Eat - Challenges by Ms Thandeka
テンデッカちゃんはよく食べる。南アのスーパーマーケットでは、食パンは二斤で一袋のサイズが主流で、朝食は、この食パンにチーズやらハムみたいな肉加工製品を挟んで、サンドイッチにして美味しそうに食べている。二斤サイズの食パンは数日で食べきる。一斤弱を一回の朝食に食べていることになり、お皿にうず高く盛られたサンドイッチはなかなかの迫力である。
このハムみたいな肉加工製品をポロニー(Polony)と言って、日本人の私には「魚肉ソーセージ」に見えるが、Googleで検索すると、鶏肉や豚肉など肉を加工したものと書いてあった。ちょっと味見させてもらったけど、正直何の味がしているのかよくわからない。ピンク色のふわっとしたハム風のものである。
サンドイッチ以外では、パップというトウモロコシの粉をお湯でよくこねてお団子くらいの硬さにまとめたものを美味しそうに食べている(彼女はなんでも美味しそうに食べる)。パップ自体に特に味はないので、何かと一緒に食べるのだけど、彼女はアマシ(Amasi)という南アフリカの発酵乳をパップにたっぷりとかけて食べる。
親切な彼女は私にも少し分けてくれて、スプーンで一口味見をさせてもらったのだけど、ざらざらとした食感のこねた小麦粉と、ヨーグルトというかカッテージチーズというか酸味のきいた乳製品のマッチングが斬新過ぎて、私は一口で十分よい経験をさせてもらって降参した。ちなみに彼女はこの「パップのアマシがけ」をお皿に山盛りいっぱい食べる。彼女にとっては小さい頃から慣れ親しんだ味なのだと思う。
彼女は高級ステーキハウスでシェフに作ってもらった賄いランチを持ってランチタイムに帰ってくることがある。賄いランチはいつも決まってパップと鶏肉や牛肉のシチューのワンプレートランチ。高級ステーキハウスだけに美味しそうな雰囲気だけど、賄いランチを美味しく作ってくれるシェフは2人くらいで、あとのシェフの作るランチは味もしないしあんまり美味しくないんだよね、とぼやいていた。シェフと名乗る以上、誰が食べるものでも何を作っても美味しいのかと思っていたが違うようだった。忙しい中賄いランチを作るシェフもやっつけ仕事で、その後、配膳担当の人がなかなか配膳しなくて食べそびれることもあるそう。「セルフサービスじゃだめなの?」と聞いたが、それだと全員分にいきわたらないと困るから配膳を待つらしい。飲食業は経験がなくこういうものなのかもしれないけど、いろいろなことが後手後手に回るオペレーションがやや残念な気がした。
もうひとつ、彼女が冷蔵庫に常備しているドリンクがある。ショッキングピンク色の「フルーツパンチ味」ジュースの原液である。彼女はこのショッキングピンクのドロッとした原液を水で薄めて飲む。彼女がお隣に引っ越してくるまであまり気に留めていなかったが、よくよくみたら、スーパーマーケットにピンクだったりオレンジだったり、カラフルなドリンクの原液が山積みで売られていた。これも南アフリカで人気の商品のようである。
野菜を食べている様子はあまり見かけない。大家さんが庭でいろいろな野菜を育てていて好きに収穫して食べていいよ、と言っていて、金銭的に購入できないということでもなさそう。果物はバナナを食べる程度。確かに果物は高価なのかもしれない。
ある日、久しぶりに出張から戻った大家さんとテンデッカちゃんと私の三人で家の近所を散歩していたときのこと。文脈は覚えていないが体重の話しになった。「テンデッカは体重は測ったことことある?」と大家さんが尋ねたところ、なんと、大家さんの体重とさほど変わらなかった。女子柔道だったら重量級に該当する。彼女は身長は160cmあるかないかくらいで、確かにがっしりした体格だけど、成人男性で更にがっしりした体型の大家さんとさほど変わらないとは少し驚いた。大家さんは真面目な口調で、特に黒人女性は「プラスサイズが魅力的」と考えられてきた歴史があり、そういう影響もあるのかもと言っていた。
ポロニーチーズサンドイッチ、パップのアマシがけ、賄いワンプレートランチ、フルーツパンチ味ジュース、ときどきおやつにチョコレート、ポテトチップス、コカ・コーラ。ユニセフのコマーシャルに出てくるハンガーチャイルドとは随分印象が異なるが、これがいまのアフリカの食生活の現実の一部分をありのままに切り取った姿なのかもという気もした。
テンデッカちゃんの挑戦は続く。