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結実計画会議 vol.4 OnSite>喫茶ランドリー ホシノタニ団地

 小田急線座間駅のロータリーにはOdakyu OX(駅のスーパーマケット)や小田急マルシェ(駅ナカ小商業ビル)が面しています。ロータリーの奥に小さな抜け道的道路。少しそこを歩くと、白い団地が見え、その一棟目の一階に、座間市子育て支援施設があります。次の棟の一階に「喫茶ランドリー ホシノタニ団地」があるのです。
 喫茶ランドリー ホシノタニ団地 は、茨城県常総市出身の田中元子さんの「1階革命」を読み、行くことにしました。

「1階革命」の中では、面白いキーワード

・能動性の発露
・ダサいところには行かないし、かっこいいところとでは萎縮する
・ターゲティングやペルソナが当てにならない
・実家感

最近読んだまちづくり系の本の中では、飛び抜けてゆるく楽しい本です。現場そのもので、自分の取り組んでいる人材育成、事業開発、エリアマネジメントに非常に参考になる示唆があります。

このキーワードは私が本の中から選択したものですが、私にはリノベーションの施設の特徴だと感じました。

 以前から、公共のパークPFI等を利用した楽しめる公共空間と既存街区の連続性について、大きくギャップがある事は課題と捉えています。(「エリアマネジメントのフリーミアムの弱点」だといってます。)楽しめる公共空間は子育て世代中心に設計され、世代のダブりがなく、また無料で利用できるという点では、確かに多くのターゲットが、その仕組みに沿って遊んでいます。しかし無料の仕組みで遊べるエリアと、必要なものを購入したり、シェアしたり、またコミュニティに参加しながら自分の価値観を満たす場所である街区との間に様式的にも大きくギャップを感じています。その間を埋めてくれるものが、リノベーションやエリアリノベーションではないだろうかとも考えています。

 リノベーションの良さは、多世代にわたって、その建物やエリアに対する感じ方は多少違うけれど、親しみが初めからあるということです。リノベーションされた空間は、それこそ「ダサく」ない空間だけれど、「尖りすぎていない(もの凄くかっこいいところでもない)」空間でもあります。言い換えれば、ちょっとだけオシャレで、実家感も残した場所。そんなところでしょう。

 そこでは心へのプレッシャーもなく自然と、自らが動き出し、誰かと交流したり、何かをはじめる場所となるように設計していく事が、おそらく田中さんたちがはじめた「喫茶ランドリー」だと思います。
 施設ごとに通常なら、目的とする客層を設定します。楽しめる公共空間とて同じです。ですが実家感があり、若者世代、子育て世代、おばあちゃん、おじいちゃん世代も、通える喫茶店で、緩やかな世代間の交流ができ、何かやろうとする気持ちになれば、おそらく詳細なターゲティングなどがない場所に変わっていくでしょう。もともと売る側・システムや場所の提供側と利用側がはっきり分かれており、効率よく売上を上げていくものに対して考えられた目標設定の一部がターゲティングなので、皆さんが能動的に動き出すと、変わってきます。

さてキッカケは確かに田中元子さんの本でしたが、「ホシノシタ団地」はこれはこれで面白いストーリーがある様です。

 小田急電鉄の社宅として建てられたが、耐震上の問題から団地の使用を停止していました。住棟間隔が広いことから駅前に繋がる有効活用が出来ないか検討されたそうです。住棟の間は、駐車場と駐輪場に当てられていましたが、その広さを有効活用しながら、開発が行われました。貸し農園、ドッグラン、共有庭、など。

 元々独身向けの間取りだったのでしょう、リノベーション後は共働きや子供を持つ前の世代向けに1Rとシンプルなもので、駅近物件としては変わり抑えられている家賃も人気の一つ。

この開発に合わせて、座間駅ロータリーまわりの設備もいまのOXやMarcheにアップデートされました。

 ホシノシタ団地の1階には、座間市子育て支援施設も入っており、子育て世代の親子が土日には多く見られます。喫茶ランドリーには、その子住民以外の人達が、和気藹々と運営をしています。実際にお話しした皆さんは、小田急電鉄がターゲットしたDEWKSやプレファミリーとはかけ離れた世代の方々でしたが、彼らの友人がその場所を気軽に訪れたり、視察の方々や、地元の子供達の利用もありました。
 以前の使われない社宅団地から、入居待ちの出る駅近リノベーション物件にかわり、ゆったりとした庭空間と土日の能動的なイベントは、座間駅周辺の価値を高めています。

 団地再生事業協同組合さんのHPの資料を覗くと、「団地の流通促進 MUST ”7”」という説明があります。

「運営組織作り・意識改革・ブランディング・情報発信・マーケット創出・住み継ぎ・現況把握」の七つの項目が記載されていますが、まさに現況のまちの商店街の再生にも使えるマスト項目です。

 この七つの項目の中で最も早く実施したいのが、意識改革です。まちなかでも同じです。まずは能動性を身につける。動き出すことを自然と促す空間づくりと仕掛け作りに喫茶ランドリーの設計思想があるのだろうと感じました。施設利用者から始まる意識改革(「能動性の発露」の先)は団地住民を含め、周辺住民にもおこる事であり、ここから組織作りに大きく、外部性が加わりマーケット創出や、情報発信に繋がっていきます。

田中元子さんと一度、お話ししたいと感じた視察でした。


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