物書きの音。vol.15「つむぐもり」

これは、先日、さなえさんが弾き語りしてくださった歌を聴いて、浮かんできたイメージをもとに、ふくらませてみました。
動画や音源など、出たらまたリンク貼ります。


「つむぐもり」

それは「おまじない」だときいた。気がする。

むかしから伝わる「おまじない」だと。

小さな頃から話すのが得意ではなかった。
伝えたいことが伝えられずにいた。

でも、どうやって、だれから教えてもらったんだろう。
そんなことすら覚えていない「おまじない」。

--------感じたことを言葉にできるのならば、伝えたらいい。
でもね、言葉は剣であり、券だからね。
武器になるのか、チケットになるのか、どう化けるだろうね。
ただ、言葉にできなかったとしても、それをなかったことにしてはいけないよ。
もし、言葉にできない想いがあるなら、これをひとつ、あの森に還しておいで。
感じた気持ちと一緒に。
なかったことにしないで、あの森に。
それがいつか、助けになる。
それがいつか、助けになる。
感じた気持ちは、いつだって、あの森にあるんだよ 。--------

「おまじない」を思い出すとき、そこにあるのは、ひとつのビン。そう、今、目の前にある。
なにがどれとか、見分けることはできなかったけれど、ビンの中に入った小さな粒は、どれもきれいだった。

--------

あれからもう、何十年も経った。いや、何百年も経った。今は、大きな空の上から、見守っている。あの頃、おまじないを、何度も繰り返した。嬉しいときも、悲しいときも、楽しいときも、怒ったときも。何度も森に還した。

それが今、大きな木になっている。あの森は、今でも変わらずそこにあった。
過去であり、現在であり、未来でもある、森。

あのビンに入っていたのは、どんぐりだった。
あの頃の想いは、大きく育ち、だれかをつつむ、森になった。

その木に触れて、大きく深呼吸している子どもがひとり。

あぁ、おまじないが届けられたんだね。森に還しにきたんだね。
想いがこころを紡ぎ、想いが森を、いのちを、つないだ。

--------

気がついたら、森にたどり着いた。
手には、どんぐりの入ったビン。「おまじない」を思い出した。
「おまじない」なんて、儚いもの信じていいのかな?、と思いながらも、足はずんずん進んでいた。

目の前にあらわれた大きな木。思わず触りたくなった。
木に触れていたら、ふっと声がした。気がした。

いつだって休みにおいで。
変わらず、ここにあるから。
あなたにもただ、あなたであってほしいから。

どこか、とても大切なひとの声に似ている気がした。
だれか、のような、じぶん、のような。

森に還す、は、森の声を聴きにいく、ってことだったんだろうか。

見上げたら、やわらかい雲が映る空だった。

--------

それは「おまじない」だときいた。
むかしから伝わる「おまじない」だと。
あなたにも届いただろうか。

あなたにもただ、あなたであってほしいから。

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