たとえ八方塞がりでも、患者さんのために九本目の道を冷静に、情熱的に探せる病院でありたい【まちだ丘の上病院新院長に、小森將史が就任しました】
10月1日付けで、前院長米倉の後を引き継ぎまして、小森將史(こもり まさふみ)がまちだ丘の上病院(通称:まちおか)の新院長に就任しました。
現在、日本は高齢社会となり、生活習慣病などの慢性疾患を抱えて、病気と共に人生を歩む方が増えています。
慢性期の患者に寄り添う療養病院のニーズはより一層高まっていますが、一方でさまざまな課題が噴出しているのも現実です。
例えば、これまでの医療は病気を「治す」ことが中心であり、「病気と共に残りの長い人生を歩む」方々をサポートする医療体制はまだ十分に整っていないのが現状です。
事実、療養病院をとりまく現行の医療制度は、一人ひとりの患者の願いを叶え、充実した生活を送るうえで十分なものとはいえません。また、今後ますます高齢者の方が増えていくなかで、病院だけが医療ニーズに応える従来の仕組みはなりたたなくなっていくでしょう。
「たとえ八方塞がりでも、患者さんが願う人生をサポートするために、九本目の道を冷静に、そして情熱的に探せる病院でありたい」
今後まちおかが目指していくべきビジョンを、小森はそう表現しています。
では、そんな医療をまちおかでどう実現していくつもりなのか。今日は院長に就任した小森に、慢性期医療をとりまく課題や、まちおかが目指す未来について聞きました(聞き手:事務長 高橋信一)。
まちおかでは、一緒に働くスタッフを募集しています。詳しくはこのnoteの末尾をご覧ください。
患者の願いに寄り添う、地域に根ざした病院へ
高橋:さっそくこれからの展望について聞いていきたいと思います。小森さんは、今後まちおかをどんな病院にしていきたいと考えていますか?
小森:これは2017年の開設以来ずっと掲げている理念ですが、まちおかを地域に根付いた、地域の方々の人生に寄り添う病院にしていきたいと考えています。
2019年には、日本の総人口に占める65歳以上の割合は28%を越えました(内閣府「令和2年版高齢社会白書」より)。
これまでは「病気を治す」医療が中心でしたが、高齢社会では生活習慣病などの慢性疾患を抱えて、病気と長く付き合っていく方も増えていきます。「治す」だけでなく「病気とともに人生をどう歩んでいくのかを一緒に考え、患者さんが望む人生をサポートする医療」が求められるようになりつつあると感じています。
まちだ丘の上病院 新院長 小森將史
高橋:「患者さんが望む人生をサポートする医療」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
小森:例えば、慢性疾患の患者さんがいるとしますよね。その方の願いが「孫が成人するまで生きたい」なのか「残りの人生は我慢することなく、自分が好きなことをやって生きたい」なのかによって医療的なサポートの方法は大きく変わります。
前者の場合は、塩分やアルコールの摂取を控えるなど、生活習慣に介入するサポートになります。しかし、後者であれば好きなものを思い切り食べて、好きなことができるように応援するような関わりになるでしょう。
高橋:患者さんの願いに応じて提供する医療を変えていくということですね。
小森:ええ、そうです。ただ、患者さんの願いに寄り添う医療を実現するのは、現在の医療現場では簡単ではありません。一般的な外来の診察時間は3分ほど。短い時間のなかで願いを聞き取り、医療方針をすりあわせるのはどうしてもハードルが高いからです。
高橋:たしかに今の医療は、患者さんの願いに寄り添いきるものになっていないケースも多いですよね。
小森:では、どうするのか。僕はその答えは、病院と地域の距離を近づけていくことにあると思っています。
高橋:病院と地域の距離を近づけていくというと?
小森:医療者が地域の方々の日々の暮らしに溶け込んでいけば、目の前の方が日頃から何を食べ、どんな活動をし、どんな人たちと時間を過ごしているのか。また、どんな価値観をもって、人生を送っているのかを普段から感じ取れます。
普段から一緒の空間で時間を過ごすことで、知り得た情報や築かれた関係性が、結果として「人生に寄り添った医療」につながっていくのではないかと考えているのです。
高橋:そうした医療を実現していくためにも、まちおかを地域に根づいた病院にしていきたということですね。
小森:はい。また、医療者が身近なところにいれば、健康に関する質問も気軽に投げかけられるようになると考えています。実際に以前、町の自治会の寄り合いに参加させてもらったのですが、地域住民の方々がたくさん健康に関する質問をしてくださったんですよね。
かかりつけ医にわざわざ相談するほどではけれど、食生活や運動習慣の小さな疑問、体調への不安がみなさんのなかにあるのだなと気づきました。
普段の暮らしのなかに医療者がいることでそうした疑問や不安を日頃から解消できる。地域に根づいた病院であることは、みなさんが健康で充実した暮らしを歩んでいくうえでとても大切だと感じたんです。
「病気になったら行く所」ではなく、日常に溶け込んだ病院でありたい
高橋:実際に地域に根ざした病院にしていくために、どのように歩みを進めていく予定ですか?
