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エビチリの契り

ある日、夫と町の中華屋でのんびり
お昼ご飯を食べていた。
が、彼が急に『なぜ、エビチリを注文しないんだ』眉を寄せた。

私は 何のこっちゃ??
分からなかったのだが、彼によると1年半前
お義母さんに言われたのだという。

私たちの結婚式の打ち合わせで、
私、彼、母の3人でホテルにいた。
なんだかんだと打ち合わせが長引き、
すっかり疲れて、中華料理を食べて帰ろうという話になった。

私がお手洗いにたったその時、
母は、緊張している彼にやおら話しかけた。
『◯◯はね、エビチリが好きなのよ』

彼としては一世一代の注文をつけられたと思い、固くその言葉を受け止めていた。

そうして
中華料理屋に入るたびに
今まで6回も『エビチリにしようか』と言ったのに、
一度も注文しないじゃないかと言い出したのだ。

そんなこと知らなかったよと、
大笑いしたのだが、

まさか、結婚前の大事な約束が、
エビチリだったとは!

私の母は明るく楽しい人である。母と歩いていると、やたら知り合いに会う。

年末に、自転車に乗っている母の友達とすれ違った。
母は、『あら?なんとかさん 元気?』と話しかけた。
相手は自転車に乗っているのに
どうするつもりだろうと見ていたら
『そう、よかった。〇〇○○、良いお年を〜』と相手を自転車から下ろすことなく、尺ピッタリで納めた。

さらに、犬の散歩をしている人にも
話しかける。
その時は、犬に向かって 言った。
『可愛いねえ、なんてお名前??』

犬を連れていた目の小さなおじいちゃんは、
こう言った。
『この犬、耳が聞こえないんです』
母は『あら、そうなの〜』

。。。話はつながっていた。

北海道の
ジャガイモ畑のど真ん中に、カルビーがお店を出しているところがある。

美味しいコロッケが食べられるのだが、
帰り、細い道でクルマ同士、すれ違った。
何を思ったか母は、突然、窓を開けた。
そうして、言った。
『コロッケ、最高!』

尺、ピッタリ。

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