見出し画像

普通の。チャイを淹れる

きょうは「マイカレー皿を作ってカレーパーティをしよう」という、毎年恒例のカレーパーティの日だった。

鎌倉のスパイス商アナンと、ときわ工房のコラボイベント。
ときわ工房でカレー皿を成形し、約1ヶ月後にアナン邸にお皿を受け取りに集まる。
じぶんで作ったお皿でカレーをよそって食べて、みんなでお皿を自慢して、見せ合う会。
わたしは企画の運営をしながら、当日はカレー作りを手伝ったり、ドリンクを作ったり、写真撮ったり、おしゃべりしたり、いわゆるなんでも係を担当している。

はじまって、もう6年くらい。ほぼ毎年やっている。
なんでそれがすぐわかるかというと、わたしがチャイボーイと出会ったのは、彼が小学校1年生の時だったからだ。

「何年生になったんだっけ?」と念の為確認したら、「6年生。」とちょっと恥ずかしそうに返された。
その一声は、成長期のはじまりをさりげなく告げた。

背が伸びた気がしたので聞いてみると、1年で10cm伸びたらしい。
人間ってすごくないですか。

みんながカレーを食べ終える頃、遅れてやってきた彼は縁側に座った。お母さんの隣でカレーを食べながらキッチンのテーブルにいるわたしをチラチラ見ている。
きっといつチャイを淹れるのか、準備を始めるのか、気にしているのだろう。

「そろそろ作る?」と聞くと「うん」と答えて、わたしたちはみんなの前でチャイを作るための準備をはじめる。

「きょうはどんなチャイが作りたい?」

「普通の。」

こころの中で「普通のってなんだよー」と思いながらニヤついてしまった。

わたしはカセットコンロや鍋を運び、彼は棚からスパイスを選ぶ。
6年生、6年目ともなると、迷わず手が伸びるようだ。

カルダモン、クローブ、シナモン、ブラックペッパー

「どれだっけ?」と聞かれることもなくなった。

切っておいた生のしょうがだけ渡した。

カセットコンロの上の鍋、水にスパイスを入れる。

彼は「うーん」と上の方に目をやりながら、シナモンを手にした。

ぎゅっと掴んで、また考えた。
どうやら割っていれるか、そのまま棒状で入れるか悩んでいるようだった。
結局割らずにポイッと入れた。

「もう半分入れる?」と聞かれたので
「いいんじゃない?」と答える。

だいたい「いいんじゃない?」「へぇ」と、隣で言っているのがわたしの役。

きょうの彼はスパイスを入れる時、よく考えていた。
昨年までは勢いでパッと掴んで「いれちゃえー」か「これでいいかな?」と聞いてくることが多かった。
確かめない分、上を向いて「うーん」という時間が長くなったようだった。

少し焼けて、逞しくなった腕が電灯に反射してピカピカしていた。
チャイが湧くまでの間、いつもわたしは彼にインタビューをする。

最近はどんなことしているのか、何が好きか、きょうの靴下は何?など。
(いつもかわいい柄の靴下やTシャツを着ている)
随分と素っ気ない返事だった。
どうやら恥ずかしいらしかった。

最後まで丁寧に淹れたチャイが出来上がった。
参加者20名近くが「おいしい」と口々に言う。
その度に照れては嬉しそうな顔をしていた。

チャイを飲んだみんなのほっぺは、あったかく柔らかくなったようだった。


======

チャイボーイへ

(お手紙をもらったのでここでお返事します)

きょうもありがとう。

君が淹れたチャイだけどさ、普通で、普通じゃなかったよ。

それは、スパイスの入れる量とか甘さとか淹れ方がどうとかそんな話ではなくて。
あのとびきりやさしくてまぁるい味は、君の普通のチャイで、これは他の人からしたら普通じゃない、真似できない特別なことなんだ。

わたしにも、世界中の誰もその普通は作れない。

でも、わたしや毎年来てくれている他の参加者の方々も、君の普通の味を知っている。

そうそう、これが君の味だねって、みんなが言う。

普通とは、そういうものなのかもしれないね。

君の普通はとてもすてきだよ。

きょうはおしゃべりが少なかったけれど、どこか見えない言葉でコソコソ話をしているような気持ちになっていたんだ。
なんとなく伝わった?

またチャイを一緒に淹れよう。

======

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?