ボケ - ツッコミの構図

先日、クローズドな演劇ワークショップに参加してきた。

テーマが「笑い」と自分の興味にぴったりだったのでノータイムで申し込んだ。かなり体感としての学びが多かったので、まとめてみようと思う。

やったワーク

ワークショップの形式は、基本的にはエチュード*をずっとやっていくような感じ。参加者は3人+講師役が1人で、2人1組や3人1組で合間にフィードバックを受けつつ進行していく。
内容としては、「笑いをとる」という大きな目的のもとで、4つの設定でショートコントとエチュード*をやった。一回絞った自由度をどんどん上げていく設計。

1. ショートコント(30秒くらい)をコピーして、演じる
2. 同じショートコントを、サイレントで演じる
3. 同じ設定で、[オチがつくor3分が経過する]まで自由にコントを演じる <- これが一番きつかったです
4. タイトルだけが与えられて、設定自由のエチュードを[オチがつくor3分が経過する]まで演じる

決まりとしては「ちょっとだけ無理に笑いを入れること」。「無理に入れる」ことを明示してもらったおかげで、「笑いを取りに行く」心理的安全性が与えられました笑

※エチュード:場所や場面、人物の性格などの設定が与えられていて、役者が自由に演じるワーク。設定は完全にされている場合も、部分的にしか与えられない場合もある。

縦軸と横軸

フィードバックに通底していたものとして、「縦軸の演技と横軸の演技を使い分ける意識」がある。
演技における縦軸、横軸を簡単に定義すると

縦軸:お客さんに対するコミュニケーション
横軸:共演者(相方)に対するコミュニケーション

である。

演技で笑いを取っていくコントにおいては、「縦軸」を使うタイミングにかなりセンシティブになる必要がある、という。
曰く、「笑い」を意識すると、人はついお客さん(=笑って欲しい人)の方に働きかけてしまうからということだ。ギリギリまで我慢(=横軸の演技)を続け、ここぞという時にお客さんの方をちょっと向いて「お笑いムーヴ」をちょっと出す。

実際にやってみると、やはりすぐ笑いを取ろうとしてお客さんの方を向いてしまう。また、それで多少笑いは来るものだから(多少無理に入れてるからね)、また欲しがって「演技」がおろそかになってしまう。
理屈ではわかっていたつもりだったし、コントをみる時そういう目でみていたつもりだけど、当たり前だが自分でやると全然できない。。

2つめのエチュードはサイレントだったのだけど、個人的にはサイレントの方が横軸に留まりやすかった。
言葉がないと共演者にも必死で伝えなくてはならないので、観客に見せるメモリが残ってない感じ。

その「横軸」感を維持したまま、3つめのエチュードに挑んだのだが、最初にショートコントをやった時よりはうまくいくもののどうも小さい笑いを取りにいってしまう。

そこで、やっと「ボケ・ツッコミ」という言葉が登場した。
[ボケ-ツッコミ]という構図をキープすることで間接的に縦軸の効果を作っていくという話だ。

結果としての[ボケ-ツッコミ]

「ボケとツッコミは、演じ手が意識したらダメ」という、ある回のフィードバックが、このワークショップ後半のテーマになった。
日常的な会話では、我々は「ボケ-ツッコミ」の役割を柔軟に入れ替えつつ会話を成り立たせている。「私はボケです!」と言わんばかりに変なことを言いまくる人は、基本めんどくさい。

コントにおいても、その種の「めんどくささ」はできるだけ避けるべきだ、という。ポイントというかコンセプトは「お客さんとの間の断絶を深くしすぎない」ことで、コントがあまりにテンプレに見えてしまうと、ステージと客席の間に距離が生まれすぎ、リアリティを損なってしまう(「商品」として見られてしまう)ので、大人気のスターやほかにいじってくれる人のいる場面(バラエティ番組とか)以外はその方式をとるべきでないとのことであった。

