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ごっこ遊びに棲む魔物

カトリック聖母幼稚園すずらん組。

園あげての一大行事「買い物ごっこ遊び」
僕は時計屋さん。
おかしの箱をくっつけて柱時計を作った。
同じグループの園児も、思い思いの時計を大小問わず作った。

日ごろ走り回っている大ホールの一等地で時計屋さんは華々しく開店した。

店員でもありながら、交代で買い物に出かけるのが買い物ごっこ遊びの掟だ。

時計屋さんは繁盛し、100円均一の時計は売れていった。
自分の買い物の順番が来て、折り紙で作った100円を握りしめ、時計屋さんを飛び出した。

ひとまわり。
お菓子屋さん。
魚釣りゲーム屋さん。
可愛い女の子の呼び込みが僕を誘う。

けれど、気になって仕方がない。
僕の時計がまだ売れていなかったのだ。

1つ、2つ、売れていく。
リッツパーティーをした後の箱と、きのこの山に勝ったたけのこの里の箱で、つくられた僕の時計が残っているのだ。
僕の足はガクガク震え、逃げるように、さらに商店街をひとまわり。
アイス屋さん、ドーナツ屋さんの店員に軽く会釈しながら、再度、時計屋さんに。

可愛い店員の透き通った声が聞こえた。
「残り1つですーーーー」

何が悪い?
他になにか、あの時に出来ることあった?
そうしたら、人生変わってた?
初恋の子と結ばれてた?

そうだよ。
自分で作った時計を自分で買う愚行を犯したのさ。

胸が苦しい 。今でも苦しい。

他のみんなも自分で買ったんだ。
もしくは、みんなグルになって頼みあったんだ。
そうに違いない。

幼稚園教諭の妻に、買い物ごっこには狂気、魔物が潜んでいることを毎年説いている。
僕が最後の犠牲者であって欲しい。
そう願ってやまない。

折り返しの人生を少しでも素敵に。 アップルコブラーというスイーツが好きです! それを手に入れるためのものも好きです。。。