です。

また、新感線「蒼の乱」の主人公である平将門は、若い頃に滝口の武士に任命されて「滝口小二郎」を名乗っていたのです。「蒼の乱」劇中でも理不尽な殺人を強要された将門小次郎が反発して離反するシーンがありましたね。
もちろんこのシーンは史実とは異なりますが、将門が滝口の武士に選ばれるほど優秀な武士であったことは事実のようです。

色んな時代をモデルとした演劇に関わっていると、様々な歴史知識が溜まっていきます。そういうのも楽しいもんですね。まあ、余談なのですが。


さて、そんなこんなの「モフモフ晴明」いや「狐晴明」。いよいよ10/6(水)はライブビューイングです。全国各地の映画館でご覧頂けますよ。全会場でグッズの販売も行われるようですので、東京・大阪の公演会場にお越しになれない方はぜひ!