見出し画像

くらしのこだま(ft.『be home』)【Sandwiches #41】

 すっかり梅雨入りなのかしら、ぼたぼたぴたぴた、雨がふっておりますね。じめじめ湿気はいやだけど、部屋にいるぶんにはこの雨音よ、音、音、やまないその音がなんだか心地よく、気づけば窓を網戸にして耳をすますわたしがいます。読書や、あるいはこのnoteのようなゆるやかな書き物をするときにはぴったりの、自然のバック・グラウンド・ミュージックです。

 隔日の楽曲紹介シリーズ、いよいよデビューアルバム『Orang.Pendek』からはラストになります。M10「be home」。

 静かなピアノのループが印象的ですが、最後まで聞けばわかるようにこのは楽曲いわゆるインスト・トラック。アルバムを締めくくる、まるでエンドロールのような……余韻を持たせる役割を担う「アウトロ」だもんで、わたしの歌は入っておりません。アルバムのトラックは全曲アズマリキ(Small Circle of Friends / Studio75)さんが制作してくださっているため、あれっ、一見すればmaco marets不在の楽曲である。でもね、なにもしてないのあなた! ちょっとちょっと、など思われた向きはご安心ください。実はわたし、息を潜めてこっそり隠れているのです。

 お気付きの方もおられますでしょうか? 0:38~ごろから、よく耳をすませて聞いてみてください。がちゃがちゃぴっぴっじゃーじゃー……と、なにやら不思議な音が聞こえてきませんか。何をかくそう、これは、このアルバムの一曲目のタイトルでもある「Room 203」──当時住んでいたアパートの203号室──で、実際にわたしが洗濯機に衣服をつめ、スイッチを押し、それからドアを開けたり閉めたり、雑多に生活している音おとを録音したものなのです。

 maco maretsがデビューアルバム『Orang.Pendek』、また以降の『KINŌ』『Circles』においても同様にこだわっているポイントのひとつがずばり、曲順です。最初から最後まで、物語のような流れを持ってアルバムを聴くことができるように制作の段階からそのストーリーを意識していて、とくに3作に共通して言えるのは「」からはじまってだんだんと「」へと曲のイメージが移り変わっていく点(たとえばこれまでのアルバムの冒頭、「Room 203」「morning calls(~Hum!)」「4AM(~Wash)」いずれも朝の情景を彷彿とさせるような導入になっている! つもり)。

 『Orang.Pendek』では、M9「Daybreak」のラストで二度目の朝を迎えます。パーティを終え、疲れた体を引きずって、帰る場所はもちろん自分の家。「帰宅」や、「家にいる」という意味を持つ「be home」ということばをタイトルにしたのはそういうわけで、そして、部屋の音を録音して吹きこんでもらったのも、その「home」のイメージをより強めたい狙いがあったからでした。

 意識することも少ないけれど、普段のくらしのなかにも面白い音、いやといってもいいそれがたくさんあふれています。椅子のキイキイきしむ声、冷蔵庫のウウウンと唸る声、扇風機はぱららさららと心地よく、そうだ、いま叩いているパソコンのキーボードだって小気味よくカタかた笑っておったり。まるでジブリの『もののけ姫』に登場する精霊、コダマのように、わたしたちを取り囲んでそこにいる。

 なんなら静寂にも音があると言われる通り、無音もまたひとつの音でもあるし、やや、それは誰の沈黙なのやろか? とにかく、へんに意識しだすとなんだか際限なく、また自分の耳がたよりないもののようにも思われてきます。ただ「be home」で実践したごとく、たまには黙してトラックのすきまにぼうっと立ってみたり、違うの手抜きじゃないのよ、そんな試みによって編まれた音おとのもたらすわずかなゆらぎ、その波の行先を見つめてみたいわけなのです。からからからから……。

*****

 ここで、昨日いただいたお便りを2通ほどご紹介します。さっそく送ってくださったみなさん、ありがとうございました。

●ペンネーム:JTHさん

アラームに設定した好きな曲ってそのうち嫌いになることが多いけど、Daybreakはずっと自分の好きな曲です たぶん5年くらい前からずっと朝の相棒です笑 たまにあえて止めないで聞きながら朝の準備してます なんか好きです

>>maco maretsの曲で朝起きることができるのやろうか? 寝てしまわんか? などとちょっと余計な心配をしてしまいますが、5年間(!)ということはリリースのときから聴いてくださっているのでしょうか。とてもうれしいです、ありがとうございます。ちょうど今日も「Daybreak」の話題が出たところで、そうね、自分自身はずっとこれは「夜」サイドの曲だと思っていたのだけれど、上に書いたように、その「夜」を抜けて「二度目の朝」を迎える曲でもあるので、もしかしたら目覚ましにはぴったりなのかもしれません。ぜひこれからも、相棒として聴いてやってください。

●ペンネーム:世を忍ぶ仮の姿さん

自粛生活、お疲れ様です。
コロナとの因果関係は無いのですが、バイト先が閉店となり、(ガチの)自粛生活を、余儀なくされているところです。
時間はあるのですが、時間の使い方が上手くない事、めんどくさがりな性格である事の両方を兼ね備えている為、ハンコで押したような毎日を漫然と送っている次第です。
束縛から解放された自由な魂は、あら?今日は何日?何曜日?といったあり様。
そんなこんなではありますが、毎日更新される「Sandwiches」を読む事が大事な日課となっています。
毎日ありがとうございます😊

>>バイト先が閉店、しかもコロナとは関係なく……とは、やるせないですね。ありあまる時間をどう使ったらええやろうか、曜日の感覚もなくなるような毎日はわたしも同じですが、そんな中なんとなくはじめたこのnoteも気づけば40日を超え、厳かな習慣めいたものになってきました。それを日課として読んでくださっているとのことで、なんだか相互の助け合いというか、そんな共犯関係を感じますね、ね。とにかくいまはくさらず健やかに、ぼんやりとでも先に思いをめぐらせること。それができていれば大丈夫やとわたしは考えています。ぜひここで、一緒にぼやぼやいたしましょう。

(引き続き、下記フォームよりお便りを募集しております↓↓↓)

*****


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?