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【本人訴訟シリーズ】本人訴訟で未払い残業代を請求する

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未払い残業代問題を取り上げます。自分だけの力で労働審判を起こしてブラック企業から未払い残業代を取り戻す!そのための実務的なノウハウや労働審判手続申立書など書面の作成について解説し…
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#サービス残業

証拠説明書の書き方~その3【雇用契約書】~

前回のnoteで述べた通り、「雇用契約書」と「タイムカード」と「給与支給明細書」は未払い残業代の請求に際しての最強の証拠3点セットです。今回のnoteでは、その中でも最も重要な書証とも言える「雇用契約書」を取り上げたいと思います。 雇用契約書とは、労働者と雇主との間で締結される、労働条件にかかわる契約書のことです。署名捺印がされているはずです。 雇用契約を締結した労働者は、その会社の従業員ということになります。労働審判や民事訴訟の書面では「社員」という言葉はあまり見かけず

証拠説明書の書き方~その2~

証拠説明書にリストアップされる書証は、当然、労働審判手続申立書での記述と連動します。では、その申立書のどのような事実の記述に対して書証を付ければよいのでしょうか。あるいは、どのような事実について立証が必要なのでしょうか。 まず、民事訴訟法第179条によれば、「当事者が自白した事実」と「顕著な事実」は「証明することを要しない事実」とされています。前者の民事事件で言う「自白」とは、刑事事件のそれとは意味合いが異なり、申立人/原告ないし相手方/被告がみずからに不利となる事実を認め

証拠説明書の書き方~その1~

労働審判の申立てに際して作成・提出する書面については、第12回のコラムで説明しました。そのうち、まず「労働審判手続申立書」の書き方について、第14回、第15回、第16回、第19回、第20回、第21回、第23回、第24回のコラムにて、私の申立書の事例を書き出しながら、詳しく解説しました。また、労働審判手続申立書のテンプレートを(有料ではありますが)第25回のコラムで提示させていただきました。 今回から数回にわたっては、証拠説明書の書き方について解説していきたいと思います。

「固定残業代制」で残業代をごまかされるな!

前回のコラムでは、会社(雇い主)による「裁量労働制」の悪用に対抗するポイントについて解説しました。今回は、やはり、悪用されてしまえば、未払い残業代が発生する恐れのある「固定残業代制」について述べたいと思います。 「固定残業代」とは、読んで字の通り、あらかじめ固定額として設定された残業代です。労働基準法上の規定がある「裁量労働制」とはちがって、「固定残業代制」には法律上の定めがありません。なので、固定残業代制は、法律に基づく制度ではなく、雇用契約ないし就業規則や賃金規程による

「裁量労働制」で残業代をごまかされるな!

未払い残業代を請求された会社(雇い主)が労働審判や民事訴訟で「あなたとは労働契約を結んでいるわけではないので、あなたは従業員じゃない」、「あなたは課長なので、あなたは管理監督者だ」と主張してくることがあります。ともに、未払い残業代を請求された会社がその支払いを免れるための戦術。それぞれの反論ポイントは、前々回のコラムでは「労働者性」、前回のコラムでは「管理監督者性」について解説しましたので、そちらを参考にしてください。 今回と次回のコラムでは、やはり残業代の支払を避けるため

「管理者には残業代は出ない」にだまされるな!

今回のコラムで言いたいこと。それは、「課長や部長など管理職には残業代は支給されない」は必ずしも正しくはないってことです。 労働基準法第41条には「労働時間等に関する規定の適用除外」が定められています。その同条2号に基づけば、管理監督者や機密の事項を取り扱う従業員であれば、残業をしても普通残業については割増賃金を支給する必要がありません。これを「管理監督者性」と言います。確かに、労働者が管理監督者であるならば、普通残業代は支給されないということになるのです。  しかし、だか

「労働者」じゃなければ残業代は支給されない!

