見出し画像

12月の長井短「反応光速妻、長井短の勇敢なる初動」

咄嗟の行動に現れる人間性。私はそれを信じ、恐れている。私は気を抜くと、がっかりなことをする。もともとそういう節があるのに、不測の事態における咄嗟の行動なんて、がっかりの確率は爆上がりである。ニュースなんかを見ていると「うわマジ、なんでこんな事しちゃうの?」といった類の事件をよく目にするが、そんな偉そうなことを思いつつも、その状況になったら自分だって同じような事をしてしまうのかも、とも考える。咄嗟の行動は、無意識下で反射的に行われるため、その人の根本的な思考や習慣に密接である気がして、だからこそ、そういった状況における自分の行動で周囲をがっかりさせたくないし、自分自身にがっかりしたくないという恐怖がある。

咄嗟の行動は愚行だけでなく、優しさとしても現れる。大学生の頃、私は飲めない酒を飲み、気分が悪くなりトイレに駆け込んだ。個室の中で苦しんでいると、様子を見に来てくれた友人Kが背中をさすってくれた。すると、なかなか吐けない私を見かねて、Kは突然私の口に指を突っ込んだのだ。あまりにも予想外の展開に驚き、喉への刺激というよりは、驚きでもって私は盛大に吐いた。Kの手はゲロまみれであった。

逆の立場で考えた場合、私にこのような行動がとれただろうか?ためらってしまう気がするし、正直なところ、そんな発想すらなかったことに気付き、恥ずかしかった。そもそも、発想とか言っているうちはダメなのだろう。思考を経由していたら、ためらいが生まれる。もともと備わっている身体の機能のように、脊髄の反射で行う必要がある。目の前で友達が困っていたら助ける。Kの思考にはそれが深く根付いていたのだ。それ以来私は、酔っ払いが吐けずに苦しんでいたら指を突っ込むのを辞さない覚悟で生きている。

そこで、我が妻、長井である。Kもすごいが、長井もすごい。

夜中の2時過ぎ。私達夫婦は二人して寝付きが悪く、いつもの様にリビングでぼんやりとテレビを観ながらああだこうだくだらないことを喋っていた。

ガチャガチャ、ガチャガチャ。ガチャガチャガチャガチャガチャ。

不穏な音が玄関から響く。我が家は、リビングと玄関が扉一枚で隔たっているだけのなので、玄関での異変は手にとるように感じられる。

ガチャガチャガチャガチャ。

不穏な音はあきらめない。明らかにドアをこじ開けようとする音であった。

押し入り強盗、、、?!ん、、、、もしくは、長井パパママか?

長井パパママは以前、クリスマスにこっそり我々の部屋に忍び込み、サプライズでプレゼントを置こうとしていた事があった。まるで児童書に出てくるような、ファンシーほっこりエピソードであるが、今回は違う。クリスマスでも誕生日でもない。それに、終電もとっくに過ぎた真夜中である。

てことは、、、、強盗、、、もしくは何かしらのヤバい奴か、、、?

といった思考が私の頭を駆け巡るほんの数秒の間に、長井は玄関に向かう扉に手をかけていた。

ここから先は

970字

¥ 150

いただいたサポートによって、我が家の食卓のおかずが一品増えます!お願いしまーーーーーーーす!