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サボテンは考え中

泊木 空

 
 ダイソーで、かわいらしい形に成長したサボテンを買ってきた。

 大きなおせんべい形の茎(サボテンの緑色の部分って『茎』なんだって!)から、ちょこんと、尖った芽がまっすぐ出ている。どこかウルトラマンの顔の形に似ていた。
 お店には他にもサボテンはいっぱいあって、丸くてトゲトゲしたやつとか、棒状に伸びたやつとか、いっぱいいるのだけれど、私はウルトラマンの顔の形をしたそれが気に入って、買って帰ってきたのである。

 私は、植物を買うということがほとんどない。

 植物を育てないのではなくて、種からしか育てないからだ。野菜はすべて苗ではなく種から育ててきた。ここだけの話、知らないひとの家の庭に生えている枇杷の樹から路上に落ちていた実を拾ってきて、種をとり、育てている苗もある。なんだか、種から育てるほうが、植物と仲良くなれて、長い時間を親密に過ごせる気がする。
 苗から育てるのも悪くはないのだけれど、学校でイベントのときだけ仲良くなってそれ以降は関わりのない同級生、みたいな、育てているそのときだけは一緒だけれど、ほんとうはお互いに別々の未来を向いているという感じ、苗にはそういう寂しさがあるのだ。

 サボテンはどうなのか?

 サボテンも私とは違う未来を向いているのか?

 いいや、サボテンはそんなこと、なさそうな気がする。

 あいつらは他の植物よりもっと単純で、茎から芽を出して伸ばしていくことしか考えていない。どんどん伸ばしていくと、そこで成長を終わらせて、また新しい芽を出す。もとの茎が薄いのに、そんなに伸びても大丈夫なのか。
 いや、サボテンはきっと、そんなことも考えていない。ただ伸びたいのだ、ずっと空の上に向かって。

 それはいろいろな考えがあっての成長なのかもしれないけれど、サボテンを眺めているとき、枝葉を茂らせ、日光の差し込む方にがんばって幹を太らせ、地中では他の樹木と根っこで交信し、という頭の良い照葉樹たちよりもそのシンプルにひとりで生きる姿が、疲れたこころを癒してくれる。

 いのちって、単純に生きていればいいんだって感じがする。
 
 そのうち、家の中に置いておけないぐらい育ったらお庭で地植えにしてあげようかな。
 きっとこれから、樹木と見紛うぐらい、大きく成長するはずだから。


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