労働審判手続申立書の次は証拠説明書の解説に入りたいと思いますが、切りが良いので、ここで、いくつか大切な用語について説明をしておきたいと思います。今回は「労働者性」についてです。 「労働者性」とは、「法的に労働者として捉えられるための適格性」くらいの意味に考えてください。 私は、このコラムシリーズの第一回で、「労働者なら、法律で定められた一日の労働時間は8時間。8時間を超えて仕事をすると、それは時間外労働になります。時間外労働をすると、労働基準法にしたがって割増賃金(残業代

労働審判手続申立書の書き方~その8~

前回のnoteをもって労働審判手続申立書の本文の説明を終えました。「当事者」「請求の価額」「第一 申立ての趣旨」「第二 申立ての理由」それぞれの箇所について、私が実際に使用した申立書をもとに説明しました。今回は、申立書の一部としてみなされる「証拠方法」「附属書類」「別紙」について解説していきます。 やはり、私の申立書から該当箇所を抜き出します。 ================================== 証拠方法 甲第1号証  雇用契約書 甲第2号証  給与支給明

労働審判手続申立書の書き方~その7~

第21回のnoteまでに、労働審判手続申立書の主要部分についての説明は終わりました。第16回のコラムで「第2 申立ての理由」の構成を示していますが、残りは「5.付加金の請求」と「6.申立てに至る経緯・概要」の箇所です。 まず、私が使用した申立書の当該箇所を書き出します。 ================================== 5.付加金の請求 相手方は残業代の支払い義務を履行していないことから労働基準法第37条1項を遵守しておらず、このことは同法第114条の要

労働審判手続申立書の書き方~その6~

第16回、第19回、第20回のnoteで、労働審判手続申立書の「第2 申立ての理由」の「1.当事者」「2.所定労働時間、及び基礎賃金」「3.残業の実績」まで解説してきました。これで「当事者の定義」⇒「事実関係の明確化」ができたわけですから、次は「(相手方の)支払義務の主張」です。その主張をするのが、申立書の「4.未払い残業代の請求」の箇所です。では、解説していきましょう。 まず、(1)残業代請求に際しての基礎賃金。ここのまでの申立書の記述から、「年間の給与の基礎額÷年間の所

労働審判手続申立書の書き方~その5~

まず復習から。第19回noteで解説したように、割増賃金(残業代)を算出するための計算式は、      割増賃金(残業代)=基礎賃金×割増率×所定外労働時間 です。基礎賃金はいわゆる時給。割増率の最低ラインは労働基準法第37条1項に基づいて1.25(会社によっては、就業規則や賃金規程で割増率を1.30など高めに設定しているところもあるかもしれません。)。所定外労働時間は残業をした時間。例えば、時給が1310円として、ある月に残業を合計20時間したとします。であれば、その月の

労働審判手続申立書の書き方~その4~

第16回のnoteでは、「第2 申立ての理由」の構成を示した上で、「1.当事者」について解説しました。続けて、同じく「第2 申立ての理由」の「2.所定労働時間、及び基礎賃金」「3.残業の実績」「4.未払い残業代の請求」について書いていきたいと思います。 まず、私が使用した申立書の当該箇所を書き出します。 ================================== 2.所定労働時間、及び基礎賃金 (1)所定労働時間 申立人の所定就業時間は午前9時から午後6時とされ、

賃金請求権の消滅時効は2年!

今回も、前回と同じくちょっと休憩して、労働審判手続申立書の書き方から少し離れたいと思います。今回は、賃金請求権の消滅時効についてです。 まず、賃金とは、労働基準法第11条によれば、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」とされています。給料、残業代、アルバイト料、時給、日給、報酬など名称はともかく、正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマーなどといった立場に関係なくいかなる人(労働者)にも、その提供した労務の対

雇主に対するペナルティとしての付加金

第14回、第15回、第16回のコラムでは、労働審判手続申立書の書き方について、私が実際に使用した書面を書き出しながら解説してきました。続いて、立証活動の中核である申立書の「申立ての理由」欄の解説に入っていきたいと思います。 でも、その前に、今回はちょっと休憩して、これまでも何回か出てきている「付加金」について解説しておこうと思います。 付加金は、残業代を支払ってもらっていない従業員・労働者にとって、いわば「切れ味鋭い懐刀」のようなものです。確かに切れ味は鋭そう。でも、あく