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ファーストフライト

初めて飛行機に乗ったの覚えてますか。
窓に張り付いて雲を見たり、海を見たり。

中学2年の2月に初めて飛行機に乗った。
雪が降っていたのに、飛行機から見る景色は晴れ渡り。
「晴れているのは雲の上だからだよ」と、ほとんど話したことがない親戚のおじさんが教えてくれた。

3日前、国語の授業中に先生のあだ名を考えて遊んでいた。 ボリボリお腹を掻くから、「ボリコ」
中2にはちょうどいい笑いのつぼだった。
「ボリコLOVE」
ノートに書き出し、悪ふざけがピークに達した時、 教室の前のドアが急に開いた。 なんだかドラマでみるシーンだ。
大の大人がヒソヒソしている。

「おい、鈴木、ちょっといいか」
 おい、ボリコ、クラスには鈴木は3人いるんだぞ!

だけど、ボリコは僕の目を見て離さない。

知らせに来た話したこともない先生の車で、家に帰った。

市営住宅の4階に住む僕の家は、貧しかった。
貧しかったけど楽しかった。
父はキャバレーで鍵盤を叩くピアニスト
母はスナックのママさん

時代とともにカラオケが流行し、生演奏が少なくなり、父の仕事は結婚式の生演奏ぐらいになった。
生活のため、父の職業は、道路工事の作業員になった。
叩くのが鍵盤ではなく、つるはしになってしまった。 


「このままじゃ子供たちに格好がつかねえ」と冬場に工事が無い北海道をあとに本州に向かった矢先のことだ。

まずは、母親と姉ちゃん、そして父の姉が栃木県に向かった。
本州を結ぶ唯一の路線、羽田までの飛行機に乗って行った。
母親も姉ちゃんも、初めての飛行機だ。

それから2日後、同じ経路で僕も行くことが決まった。
父親の容態がマズイらしい。
翌朝1番の飛行機に、親戚のおじさんに連れられて 、乗った。

倒れた直後は少し動いていたようだが僕が着いた時には、ピクリとも動かなかった。

着いて2日後
「覚悟しなさい」 母親にそう言われた日、夜通し僕が付き添うことを決めた。

夜中にナースステーションから響く笑い声
一定のリズムで笑い声が起きる。 中2男子には、何の話かはわからない。
ものすごく嫌な気分だった。

父親の生を感じられる唯一の一定のリズムを放っていた心電計が狂い始めた。
すぐに笑い声は、止まった。

 笑い声の正体2人は、医師を呼び、白衣の天使に変わった。
もう、そんなことはどうでもいい。

「脳溢血」
全く縁もゆかりもない、栃木県で 中2男子は父親を失った。

帰りの飛行機にひとつ荷物が増えた。
重いようで軽い骨壷を抱えて、窓から空を見た。

「外は雨だけど、空は晴れてるね。 だから父さんのいるもっと上の空は、ずっと晴れてるんだ。」
そう、母親に教えてあげた。

窓側にしか乗らない理由はそんなところだ。

折り返しの人生を少しでも素敵に。 アップルコブラーというスイーツが好きです! それを手に入れるためのものも好きです。。。