小森:鍵になるのが、メディカル・ヴィレッジ事業だと考えています。2020年10月には、この事業の一環として、健康をテーマにしたカフェに、訪問看護ステーションを併設したコミュニティスペース「ヨリドコ小野路宿」をオープンしました。
これまで病院は「病気になったら行く所」というイメージを持っていた方も多いかもしれません。
しかし、病気になってからはじめて医療者と地域の方々が会うのでは遅い。もっと日常的に地域の人と関わる機会がつくれないだろうか。そう考えて生まれたのが、「あるといいながあるところ。」をコンセプトにしたヨリドコ小野路宿でした。
ただ物理的に「集まれる」場所というだけではなく、地域の方々の想いや力が集まり、共にまなびあえるような、そんな場所にしていきたいと考えています。
ヨリドコ小野路宿が掲げる3つの方針
高橋:開設前の内覧会には多くの地域の方々がいらっしゃいました。「これからヨリドコ小野路宿をこんな場所にしていきたい」という意見もたくさん集まりましたよね。
小森:ええ。これからも地域の方と一緒にヨリドコ小野路宿をつくりあげていきたいですね。
願いに寄り添うには「適切」にリスクをとる必要がある
高橋:まちおかは療養型病院であり、入院している慢性期の患者さんも多くいらっしゃいます。入院している患者さんに提供する医療に関して、大切にしたい方針を教えて下さい。
小森:基本的な医療の方針は外来と変わりません。その人が残りの人生をどう生きたいのかという願いを尊重した医療を行うこと。これが一番大切だと思っています。
例えば、先日胃がんの患者さんが入院されました。がんが進行していたので、鼻からチューブを入れて、唾液や胃酸を排出する処置をしていたのですが、その患者さんが「コーラとキャラメルが食べたい」とおっしゃったんですね。
刺激物を胃内に入れれば、出血のリスクなどがあります。だからといって「リスクがあるからダメです」と伝えるのでは、本当に患者さんの願いに寄り添った医療になっているのかな、と。
そこで、ご本人にリスクについて説明しました。すると、ご本人が「それでも食べたい」と。結果として、リスクを最大限に下げる処置を行なったうえで、コーラやキャラメルを食べてもらいました。
リスクがあるからといってすべての願いを諦めてもらうことをよしとしたくはありません。まちおかは、リスクを下げながらも、患者さんの想いに寄り添った医療をどうすれば提供できるかを考えて続ける病院でありたいと考えています。
全員が同じ方向を向いて医療を提供できるチームづくりを
高橋:ここまで話してきたような医療を実現するためには、院長だけが信念を持っていても意味がありません。スタッフ全員が同じ方向を向いて医療を行うために、何をしていきますか?
小森:患者さん一人ひとりの願いに寄り添うためには、まずスタッフ一人ひとりに時間と心の余裕がなくてはならないと考えています。余裕がなければ、患者さんの変化に気づけなくなってしまいますから。そこで、今後はよりいっそう業務効率化に力を入れていきたいと考えています。
またもう一つ大切だと感じているのが「患者さんの願いに寄り添う医療のありかた」を共に考え尽くせるチーム・組織づくりです。
高橋:共に考え尽くせるチーム、ですか?
小森:ええ。2020年4月から、週3回30分間、医師、看護師、理学療法士、栄養士など様々な職種のスタッフが集まり、情報共有等を行なう「多職種カンファレンス」を実施しています。
新患や既存患者さんの情報共有を行うのはもちろんですが、患者さんへのケアのあり方について議論する時間も設けています。これが「共に考え尽くせるチーム」への足がかりにもなっていると感じています。
高橋:例えばどんな議論を行なっているのでしょうか?
