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蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)|七十二候

冬の間、土中で冬籠りしていた虫が目覚め、地上に出てくるころ。
「啓」は開く、「蟄」は虫が隠れるという意味。


山はまだ雪です。
雪国の冬は長い。とてもとても長いのです。
駒の湯山荘も、11月から4月のゴールデンウイークまで、冬ごもりです。
4メートル以上の雪の下で、じっとじっと春を待っています。

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東京、深川育ちの私が、駒の湯山荘に嫁いできたのが21歳の時。
毎週日曜日に姉と私を連れ、日本橋のデパートまでショッピングに行くことを楽しみにしているような母に育てられた私にとって、山奥にぽつんとある一軒宿の駒の湯山荘は、まるで異世界でした。

電気も電話もない。
ほんとうに、なんにもない。

でも、夏の間はいいのです。
山はエネルギーに溢れ、
お客さまもいらっしゃるし、
女将としての仕事も忙しいし。

でも冬は違います。
一面、雪、雪、雪。
家に閉じこもり、じっとじっと、春を待つ日々です。

特に駒の湯山荘に来て初めての冬は
とても辛かったのを覚えています。
雪国の暮らしへの戸惑い、ホームシック。
暗く落ち込む日々でした。

そんなある日、
雪の合間から、小さな小さな虫が顔を出したのを見つけたのです。

「これは、なに?」

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全長は 米粒くらい。横幅は お米の3分の1くらい。
初めて見る虫です。

「雪虫の幼虫だ。これが出れば、春はもうすぐだ。雪も終わる」

そう夫に言われて見上げた先に、
マンサクの黄色い花が
天に向かって花びらを広げ、
笑いながら踊るように咲いていたのです。

春が来たーーーー!!

今も、雪虫の幼虫を見つけると、小躍りしたくなるほど嬉しくなります。


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人生於地
懸命於天
天地合気
命之日人
人は地によって身体を与えられ、
天によって命を繋ぐ。
天と地の気が融合しなければ、
人は生きられない。
『素問・宝命全形論』

東洋医学の基本は、全て自然の循環の中で行うことです。
気功も、自然の循環の中で、季節にあったものをやること。
これが基本中の基本です。

秋、葉が落ち、養分となり土に還り、
冬、雪の下で、じっくりエネルギーを溜めこむように、
人間も、冬の間じっくりと上手にエネルギーを溜めることが大切です。

特に私のように病気を抱えている場合、
冬の間しっかりと養生し、エネルギーを溜め込むことがとても大切です。
もし冬の間、しっかり養生せずに動き回ったら、
春、身体の悪いところが一気に出てきてしまうことがあります。

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春です。
待ちに待った春です。
冬の間、溜めて溜めて溜めていた
大地のエネルギーが一気に爆発する春です。

雪国の春の芽吹きを、エネルギーを、喜びを、
今、全身で感じています。

秘湯と気功に感謝を込めて。