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[15時17分、パリ行き] "The 15:17 to Paris"(2018)

リアルヒーローを描き続けてきたクリント・イーストウッドが最新作で描いたのは、まさにドラマのようだ!と称えられた若者たちの実話。
2015年に起きた「タリス銃乱射事件」と呼ばれる無差別テロ事件で、武装した犯人に立ち向かったのは、ヨーロッパを旅行中だった3人のアメリカ青年だったー逃げ場のない密室で554人の乗客が恐怖する中、なぜ3人は果敢に挑めたのか。

究極のリアリティを追求した結果、「役者を使わない」という境地に達したイーストウッド監督。主役3人を演じるのは「本人」、つまり素人!でもおそらくそれを知らずに観た人は気づかないのではと思うほど、とても自然に進んで行く。
さらには、実際の高速列車の中で撮影を敢行している。乗り合わせた人たちも、なるべく本人役を演じてもらうべく集結したそうだ。当然ながら列車の中は撮影には向かない狭さなのだけど、リアルを追求するイーストウッドは「映画用の照明」を焚かないからこそ実現したとのこと。そしてリハーサルを嫌い、ほぼワンテイクで終える「早撮り」でも有名。
3人の目を通して物語を描きながら、なぜ勇敢な行動を取れたのか、ルーツを探る。裕福ではなく優等生でもなかった幼馴染の3人が、強い信仰と使命感を抱いていたり、それぞれの道に進んでからも友情を育んでいたり、ただ楽しく過ごす様子もふんだんに登場する。テロ事件での緊迫するやりとりだけを期待していくと、肩透かしを食らうと思う。旅行中にクラブでウェイウェイして飲んだくれたり、自撮り棒でセルフィしまくったりするシーンも出てくるから、正直「意味のないシーン」と思えるものもある。これは、ただの「テロリストに立ち向かった主人公のヒーローショー」ではないから。でもそれが真実で、教訓めいていないのが良い。

イーストウッドが、当初は主演役者のオーディションを進めながら、3人へ綿密な取材をしていく中で「演技は知性的な芸術ではない、感情的な芸術だ。彼らに、他の誰でもない、自分自身でいることを望んだだけ」と、方針を転換し本人たちに演じさせたというのが面白い。
すごいなぁ、「本人による再現映像」でここまでのクオリティ。その実験的な試みを観るためだけでも大いに価値ありだと思った。

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