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どこか遠くの景色をかりて(ft.『Kamakura』)【Sandwiches #71】

 うっふふ、実は昨日ふたたび銭湯に行ってきたのやけど、やっぱりお湯は気持ちよいし、帰り道の夜風はさらりと涼やかで、そらもうすてきな夜半でした。ずうっと今くらいの気候のままだったらうれしいのにねえ、そういや梅雨はもうあけたんやろか? まだかしらん?

 「楽曲紹介」シリーズ、今日はに関係のあるこちらの楽曲……アルバム『Circles』からM4「Kamakura」を聴いていただきましょう。

 映像は、2作目『KINŌ』収録の「Who You Are ft. Misa Yoneyama」も担当してくださった岩永祐一さん(いまだ触れえぬあなたの影と(ft.『Who You Are』)【Sandwiches # 63】)によるもの。先日紹介した「Wash」「Standard」の監督・河澄大吉くんと同様に早い時期から制作を相談させてもらっており、ただしこちらは内容についてもほとんど「お任せ」で、わたし自身撮影に同行することもないままに完成したビデオでした。や、本来はくっついていくつもりがスケジュールの都合で叶わなかった。

 しかしてその出来栄えについては文句などあるはずもなく、送られてきた映像をはじめて視聴したときには、アスペクト比1:1、かつモノトーンの画面にうつしだされるどこかノスタルジックなカットの連続に目をうばわれました。主演の彼女、Enaさんのはなつみずみずしい存在感は、曲のイメージにぴったりだったように思います。

 ロケーションはもちろん、鎌倉。曲のタイトル、またサビのフレーズでも宣言しているようにこの地名こそ明確なモチーフです。実のところ、固有の土地にイメージを仮託するような曲の書き方はこの「Kamakura」がはじめてで(1作目『Orang.Pendek』収録の「S.N.S.」では地元・早良の名を連呼している、しかしそらまったく種を異にするのだ)、そこに至った理由はこの70日間の連載のどこかで触れたような気がしますが、とかく東京・新宿のワンルームにしばられたおのれを解放することがひとつの目的でした。

 ここで明かせば『Orang.Pendek』『KINŌ』と2枚のアルバムをリリースしたのち、いつしか狭い空間かぎられた景色ばかりを背に歌詞を紡いでいるような、停滞の感が付きまとうようになっていた。続く3作目を制作するにあたっては、より広がりをもった、いままでにないロケーションを手に入れたいという思いがあったのです。

 でもって具体的にはどうしたらええやろか? かんたんな話で、実地に撮影に赴くがごとく、どこか普段の生活から離れた場所まで(それも、しっかり実在する土地まで)ことばの足を伸ばしてみたらよいではないか、そう考えたわたしでした。ちいと安直なのは承知の上で、そのシンプル・素直なアイデアを実行に移したのであります。

 結果的にはご覧の通り「Kamakura」、くわえて「A Day in Lisbon」という、固有の地名を冠した楽曲が複数生まれることになったし、ちょっと変則的ではあるが「D.O.L.O.R.」のミュージックビデオがフランス・パリで撮影されたこともあわせて、ぜんたいとして地理的な移動と拡がりを含んだアルバムになった……とそんなふうに言えるかもしれぬ。『Circles』というタイトルが示す、みずからの内側、せまい円の中心へと向かっていくようなコンセプトとは相反するようにも見えるけれど、その齟齬がまた皮肉っぽくもあり気に入っています。

 ふりかえれば、『Circles』を制作した2019年は非常に「移動」の多い一年でした。年始からポルトガルリスボンポルトを20時間以上のフライトでもって探訪し、そののちはじめてアメリカハワイへも降り立った。また国内に関しても、イベント出演を通して多くの都道府県をめぐる機会に恵まれました(もちろん当の鎌倉湘南エリアも何度となく訪れていた、それゆえ生まれたのが「Kamakura」であります)。数ヶ月も自宅にロックされている現状からはとても想像もつかない身軽さで、ああ、あらゆる旅が当たり前に許される日はいつになることやろか。

 そうだ、先ほど書いた「みずからの内側、せまい円の中心へと向かっていくような」曲の作り方も、そんな身軽さから生じた余裕があってこそ可能なことだったのかもしれません。閉塞的ないまの状況で、これ以上内へ内へと向かおうものなら……あかん! 一歩間違えると、帰ってこられなくなるような予感がするものね。いま作っている曲がやや「軽い」ムードなのはそういうことか、と勝手に合点がゆきましたよ……。

 と、ほとんど歌詞について触れぬまま結びの段落まできてしまった、ところでひとつだけ言い添えておくと、よく「Kamakura」における男女の物語は実体験かどうかきかれるのだけどね、(微妙なとこやが)答えはNOっちゅうことでひとつ、よろしくお願いしたいのです。

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