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日本渡航日誌(2021-2022)② 強制隔離(12月31日~1月6日)

空港での長時間の検疫を終えて、乗ったバスが着いたのは、アパホテル博多駅筑紫口のセントラル棟だった。入国者は一人ずつ順にバスを降り、ホテルスタッフから必要な資料を渡され、注意事項を確認されて、それぞれの部屋に入る。小学生までは保護者と同部屋、13歳以上は各自の部屋を使うことになっているという。

隔離ホテル

わたしの番になって、言われるまま9階でエレベーターを降りると、廊下にデスクが設置されており、そこで健康状態のチェック表と、さまざまな注意事項の書かれた資料を渡されて、それから、袋に入ったインスタントラーメン類のなかから焼きそばUFOを選び、指定された部屋に入る。920号室だった。機内食を食べたので、空港でもらったおにぎりも、このUFOも食べなかった。おにぎりは夜食にしたが、UFOは結局食べずじまいで家まで持って帰り、今もある。

部屋には体温計とゴミ捨て用のビニール袋があり、タオルや、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、紙コップなどのアメニティが、ふだんより多めに置かれている。6日分ということらしい。あとは引き出しに粉末のお茶が3つ入っていた。電気湯沸かし器もある。消耗品は、電話で言えば追加で持ってきてくれる。

まずは、MySOSで待機場所を設定する。それから体温を測って健康状態のチェック表に記入する。それから荷物を広げて、充電の配線にとりかかる。さいわい、アパホテルの部屋は、デスク上に二つ(ひとつはユニバーサル仕様)、ベッドの上に二つと、たくさんコンセントがある。いろいろやった結果、デスク上のユニバーサル電源にノートPCの韓国式単子をつっこみ、もう一つは電気ポットと備品のドライヤーにあてる。ベッドのほうでスマートフォンを充電することにした。補助バッテリーやBluetoothイヤホン、レンタルしたWi-Fiルーターなどは、滞在中は移動しないので必要ない。それからパソコンとスマホのWi-Fiを、ホテルのものに設定しておく。

一人でもツインの部屋があてがわれることもあるらしいけど、わたしは不運にして完全なシングルルーム。動けるスペースがない。あと、アパ的な壁のもようを6日間ずっと見ていると、けっこうクレイジーな気分になる。

よかったこととしんどかったこと

前回の記事で書いたが、わたしが隔離に備えて韓国から持ってきたのは、フリーズドライ味噌汁、キムチ、韓国のり、ヨーグルト、菓子、などだった。生鮮食品の持ち出しは不可なので、せめてキムチで食物繊維とついでに酵素をと考えたのだったが、キムチの問題はにおい。食べ残しで冷蔵庫に入れると冷蔵庫のなかが、外に置くと部屋全体が、キムチのにおいに支配される。広い部屋ならいいけど、このシングルだと気になるかもしれない。不思議なことに、韓国のホテルならいっさい気にならないんだけどね。
のりは、食べにくいおかずのときに備えてだったが、おかずより、いちばん食べにくいのは冷たいごはんだったりする。でもないよりはいい。
味噌汁は、はっきりいって必須である。ごはんが冷たいので、温かいスープがないと、なかなか食が進まない。それも三食ずっとなので、単純計算で6日間だと18食ぶんの味噌汁がほしいくらいだ。味噌汁じゃなくとも、スープならなんでもいい。
ヨーグルトも正解。でも2、3本だとすぐになくなってしまう。

ホテルでの生活のきつさは、第一に乾燥だった。だから常時、湯船にお湯をはって、浴室のドアを開けて蒸気を入れていた。ポータブルの加湿器でもあればよかったかもしれない。
第二に、寝つきが悪くなる。なにしろ全然動いていないから、うまく眠れない。しかも、動画を見たり、だれかとチャットしたり、本を読んだりと、ずっと目に刺激を与え続けることになる。睡眠不足でぼーっとしていると、「お食事の準備が…」「ゴミを回収…」「検査する方は…」と館内放送で起こされ、弁当を受け取っては食べる。またぼーっとする。読書したりドラマなど見たりしてウトウトしては放送で起こされる。外に出ないし、メシ以外に予定もないから時間の感覚がおかしくなる。自宅待機になったら生活のリズムの再構築が必要。
第三に、洗濯ができない。ランドリーが使用できるという体験談も読んだけど、わたしのところは完全にダメだった。冬だし、ずっと部屋にいるからそうそう着替える必要もないけど、下着は6日分持ってきたほうがいいかもしれない。わたしは一度だけ浴槽で洗濯した。