リアリティを保ちつつ、笑いの構図に持ち込むためには、お互いの言葉に真剣に対応するという作業が必要だ。
「ツッコミだから」こういう返しをする、ではなく、自分がこういう返しをした結果「ツッコミになる」という順序が大事であるとのこと。
前から感じていたことではあるが、実際にやるのはやっぱり難しい。ヒント、というか繰り返しフィードバックで言われたのは、「客席に伝えようとしない」というタームを心にインプットすることだった。別の人には、「目線や体の向き」を指導していて、しっくりくる方法を選べばいい、ということだった。
たぶん僕にはこっちの「タームを意識する」方法のほうがあっている。

ともあれ、あくまで相方に向けてリアクションを行っていくことで、お客さんには「構図」が見えてくる。これによって、個人の動きによる縦軸ではなく、コントの動きによる縦軸ができる。
構図がバシッと決まって、この縦軸の関係ができたときに、初めて個人の動きによる縦軸の演技をしていい、ということだった(でかい声のツッコミとかね)。お客さん全員が「こいつにはでかい声で突っ込んでいい」と了解できて初めて、「ツッコミ」としてのツッコミができるということだ。
この感覚をつかむのは時間がかかりそうだなあー。お客さんによっても変わると思うしね。

役割の「柔らかさ」

3つめのエチュードから、横軸をだいぶキープできるようになってきた。
そこで受けたフィードバックが、「ボケたい気持ちを無視しない」というものであった。
一見、ツッコミ役はあくまでツッコミをし続けたほうが構図を見せるには効率的な気がするが、ツッコみ続けるためにツッコミ人格を作りすぎると、ボケの人格と離れすぎて、構図が「固まって」しまうという。それはもう個人の縦軸の演技と変わらないよ、ということだ。

ボケ役を「狂人」として扱いすぎず、あくまで改善の見込みのある人として突っ込んでいく、その過程でちょっとふざけたくなったら、ふざけてみるということも必要とのこと。「役割演技の中だったら」ボケても大丈夫だということだ。
これはかなり難しく、前述した「お笑いムーヴ」に陥るリスクが結構ある。このワークショップの中では、ちょっと感覚をつかみきれず仕舞いだった。また別の機会に挑戦したい。

ともあれ、ボケ役の言動に対して「まともに取り合う」ことをやめないことが大事なのはわかった。これはすなわち、コントの「場」にリアリティを持つということで、これができると、[ボケ-ツッコミ]の構図が柔らかく保たれる。
この「柔らかい構図」をお客さんに見せていくことで、気持ちを引かせることなくコントを見せることができるという。

この観点は、最後の「設定自由」のエチュードですごくできてるかどうかが明らかになった。
このエチュードでは、お互いに打ち合わせず入場して、言葉や動作で場を作っていく。場を作っていく作業は、相手の発言にちゃんと向き合わないとできないわけだけど、「ボケ-ツッコミ」を固めて演技してしまうとその場を作る作業がどうもうまくいかない。
うまく共同作業で場が出来上がると、すでに柔らかい構図がある程度できている。設定が与えられている状況でも大事にしたい感覚だな、と思った。

感想とお誘い

総じて、笑いにおいても「演じる」ことがとても大事だと実感できた良いワークショップだった。またやるかどうかはわからないらしいので告知するものはないのだけど、ぜひいろんな人と行ってみたい。

人間、自信を持つ単位は基本「自分自身」である。でも、コントにおいては相手を巻き込んだ「場」に自信を持たなくてはならない(「自信」という言葉は適切じゃないかも)。
自分のセンスとか、技術とかに自信を持つのはもちろん必要なのだけど、無理に自信をブーストすると、場の意識がちょっとおろそかになってしまうので、その辺のメンタルコントロールはうまくなっていきたいなーと思った。

さて、誰かコントやりませんか。台本とか発表の場から一緒に考えてくれる人をゆるやかに募集します。

それでは!

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