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Oh, Rusty Radio!!



 ラジオに出られるなんて、一生に一度の晴れ舞台だ。
 そりゃあ張り切って選曲するに決まっているでしょうが。
 でも「私らしさを表現したい。」などと、おかしな気合を入れるとロクなことがない。
 痛々しいゲストになること。それだけは避けたい。

 曲選びに迷ったまま、私はラジオ収録当日を迎えてしまった。
 「三ッ矢直生の大きな声で独り言〜歌えば幸せ」という番組に呼んで頂いたのだ。
 聴いてくださった皆さま、有難うございました!!
 
 下級生の頃からの恩師である、三ッ矢先生とお話しできるだけでも大興奮である。
 お話しながら思いつけば、自然に良い曲が選べる。先生からは、そんな心強いアドバイスを頂いた。
 あわあわしている私を導いてくださる先生のスマートなトークにより、辿り着いた曲は「かやの木山」であった。
 宝塚音楽学校の受験の際、歌の試験に選んだ日本歌曲。
 お喋りのBGMにうっすらと流して頂いたのだが、音楽の力は凄かった。
 前奏を聴いた途端、夢に向かって走った日々が私の心に舞い戻ってきた。


素敵だけれど、やや渋い。

 当時、宝塚受験の課題曲のひとつだった「かやの木山」。
 叙情的な名曲であるが、宝塚の舞台を夢見る少女はあまりこの曲を選ばない…かもしれない。
 華やかなメロディ、劇的な感情が表現できる歌詞、得意な高音を聞かせられる難曲。
 多くの受験生はそういう曲を選んでいた。
 だが私は、「かやの木山」をとても気に入っていた。

 平凡な高校生にとって、それは人生を懸けた宝塚受験だった。
 試験会場で緊張すればするほど、かやの木のぬくもりは私に寄り添ってくれた。 


  秋深い山に、かやの実がこぼれる。
  囲炉裏端のおばさは、闇に沈む夜に燈をともす。
  樹々をうつ雨の音。お猿の声。
 

 
 一次試験では、課題曲の途中までしか歌唱させてもらえないことになっていた。
 私は、どうしても二次試験に進みたかった。
 勿論、目指すは合格だ。
 だが、二次試験に行きたい理由のひとつは「かやの木山」だった。
 あのやさしい歌のおしまい。
 大好きな歌を、最後まで歌いたかったから。
 
 自分の歌声の魅力を審査員にアピールする気持ちが足りないのは、もう言うまでもない。
 よくもまあ、合格させてくれたものだ。
 入学後に、たっぷりと苦労することになるのだが。


まろやかなトークに音楽が襲いかかる。

 次に選んだのは、「Ocean Eyes」。 
 誰にも似ていない声。
 子供のようにあどけなく、かと思えば血の味がする。
 その声の陰影は、どれだけ繰り返し耳にしても私と馴れ合ってはくれない。
 聴くたびに驚きがある、それが私にとってのビリー・アイリッシュさんだ。


 三ッ矢先生が選んでくださったのは、私が作詞をした「さよならベアー」という曲だった。
 十年ほど前、生徒が書いた歌詞を応募するTAKARAZUKA SKY STAGEさんの企画があった。
 詩が選ばれると、劇団の作曲家の先生が曲をつけプロモーションビデオのような映像が作られる。
 しかも作詞した本人が歌うという、スターさん顔負けのことができる豪華な番組だった。
 その企画に、私の詩が運良く選んでもらえたのだ。
 ちょっと歌詞を書きたかっただけなのに、歌わなくてはいけなくなってしまった。
 そもそも、そちらが本業である。
 この時も、三ッ矢先生に手取り足取りお世話になった。
 先生による歌詞の解説、物語が浮かぶような曲の解釈に「なんて良い曲なんだ。」と涙が出た。私が書いたとは思えなかった。
 先生も、作詞した本人に歌詞の意味を教えるのは大変やりにくかったと仰っていた。

 
 はじめから終わりまで、真面目なテーマからすぐに脱線する私のしょうもない話を、三ッ矢先生が美しくまとめてくださった。
 脱線したくても、脱線する隙がない。
 今後やりたいことは?と聞かれても、これからも頑張って文章を書きます、とゆるい決意表明をするのが精一杯であった。
 元宝塚の生徒としてはとても地味な目標だけれど、私にとってはワクワクする壮大な未来だ。


夢は地味だが、よく爆ぜる。

 緊張のラジオ出演は、私がこれまで追ってきた夢を思い出させてくれた。
 そして、今追いかける夢に光を当ててくれた。
 最後の曲はピーンときた、X JAPANさん。
 真のロッカーが叫ぶ「Rusty Nail」で締めようじゃないか、と。
 これから次の夢に向かって進んで行きます!という雰囲気でトークを終えたいのに、「涙で明日が見えない」と歌うラストソング。
 私は、最高に破滅的だ。

 
 私が好きな音楽。
 みんなと聴きたい音楽とは、なんだろう。
 三ッ矢先生のラジオのおかげで、私は私とともに歩んできた音楽を思い出した。
 夢だけは大きかった、冴えない女子高生。
 張り詰めた受験会場の空気の中で、私はひとり、葉擦れの音を聴いていた。
 かやの実がはぜる、山奥のこもれびに包まれていたのだ。

 
 ほら、お猿が啼くよ。

 日が暮れたら、もうおやすみ。





読んでくださり、本当に有難うございました。 あなたとの、この出会いを大切に思います。 これからも宜しくお願いします!