そういえば、もうひとつ、準備してきたのが、無印良品で買ったスリッパだった。冬なのであたたかくて楽なものがいい。これで過ごせば靴下の洗濯もいらない。ホテルの備え付けのスリッパだと、どうも落ち着かない。

差し入れとデリバリー

到着した日、部屋に入る前に、ホテルのスタッフに差し入れとかデリバリーは可能ですかと尋ねてみた。「ああ、大丈夫ですよ。フロントで一度お預かりしてお部屋に届けるかたちになります」という。ああ、デリバリーOKなら楽勝じゃん、と思っていた。Uber Eatsのアプリを開き、モスバーガーなんか見ながらさあ注文というときに、いちおう尋ねてみることにした。
ホテルでは、フロントではなく、「事務局」の内線番号というのがあって、そこにかけると対応してくれる。「デリバリーは可能ですか」と尋ねると、「資料をご覧ください」と言う。資料の右上の日付は何日ですか。12月23日ですね。ダメです。
どうやら検疫に関するルールが更新されたらしく、それ以前に入所した人はいいけど、それ以後はダメということらしい。いろいろなところに上がっている体験談(この記事も含む)を参考にするときには、だから、日付が重要だ。とくに昨年12月からは、政策も変わり、ルールも変わり、マニュアルもころころ変わっているから。

知人や家族からの差し入れはOKだけど、これにも制限がある。

家族が差し入れをするというので、上の書類を写メして送った。持ってきてくれたのは、リクエストした追加の味噌汁、コロコロカーペットクリーナー、ウェットティッシュ。それに、バナナ、いちご、カップ麺、スナック菓子も入れてくれていた。じつはヨーグルトもリクエストしたが、断られたという。よく見ると乳製品はダメだとある。家族が品物を預けてから、10分後には部屋の前に届いていた。10分なら乳製品大丈夫じゃんとも思ったけど、それも規則というものだろう。コロコロは、ふだんのホテル宿泊と違い、部屋のそうじを自分でしなければならないから。3日くらいならほうっておくが、6日となるとちょっとコロコロしたくもなる。

検査

到着から3日目と、出所当日に検査がある。検査は唾液の検体で、前日、ドアの外に置かれた検査キットを受け取り、自分で採取して、当日の朝、6:45から7:15の間に、ドアの外側にマグネットでついている紙コップの中に入れる。さいわい、2回とも陰性。とくに何も言われないところを見ると、同乗の入国者のなかにも陽性は出なかったらしい。唾液の採取も、空港から数えて3度目。もはや慣れたものだ。

検査キット
紙コップのなかに検体を出しておく

隔離中は、MySOSのアプリで毎日、異常がないかどうかを報告しなければならない。それと、AIから位置確認の要請と、ビデオ通話が毎日2、3回ずつかかってくる。位置確認はボタンを押すだけだが、ビデオ通話のほうは30秒、顔を枠の中に入れたまま静止しろ、というもの。

それから、このアプリを立ち上げたときに、こんな脅迫めいた文言が送られてくる。「強力な水際対策」ってことだろうが、基本的にわれわれは疑われてるんだな、と実感する。ちなみに、「知人を招いたり」のところ、日本語教師は、「『たり』は必ず二度入れなさい」と教えている。この文章、期末考査なら減点じゃ。こんなどうでもいいことでも言ってやりたくなる、そんな言いぐさではある。

隔離中の食事については別の記事で記録してあるので、興味があればのぞいてほしい。これがマシなほうなのか、ひどいほうなのかは、よくわからない。

1月6日、昼に検査結果(陰性)の報告を受けて、その日の4時以降に退所となる。これも一人ずつ対応するので30分くらいかかった。マイクロバスで福岡空港の国際線ターミナルに向かい、そこで解散となる。

シャバの空気はしみるぜ。一回これを言ってみたかった。まだ隔離は終わっていないし、これから8日間の自宅待機だけど、それでも外に出ることがこんなにもうれしいとは。
シャバではまた感染者が増えていて、アメリカもヨーロッパもえらいことになっている。あのときは強制隔離なんて、ひどい目にも会ったよねと、♪いつか話せる日が来るわ♪ でもしばらくは我慢の時代が続く。シャバも楽ではなさそうだと思った。

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