マガジンのカバー画像

【本人訴訟シリーズ】本人訴訟で未払い残業代を請求する

51
未払い残業代問題を取り上げます。自分だけの力で労働審判を起こしてブラック企業から未払い残業代を取り戻す!そのための実務的なノウハウや労働審判手続申立書など書面の作成について解説し…
運営しているクリエイター

#東京地裁

証拠説明書の書き方~その3【雇用契約書】~

前回のnoteで述べた通り、「雇用契約書」と「タイムカード」と「給与支給明細書」は未払い残業代の請求に際しての最強の証拠3点セットです。今回のnoteでは、その中でも最も重要な書証とも言える「雇用契約書」を取り上げたいと思います。 雇用契約書とは、労働者と雇主との間で締結される、労働条件にかかわる契約書のことです。署名捺印がされているはずです。 雇用契約を締結した労働者は、その会社の従業員ということになります。労働審判や民事訴訟の書面では「社員」という言葉はあまり見かけず

証拠説明書の書き方~その2~

証拠説明書にリストアップされる書証は、当然、労働審判手続申立書での記述と連動します。では、その申立書のどのような事実の記述に対して書証を付ければよいのでしょうか。あるいは、どのような事実について立証が必要なのでしょうか。 まず、民事訴訟法第179条によれば、「当事者が自白した事実」と「顕著な事実」は「証明することを要しない事実」とされています。前者の民事事件で言う「自白」とは、刑事事件のそれとは意味合いが異なり、申立人/原告ないし相手方/被告がみずからに不利となる事実を認め

証拠説明書の書き方~その1~

労働審判の申立てに際して作成・提出する書面については、第12回のコラムで説明しました。そのうち、まず「労働審判手続申立書」の書き方について、第14回、第15回、第16回、第19回、第20回、第21回、第23回、第24回のコラムにて、私の申立書の事例を書き出しながら、詳しく解説しました。また、労働審判手続申立書のテンプレートを(有料ではありますが)第25回のコラムで提示させていただきました。 今回から数回にわたっては、証拠説明書の書き方について解説していきたいと思います。

「固定残業代制」で残業代をごまかされるな!

前回のコラムでは、会社(雇い主)による「裁量労働制」の悪用に対抗するポイントについて解説しました。今回は、やはり、悪用されてしまえば、未払い残業代が発生する恐れのある「固定残業代制」について述べたいと思います。 「固定残業代」とは、読んで字の通り、あらかじめ固定額として設定された残業代です。労働基準法上の規定がある「裁量労働制」とはちがって、「固定残業代制」には法律上の定めがありません。なので、固定残業代制は、法律に基づく制度ではなく、雇用契約ないし就業規則や賃金規程による

「裁量労働制」で残業代をごまかされるな!

未払い残業代を請求された会社(雇い主)が労働審判や民事訴訟で「あなたとは労働契約を結んでいるわけではないので、あなたは従業員じゃない」、「あなたは課長なので、あなたは管理監督者だ」と主張してくることがあります。ともに、未払い残業代を請求された会社がその支払いを免れるための戦術。それぞれの反論ポイントは、前々回のコラムでは「労働者性」、前回のコラムでは「管理監督者性」について解説しましたので、そちらを参考にしてください。 今回と次回のコラムでは、やはり残業代の支払を避けるため

労働審判手続申立書の書き方~その8~

前回のnoteをもって労働審判手続申立書の本文の説明を終えました。「当事者」「請求の価額」「第一 申立ての趣旨」「第二 申立ての理由」それぞれの箇所について、私が実際に使用した申立書をもとに説明しました。今回は、申立書の一部としてみなされる「証拠方法」「附属書類」「別紙」について解説していきます。 やはり、私の申立書から該当箇所を抜き出します。 ================================== 証拠方法 甲第1号証  雇用契約書 甲第2号証  給与支給明

労働審判手続申立書の書き方~その7~

第21回のnoteまでに、労働審判手続申立書の主要部分についての説明は終わりました。第16回のコラムで「第2 申立ての理由」の構成を示していますが、残りは「5.付加金の請求」と「6.申立てに至る経緯・概要」の箇所です。 まず、私が使用した申立書の当該箇所を書き出します。 ================================== 5.付加金の請求 相手方は残業代の支払い義務を履行していないことから労働基準法第37条1項を遵守しておらず、このことは同法第114条の要

