マジックイエロー【日誌のようで物語のような 2024/06/26】
まだ6月の終わりだというのに、
朝から夏の日差しが照りつける日だった。
それでも電車に乗って
働きに行く気がしなかったので、
自転車を駆り出して会社に向かった。
満員電車に揺られて行くよりも、
日差しが照りつける自転車で行く方が
よっぽど心地がいい。
街の中の日陰をたどって、
日差しを避けながら自転車を転がしていた。
そして途中、
アイスコーヒーでも買おうとコンビニに寄った。
コンビニから出てくると、
そこに止めていた自転車の周りで
2匹の黄色い蝶が軽やかに飛んでいた。
お互いにハミングをしているようで、
重なり合ったり離れたりしながら、
2匹は日差しの中で遊んでいるようだった。
暑い日だというのに、
楽しげに舞っている2匹の蝶。
一瞬足を止めて、
蝶のダンスの行方を目で追っていた。
気持ちが和らぎ、
自然と笑みがこぼれてしまう光景だった。
そして、蝶と同じ黄色いチエックのシャツを
着ている事に気がついた。
“今日は黄色で何か良いことがありそうだな“
そんな事を思って、
また自転車を漕いでいると、
自転車の進む向こうで
松葉杖をついて歩いている女性が目に入った。
彼女は松葉杖に慣れていない
足取りで歩いていたのだが、
背負っていたバックパックのチャックが
開いていた。
そのチャックはけっこう大胆に開いていて、
バックパックの中身が落ちてしまうのではと
心配になった。
自転車を急いで彼女の傍に寄り、
「バックのチャックが開いてますよ」
と声をかけた。
彼女は一瞬驚いた様子で振り向いてから
「ありがとうございます」
と言った。
そしておもむろにバックパックを背中から外そうとしたのだが、
松葉杖のせいでたどたどしくしていたので、
僕はそこに自転車を止めてから、
「閉めましょうか?」と言うと、
彼女は目でうなづいたので、
手早くチャックを閉めた。
「それじゃ、お気をつけて」
僕はそう言うと、
「はい、ありがとうございます、助かりました。
今日は良い一日になりそうです」
松葉杖の彼女はそう言って微笑んだ。
その彼女の笑みを見た時に、
コンビニで見た2匹の蝶を思い出した。
そしてあらためて松葉杖の彼女を見てみると、
彼女は黄色いリネンのブラウスを着ていた。
「今日は良い一日になりそうです」
僕はそう答えて会釈をすると、
夏の日差しの中を自転車に乗って
会社に向かった。
ダンスでもするように軽やかに。
(おしまい)