見出し画像

嘆きとはしれ、巴里(ft.『D.O.L.O.R.』)【Sandwiches #77】

 ちいと昨日は辛気臭い顔をさらしてしもうたが、やあ、ひたすらにくらいモードというわけではございません。月並みな言い方をすれば「いまできること」をひたすらdoするのみやと、今日もレコーディングに励んでおりました。少しずつ、少しずつなれど前進の感触は手元にあります。

 いよいよ終盤となる「楽曲紹介」シリーズ、今日は引き続き3rdアルバム『Circles』よりM7「D.O.L.O.R.」についてお話ししましょう。

 映像は、これまで「Summerluck」「Amazing Season」「Click It, Freeze It」など多くの印象的なMVを担当してくださったウエダマサキさん。maco maretsとしては活動初期からほんとうに多くの助力をいただいており、頭が上がらない存在であります。

 なんといっても今回の「D.O.L.O.R.」に関してはフランスパリで撮影されたもの(!)で、後述する曲の由来ともあいまって、すべてが素晴らしいタイミングで符合した結果うまれたビデオなのです。

 撮影の裏側については、ウエダさん自身が詳細につづられた記事がnote上にアップされています。これはぜひとも読んでいただきたい!

 わたし自身は日本にいたわけで現場の苦労など知る由もなく、ここで明かせば、この記事を読むまではどんな流れで撮影が行われたかもわからぬままでした。余計な心配をかけまいとしてくれたのか、それとも詳細に状況を説明する間も惜しんだからか、とにかく恐るべきスピードで企画が進行しているさまを断片的な報告から垣間見るのみやった。

 しかして絶対の信頼をよせるウエダさんのディレクションですから、そもそも内容について心配する必要はなかったのです。むしろおろおろしたのは上の制作ノートを読んでからのことで、なにやら事後的に「こんな大変な撮影やったんか」とあわてふためく有様でした。記事内でも触れられているようにウエダさんのクライアントまで協力してくださったという、くわえて主演のダンサー・Mariaさんにいたってはわざわざロンドンから招聘しているのだ! 

 や、とにかくその結果完成した映像はばちりと曲のイメージを体現しており、文句のつけようもない作品になっておりました。ここで書くのも野暮やけど、あらためて制作スタッフには最大限に感謝の意を表したい。

 当初から「D.O.L.O.R.」はアルバムのリード・トラックとして考えていましたが、ミュージックビデオのおかげでその存在感はより強固で特別なものになったと思います。その後、アルバム『Circles』のリリース情報解禁にあわせて、とても重要なタイミングで公開することに相成りました。

 再三この「楽曲紹介」シリーズで触れてきたとおり、maco maretsとして3作目となる『Circles』は、前2作以上におのれの薄暗い感情にフォーカスしたいという思いから制作した作品です。「D.O.L.O.R.」は、「dolor」=「嘆き」という直截なタイトルが示すように、アルバム全体のコンセプトがとりわけ強くあらわれた楽曲でした。

 しつこいくらいにかなしいむなしい感情を押し出したことばづかいは、いま読み返すとちょっぴりこっぱずかしい。ラップパートは「昨日は昨日であってないようなもんだ」という宣言からはじまります。これは正直なところ前作『KINŌ』を自己否定するニュアンスも含んでおり、当時はあれね、いまとはまた違ったかたちで陰鬱なムードのなかにいたのかもしれぬ。かわいらしい目玉焼きのイメージが、なんだか疎ましかったことを覚えています(いまはそんなことございませんよう)。

 そのほか、サビの最後にうたわれる「Say hello to my sadness」というフレーズは、フランスの作家・サガンの代表作『悲しみよ、こんにちは(原題:Bonjour Tristesse)』から着想を得ています。しかしまさかそのフランスでビデオを撮影できるとは思いもよらなんだ、これが冒頭でのべた「素晴らしい符合」のひとつで、曲にふくませたイメージが意図せぬ機会を呼び寄せてくれたのか、運命めいたなにかが働いたとしか言いいようがない。

 サガンがつづったみずみずしい悲劇のごとく、避けられぬ痛みフラットな思いのままに向き合うこと、それをおのれのものと認めること、が「D.O.L.O.R.」におけるひとつの着地点でした。最後に言い添えておきたいのは、嘆きの底を抜けた先はけっして絶望なんかではなくって、もっとポジティヴ&パワフルな、夜を踊り駆けるだけの情動を抱いたものだということです。セーヌ川沿いを思いっきり走りぬけるような、ああ、今こそね、わたしもそんなときを希求してやみません。

*****


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?