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おおいなる朝ぼらけ(ft.『4AM』)【Sandwiches #65】

 ヤアヤアヤア! のろのろと書き進めてきた「楽曲紹介」シリーズも今日からついに3枚目にして最新作、『Circles』編に突入します。なかなか長い道のりでありました、この「Sandwiches」も60日回を超え、すっかり筆の進まぬ体たらく……なさけないことばを晒してばかりおったが、ここでもいちど気合いをいれてゆきたい。つまらぬ導入はすっとばしてさっそくM1『4AM』を聴いていただきましょう。

 と、ここで何度目かのご指摘が聞こえてきそうです。「あなた、またいないじゃないの!」なんて、そうや、そのくだりはもう「morning calls」のとき(おそらく二度目のモーニング(ft.『morning calls』)【Sandwiches # 43】)にもやりましたねえ。そうなのだ、今日の「4AM」もまた、アルバムのオープニングを告げるいわば「イントロ」であり、声の入っていないインストゥルメンタル・トラックなのやった。歌詞はいっさい、ございません。

 そんでもってここは曲名「4AM」から周囲のイメージを取り出してゆきたいが、そもそもこの午前4時の感覚はどこからきたのやろうか。

 おもえば、前2作でもアルバム冒頭においてそれぞれ明確に「」の風景を描き出していました。たとえば1作目の「Room 203」には声が入っていて、わかりやすく朝の情景をrapしています。ずばり「7 o'clock am」という歌詞もある。午前7時。

 また続く2作目のイントロ「morning calls」には歌詞こそないけれど、タイトルがそのまま「morning」を含んでいるし、曲の最後には目覚まし時計のアラーム音が鳴り響きます。何時でしょう。8時とか、あるいは9時?

 構成の意図については、以前の記事でこんなことを書きました。

maco maretsがデビューアルバム『Orang.Pendek』、また以降の『KINŌ』『Circles』においても同様にこだわっているポイントのひとつがずばり、曲順です。最初から最後まで、物語のような流れを持ってアルバムを聴くことができるように制作の段階からそのストーリーを意識していて、とくに3作に共通して言えるのは「朝」からはじまってだんだんと「夜」へと曲のイメージが移り変わっていく点(たとえばこれまでのアルバムの冒頭、「Room 203」「morning calls(~Hum!)」「4AM(~Wash)」いずれも朝の情景を彷彿とさせるような導入になっている! つもり)。

くらしのこだま(ft.『be home』)【Sandwiches # 41】

 毎度愚直にも「朝」を表紙にアルバムを綴じている理由は、おそらくそれがおのれにとっての自然であるから、とそんなそっけない回答になってしまいそうです。朝起きて・昼活動して・夜眠る、日々のサイクルの中で生まれたことばたちは、必然的にその流れを踏みながら並べられるし、ね、そうするのがいちばん心地よいのであります。

 ハリウッド映画のように、もっと劇的で不穏な、胸をざわざわと掻き立てるカットをオープニングに持ってくることもできましょうが……いつだって「静かな朝」からはじまるのは、なによりもわたし自身が(ひとつのドラマチックな感慨もなく)おだやかな日々を送っていることの証左にもおもえます。つまりね、いったんベッドから起き出すシーンを挟まないと、物語がはじまってくれないわけです。やにわにどかーん! マイケル・ベイ監督のごとき爆破シーンを挿入するのでは無理があるのだ!

 といっても瑣末なこだわりです。むろん爆破シーケンスからはじまるのも面白そうやし、途中で変えてしまうこともできただろうに、結果的には3度も同じことをしてしまった。先ほど書いたとおりでそれが「自然」であるから、まあ間違いないのやけど、それでも後付けチックに書いてみればその「朝」の様子もすこしずつ異なったものにはなっています。

 (あくまでわたしのラフな回想なので話半分でお聞き願いたいが)「Room 203」ではまさに目を覚ました「わたし」。「morning calls」はこれから起きる、まだ眠りの中にいる「わたし」。そして「4AM」はというとね、これがもう起き出していて早朝、しんと静まり返った道を歩いているような感がある。いちばん早起きで、ちょっぴりそわそわした「わたし」がそこにいる、そんな気がします。そういえばトラック全体にただようムードも「4AM」がいちばん活発ではありませんか。

 最後にもっともらしく付け加えると、「Circles」というアルバムはこれまでおのれを閉じ込めていたCircle=の中心点とでもいうべきこころの奥へ、内側へ……ふかくもぐって対峙することで、逆説的にその円からの脱出を試みた作品でもありました。そしてそんな大・脱出ミッションを胸に抱いた日の朝は、これまでのようにベッドでぼんやりしているだけではだめだったのです。

 それは大いなる朝ぼらけ。きりがかり、朝つゆに濡れた道へと踏み出すような……あるいは、はやる心臓をおさえてひとり、空を見上げているような! まさに、つづくM2「Wash」のMVにおいて描かれたがごとき情景へと接続してゆく、午前4時のことでした。

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 三日連続すみまそん!本日もお便りコーナ、おやすみいたします。明日はお返事する予定です、なにとぞご容赦を。

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