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#書評 ネコ・かわいい殺し屋

おつリカ!
顔出しナシのLive配信アプリ『REALITY』でVLiverをしております、街村リカです。

本書はネコ(使役あるいはペット由来のネコ)を生態系の外来捕食者として捉えた初めての本格本である。
著者はネコの専門家というわけではなく、訳者含め皆、鳥類学や生態・保全生物学の研究者である。
自身の研究に携わる中で「ネコ問題」に直面し、のっぴきならない状況に身を置いてきたというわけだ。

イエネコは絶滅種238種のうち33種(約14%)の絶滅の一因か主要因

研究によれば、驚くべきことに、全体としてイエネコは世界の爬虫類、鳥類、哺乳類の絶滅種238種のうち33種(約14%)の絶滅の一因か主要因になっていた。そしてこれらの数値は過小評価の可能性があると研究者らは結論づけている。

ネコの狩りの特徴の一つは待ち伏せ型であるということだ。長時間動かずに座り、襲いかかる好機を待つ。もう一つの特徴は、飢えから逃れるために獲物を殺すのではなく、空腹でなくても獲物が刺激となってさらに殺すことにある。
つまりネコはあっという間に野生化し、非常に優秀なハンターになりうるということだ。特に本書冒頭では、ニュージーランドの小島・スティーブンス島でたった数年のうちに起こった、ニュージーランドの固有鳥類・スチーフンイワサザイの絶滅が取り上げられ、ネコの狩猟能力の高さに言及している。

愛鳥家と愛猫家の闘い

本書の面白い特徴として、愛鳥家と愛猫家の対立構造を描いているところが挙げられる。
本来、どちらも動物をこよなく愛するナチュラリストであるはずなのに、特に愛猫家は愛するネコが他の動物や環境を脅かす存在であることを認めない。
本書でも「ネコはジャーナリストを『またたび』のように」引きつけ、研究者は多くの嫌がらせのメールや電話に対応したと述べている。殺害の脅迫まで受けたという。
野放しネコ(飼い主がいないネコ、飼い主が野外を自由に行動させるネコの両方を指す、本書の定義)は、人間という絶対的な味方を持ち、「かわいい」という圧倒的な武器で人の心を鷲掴みにしているということだろう。

野放しネコへの対応

しかしながら本書では、野放しネコの危険性を「野放しネコによる大量捕殺」「病気を媒介する存在」として警鐘を鳴らしている。
特に、狂犬病のイメージが強い犬の法整備は進んでいるが、ネコはほとんど進んでいないことや、ネコがペスト・バルトネラ菌・狂犬病・トキソプラズマ症など、人にうつる多くの病気を持っていることも明言している。

このような野放しネコが与える影響を解決するために、本書は、野放しネコを自然環境からきっぱり排除することが必要であると述べている。

自然保護のジレンマ

しかし、一つの生物を維持するために別の生物が犠牲になることは良いのだろうか。
一個体の動物の運命は一つの生態系の運命に勝るのだろうか。
これは、アメリカフクロウの生息数を減らすプログラムを例に取り説明がなされた。
そもそもマダラフクロウの生息地を増やすために行われたアメリカフクロウの排除プログラムだが、マダラフクロウが減った大部分の責任は、人為的な過剰伐採によるものであると結論づけられている。
人間が問題の発生に手を貸してしまったならば、たとえそれが他の種を殺すことを意味するとしても、マダラフクロウが受けた損失を補償するのは、人間の果たすべき役割だとして、アメリカフクロウの殺処分は「悲しき善行」と呼ばれている。

TNRへの言及

ところでTNRという言葉をご存知だろうか。TNRとはTrap-Neuter-Return、捕獲・不妊去勢・再放逐を表す頭文字である。つまり、野放しネコを捕まえ、不妊去勢を施し、意識が戻るとネコは捕獲された場所に戻されるというものだ。
本書がこのTNRの実態と限界についても言及している点は、非常に興味深い。
本書ではTNRを以下の点から「容認できない」としている。

  • TNRは野放しネコの生活を多少とも改善するが、野外環境がもたらすあらゆる困難にネコが立ち向かわなくてはならないことに変わりはない。

  • これらのネコに殺される動物にとって、本能的行動を抑えられない捕食者が舞い戻ることを意味し、保全の観点から容認できない

  • TNRされたネコはワクチンをいくつか接種されるが、免疫性を高める追加接種を受けることはほとんどないため、病気にかかりやすくなり、人間に感染させる可能性がある。

  • TNRは野放しネコの生息数を減少させない。

本書ではTNRの失敗の要因とTNRを支える迷信(TNRは時間の経過とともにネコの数を安定させ減少させることが証明されていて、今日アメリカにおける野生化ネコ管理の模範的な手法となっているというもの)について、丁寧に批判している。

ではどうすれば野放しネコは減るのだろうか

第一により責任のあるネコの飼い方を促すことが挙げられる。ネコはイヌのように扱われていないことに問題があり、狂犬病の恐ろしいイメージもあるが、イヌとは異なった扱われ方をされていることに問題がある。飼育許可制度なども有効的な手段であると論じられている。

また、ネコを室内で飼うことの利益は絶大で、病気から守られ、他の危険な動物の捕食にも遭わず安全で、車にはねられることもない。それでも「ネコは自由にネコらしくさせてやりたい」という人間の願望をネコの生活の質を高めるものであると考えている人はまだまだ多い。

なぜ自然は守らねばならないのか

トキソプラズマ症などの病気の媒介者であることもさることながら、ある生物種の数が減少あるいは地球上から消滅した場合の、我々が経験する文化的後遺症も深刻である。しかし、多くの人にそのことを理解してもらうのはさらに難しいと本書は語る。

一般の人が問題の大きさを把握できないという障壁があるからだ。
私自身、これは遠い外国の話で、日本で野放しネコの危険性がどのくらいあてはまるのか、本書を読むまで理解できなかった。

生態学者はよく、ある生物種の大切さを生命のつづれ織というイメージで表現する。つづれ織の中で果たしてる役割はわかっていないし、どのように組み合わさっているのか正確に理解されてはいない。しかし、織物がほつれ出した時、それが未来に対する重大な懸念になることはわかる。

野放しネコが自然環境の健全さに突きつける課題は、気候変動や過度な開発による生息地の消失といった巨大な課題に匹敵するわけではなく、私たち一人ひとりが取り組めて、比較的短期間に逆転できる問題であると本書は考える。


星新一の小説ではないが、可愛らしい人間のパートナーという確固たる地位を確立しているネコに対抗するのは容易なことではないと感じた。
わたし自身ネコ2匹の奴隷として、今後も安全な室内で飼い続けようと思うばかりである。

マッチ1本恋のもと あなたの心に火をつけたい❤️‍🔥
配信中毒お姉さん街村リカでした

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