例えば、リスクがあるなかで、どこまで患者さんの願いを尊重するのか。その希望を叶えるとしたら、どうリスクを下げるのかといった議論です。先程のコーラとキャラメルを食べたいとおっしゃった患者さんのような事例ですね。
また、延命に関する議論など、医療倫理に関わることについても意見を交わします。こういった話題は、正解がないからこそ、多職種の多面的な視点から議論する必要があると思っています。
願いを込めた「タイムカプセルプロジェクト」!?
高橋:実際に多職種カンファレンスを実施するなかで、スタッフから自然と「こんな医療を届けていきたい」というアイデアが生まれてくるようになったそうですよね。
小森:そうなんです。先日は、こんなケースがありました。
頚椎症で上肢下肢の麻痺がある患者さんがいらっしゃったんですね。その方に看護補助者のスタッフが「これからの人生でなにかやりたいことはありますか?」と聞いたそうなんです。すると、色々考えた結果、「孫が小学生になったときに読む手紙を書きたい」と。
とはいえ、その方は全身に麻痺があり、ご自身で手紙を書くことが難しかった。そこでスタッフがインタビューして、手紙を代筆したんだそうです。
それが、結果的にすごくよかったみたいで。お孫さんに話したいことをまとめていくなかで、ご自身がどんな人生を歩んできたのか、人生にはどんな意味があったのかを振り返る時間になったようです。そうやって書いた手紙をタイムカプセルにして、将来孫に届くようにしてあるのだそうです。
また、手があまり動かせない患者さんがいらっしゃったのですが、退院したあとの生活が便利になるようにと、アレクサの使い方を一緒に学ぶ時間をとったケースもありました。
高橋:そういったアイデアが次々と多職種カンファレンスにもちこまれるようになってきたのは、とてもよい流れですよね。
小森:ええ。環境さえ整っていれば、まちおかのスタッフは一人ひとりに寄り添う力がある方ばかりだと思っています。だから、職員の話を聞き、励まし合いながら、「患者さんの願いを尊重する医療」というゴールに向かうサポートを、院長としてできたらと思っています。
これは、本質的には臨床医として患者さんに接する際のスタンスと変わらないとも思っています。患者さんの話を聞き、健康になるためのゴール設定をして、励まし、一緒に歩んでいく。
そんなふうに、患者さんにとっても、スタッフにとっても、よい伴走者になりたいと考えています。伴走者として寄り添いながら、患者さんの「欲を言えばこうしたい」という願いを実現していけるような組織、チームをつくっていきたいですね。
険しい道のりを一緒に歩んでくれる仲間と働きたい
高橋:最後に、記事を読んでいる方に、一言メッセージをお願いします。
小森:在宅医療を望まれる方は多いですが、ご家庭の事情等もあり、その希望が叶う方ばかりではありません。今後、療養病院の社会的ニーズはさらに増えていくと思います。
それにも関わらず、現在療養病院では、様々な制約から患者さんの希望に沿ったきめ細やかな医療を届けづらい環境になっています。
例えば、現行制度では、医療の必要性が下がったり、自立度が上がると診療報酬が減る仕組みとなっているんですね。ですから、患者さんの「自分で歩きたい」「自分で食べたい」という願いを療養病院で叶えづらいといった構造的な課題があります。
また、療養病院では寝たきりの方を想定した人員配置規定が定められています。患者さんが自力で食事・歩行ができるようになって食事や移動の介助が必要になると、スタッフの負担が増えてしまうといった懸念も聞きます。このように制度的、環境的要因から、療養病院において「患者さんの願いを叶える医療を提供していく」ハードルはとても高いのです(詳しくはこちらの記事を参考)。
だからといって、目指すべき方向を変えるのは違うと思う。あくまでまちおかが目指すのは、その一人の患者さんの願いを叶え、人生に寄り添う医療を提供していくことです。
だからこそ、厳しい状況のなかで、患者さんの希望を引き出して実行していかなくてはいけない。この挑戦は「八方塞がりのなかで、9本目の道を冷静に、そして情熱的に探すこと」でもあると思っています。
地域のみなさんとそういう病院を一緒につくりあげていきたいですし、「9本目の道」を一緒に探してくれる仲間と一緒に働けたら嬉しいなと思っています。
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まちおかでは、私たちと一緒に働くスタッフを募集しています。もし、ここまで読んでまちおかで働くことに興味をもってくださったかたは、ぜひこちらの募集要項をご覧ください。
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担当者:まちだ丘の上病院 人事課 加納
✉:office6@machida-hospital.com
お読みいただき、ありがとうございました。