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「虎に翼」で省みる 書評誌『本のひろば』2024年9月号「編集室から」

一般財団法人キリスト教文書センターが月刊で発行する書評誌『本のひろば』2024年9月号の、編集後記にあたる「編集室から」に書いた原稿より(紙幅の都合で割愛した部分を加筆)。

 NHK朝ドラ「虎に翼」から目が離せない。日本初の女性弁護士で後に裁判官となった三淵嘉子をモデルに描くオリジナルストーリー。法曹界をはじめ多くの識者も熱心に視聴し、さまざまに論評されている。

 女性が一人格として認められなかった昭和初期。本当にこんな時代があったのかと目を疑いつつ、どこか現代にも通じる台詞が胸に刺さり、今なお変わらない根源的な問題に気づかされたというシーンは枚挙に暇がない。「女のくせに」「分をわきまえろ」という常套句で、声なき声を封殺してきた負の歴史は連綿と繰り返されている。

 新五千円札の顔に選ばれた津田梅子を挙げるまでもなく、女性の社会進出においてキリスト教主義の教育機関が果たした役割は大きい。中高とリベラルなプロテスタントの女子校に通ったという作家のアルテイシアさんは、「『女』じゃなく『人間』として生きられる、男社会からの避難所みたいな場所だった」と振り返る(『モヤる言葉ヤバイ人』大和書房)。

 他方、教会には性差別が根深く残る。牧師と結婚しただけで「牧師夫人」と呼ばれ、「教会の奥さん」「お母さん」的な存在として無言の圧力と理不尽な要求にさらされる。思えば教会も「スン」だらけ。「神の前で正しくあれ」と、表面的な「清さ」「正しさ」ばかり重んじられ、感謝と喜びに満ちた信仰生活にそぐわない負の感情には蓋をすることに慣れてしまう。波風立てぬように物言わぬ空気や、「持ちつ持たれつ」で穏便に済まそうとする体質にも既視感しかない。

 100年たっても残念ながら、無神経に「女(おんな)子ども」と言い放ってはばからない都知事候補が、無党派層を中心に165万の得票を記録するという世界に私たちは生きている。それでも執念深く、旧態依然の日本社会に「はて?」を突きつけ続けるしかない。


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