雇主に対するペナルティとしての付加金

第14回、第15回、第16回のコラムでは、労働審判手続申立書の書き方について、私が実際に使用した書面を書き出しながら解説してきました。続いて、立証活動の中核である申立書の「申立ての理由」欄の解説に入っていきたいと思います。 でも、その前に、今回はちょっと休憩して、これまでも何回か出てきている「付加金」について解説しておこうと思います。 付加金は、残業代を支払ってもらっていない従業員・労働者にとって、いわば「切れ味鋭い懐刀」のようなものです。確かに切れ味は鋭そう。でも、あく

労働審判手続申立書の書き方~その3~

前回のnoteでは、私が実際に作成・使用した労働審判手続申立書を使って、「当事者」「請求の価額」「申立ての趣旨」について解説しました。これから「申立ての理由」について述べていきたいと思います。この「申立ての理由」の部分こそ、立証活動そのもの。ここには労働審判(ないし民事訴訟)で「未払い残業代を請求する」ノウハウが詰まっています。ぜひ学んでいただければと思います。 私の労働審判手続申立書を事例にして解説をすすめる前に、「申立ての趣旨」の通りに未払い残業代を請求するに際して、ま

労働審判手続申立書の書き方~その2~

前回のnoteでは、労働審判手続申立書には「当事者」「申立ての趣旨」「申立ての理由」を含めなければならないこと、および「申立ての理由」では「証拠」をもとに「争点」毎の「事実関係」を明確にしなければならないことを述べました。今回から、未払い残業代を請求するために実際に申立てた労働審判事件を事例として、申立書の具体的な記述について解説します。 以下の記述は、私 街中利公が実際に作成・使用した申立書の最初のページ。「当事者」と「申立ての趣旨」の部分です。 なお、実際に本人訴訟で

労働審判手続申立書の書き方~その1~

前々回のnoteでは、労働審判手続きを申立てる際の書面について簡単に述べました。今回から数回にわたって、書面のなかでも最も重要な労働審判手続申立書(以下「申立書」といいます)の書き方について解説したいと思います。 労働審判法第5条・労働審判規則第9条によれば、申立人が作成・提出する申立書には少なくとも次が記載されていなければなりません。 第一に、当事者。「申立人」と「相手方」の名前、住所(書面の送達先住所)、連絡先をそれぞれ記述します。「申立人」名の右側に認印を押印してく

初めて東京地裁に行く

今回は少し趣向を変えて、私が労働審判手続きを実際に申立てた東京地方裁判所についての話をしたいと思います。 地下鉄日比谷線の霞が関駅で下車、A1出口から徒歩1分で東京地裁の正面玄関です。官庁街のど真ん中。近くには、農林水産省、経済産業省などがあります。東京地裁の建物はテレビで見たことがあります。正門のところでは、よく団体が拡声器で叫んだりビラを配ったりしています。私が最初に東京地裁を訪れた時は、何かの団体の代表者がある判決に不満を持っているようで、裁判官らしき人を非難している

労働審判を申立てる際の書面

今回は、労働審判の申立てに必要とされる書面について解説していきたいと思います。 申立人(労働者)が、相手方(雇用主/会社)に対して、地方裁判所に労働審判手続き(本人訴訟)を申立てる。この時、作成・提出しなければならないものは基本的には次の4点です;①労働審判手続申立書、②書証、③証拠説明書、④資格証明書。他に、裁判所から「争点整理表」の作成・提出を指示される場合もあります。詳しくは改めて解説しますので、今回はそれぞれがどんなものかだけを簡単に述べておきます。 まず、労働審

労働審判の目的はあくまで和解すること

労働審判は労働に関する紛争を早期に解決するための制度。100%満足できるものではないにせよ、申立人・相手方双方が「これなら納得せざるを得ない」と思う金額ラインを、原則3回以内の期日に探るものです。 例えば、大雑把には、このようなケースです。申立人は、未払い残業代を100万円請求。相手方は、申立人は管理監督者(「管理監督者性」については、改めて解説します)の地位にあったのでそもそも残業が不存在と主張。労働審判委員会による審理・調整の結果、申立人は30%譲歩した70万円で納得。