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[君の名前で僕を呼んで] "Call Me By Your Name" (2018)

出会った時から、自分の気持ちに自信が持てなくなった。その人のことを好きになるかもしれないし、大嫌いになるかもしれない。ともに過ごす時間は期限付きだとわかっている。その人は多くのことを知っているし、とても魅力的で優しい。差し出されたジュースを一気に飲み干して、嬉しそうに人懐っこく笑う。かと思えば、”Later." と言い残し勝手にどこかへ行ってしまう。気づくと一挙手一投足に目を奪われていて、絡んだ視線や触れ合うその手に意味があるのか悩んだり、言葉ひとつで喜んだり落ち込んだりする。
得る前に失うことを予感しているけれど、生涯忘れられないものになるという確信めいたものもある。

そんな、ひと夏の恋。

私はこんなに素晴らしい初恋をしなかったし、好きがあふれて道を駆け出したりしたこともない。愛する人とひとつになりたくて、互いの名前で呼び合ったこともない。でも好きな人の服のにおいを嗅ぐのが好きで、Tシャツに顔をうずめたまま眠ったことはある。さすがにパンツかぶったことはないけど。
この作品で描かれているのはただの「青春の1ページ」にしてしまうのは惜しいほどの輝かしい恋で、そんな経験をしたことある人ばかりではないだろうけど、誰しも胸にじわりと来るものがあると思う。

夏の間だけやってきた24歳のアメリカ青年(大学院生の設定だけどどう考えても30歳すぎてるように見えるが)と多くの可能性を秘めた17歳の主人公の関係性というのは、古代ギリシャにあった同性愛(30歳前の男性と若い10代の男性による恋愛---性愛だけでなく多くの物事を教える関係---が理想とされており、30歳を過ぎると「卒業」して女性と結婚する)が根底にあるものなんだな。そのあたりの設定などがパンフレットに書いてあったらじっくり考察してみたいけど、売り切れでした…残念。週末に入荷するらしいから諦めないぞ。ユダヤ教について明るいほうがいろいろと考察できる映画だと思う。日本人にはなかなか難しい。
果実というのは肉体であり、愛である。アプリコット食べたい。(意味深)

あの夏の別れから季節はめぐって冬になり、「ハヌカ」という火の祭りの日。ギリシャ人による弾圧から逃れ、神殿を取り戻したユダヤ人が穢れのない油壺を見つけ火を灯すと、わずかな量しかないはずなのに八日間も燃え続けたという奇跡を祝うお祭りだ。かかってきたひとつの電話は一番待ちわびていた相手からだけれど、知らされたのは一番聞きたくなかった真実だった。暖炉を眺めながら涙するエリオのラストシーン。
「夏の間は何をして過ごす?」「夏の終わりを待つ」「冬は夏が来るのを待つのかい?」…
夏に交わした彼との会話を思い出しながら。
ひとつの恋を失ったあの夏の夜に、父親から送られた言葉を思い出しながら。

「今はひたすら悲しくつらいだろうが、痛みを葬るな。感じた喜びも忘れるな」

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