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良くならないと諦めていました

「良くならないと諦めていました」と、その方はおっしゃいました。

かれこれ5年以上も、ある症状に悩まれる方の言葉です。


医者としては、これ以上無い辛い言葉です(少なくとも私にとっては)。

治すことだけが医者の仕事ではないとはいえ、やはり少しでも良くすることが医者の本分だと、私はおもっています。


縁あって、数ヶ月前にこの方と出会いました。

お話を伺うと、本当に辛い症状でしばらくの間、悩まれていたことが分かりました。

「いやー、大変でしたね」と、つい率直な言葉が私の口からこぼれました。

その瞬間、その方はわずかながら涙を流されました。


わたしが、その涙で察したのは、症状が辛かったこともさることながら、きっと別の理由もあるだろうなと。ここでは書きません。


さて、せっかく出会いました。

町医者松嶋大、治してなんぼです。その方と私の闘いが始まります。

あれこれと頭を巡らせます。あれかな、これかな、それかなと。

ある程度あたりをつけて治療を開始します。

受診の都度。いくらか良くなったと、うれしい言葉を頂戴します。でもここで満足してはいけません。

すっかり良くすること。これが医者の本分です。

そんなとき、あることがピンと頭をめぐりました。

そこであるプロフェッショナルに繋ぎました。


プロフェッショナルの数回の対応後、その方は再び外来を受診されました。

「良くなりました!」と、とびきりの笑顔。美しい笑顔でした。

私は、正直なところたいしたことをやっていないのですが、でも嬉しかったですね。


そこで、その方に聞きました。これまでのことを。

「正直、どこに行っても、もう良くならないんだと諦めていました」と。

いわゆる無力感ですよね。


この無力はどこから来るのだろうか。

はっきり申し上げると、現代医療からくるのだと思います。


なんでしょうね。

一人の医療人としては、悔しい。でもそういうことなんだと思いました。


患者さんと医師。

いつからこんなに離れたんでしょう。

患者さんの辛さを受け止め、自分ごととして捉える。そして苦楽を共にする。

決して簡単なことではないと思いつつも、まずは少しでも苦を理解しようと努力することから始めないと、何も進まないと思うんですよね。


どこまでいっても溝はあるんだと思います。

天の川のように、隔てるものが。

でも天の川だって、年に1回はつながる日がありますよね。

ずっとつながらないわけではなくて。


すみません、抽象的な表現ばかりで。


ただ、私は、患者さんが助けを求めてきたときに溝や壁があって近寄れない存在ではなく、陸続きでありたいと思います。

また、そうであるように努力を続けたいと思います。


そして苦楽をともに。




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