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「無人島のふたり」山本文緒さん、読みました


読み終えて、鳥肌が立ちしばらくじっとしていました。
読んで良かったと思いました。

膵臓がんが分かって、治療ではなく緩和ケアを選んだ山本さん。
この本は、体調と生活の様子を日記として書かれたものです。
検査結果や薬の種類などの話は少なめです。

本のタイトルは「無人島のふたり」
ふたりとは、山本さんと夫様。
書かれた時期は、ちょうどコロナ渦中でしたが、
無人島でふたりきりで過ごしているような
隔絶された緩和ケア生活を過ごされています。
また自立した女性であり、結婚後も個人のマンションで仕事をされることもあったようですが、彼に甘えることもできてきたようです。
山本さんが夫様を心から信頼し、
自分の病気で彼が辛い思いをしていることを察し、
思いやっていらっしゃることが良く伝わります。

ふたりきりの無人島に、
本島から見舞いのお客様もいらっしゃいます。
出版社の編集者さんたち。
彼らとの関係性の良さが、生活の彩になっているようです。
また、お母様、お兄様もいらっしゃいます。
親より先に行くという苦しさを少しだけ吐露しています。

山本さんは、入院したくないという気持ちをお持ちで、
専門の医療を受けつつ、訪問医療を受け、
ご自身で「手厚い」「ありがたい」と感じていらっしゃいます。
実際の生活では、怒り・悲しみ・諦めの気持ちなど、混乱があったかもしれませんが、それを一切感じさせない文章です。
感謝の気持ちでケアをうけていらっしゃるところが、羨ましい。
山本さんの生きざまがにじみ出ています。

そして、自分の限られた命を見つめ、夫様とふたりで
マンションの後始末、住居の断捨離、公的手続きなどをなさっていきます。
そこには、命の限りを認めた達観のようなものが感じられます。
亡くなったお父様や愛猫さくらちゃんの後に続くという安心感があったようにも感じられます。

山本さんは、ご本人の希望通り「うまく死ねた」ように思えました。
もちろん、体調の変化の記述などは、辛そうではありますが、
SNSで拝見する終末期の凄まじさに比べると、
この程度なら自分にも耐えられそうだと思えるものでした。
日記を書かれなくなって、10日あまりでXデイを迎えられていますが、
その間、しっかりと痛みを取ってもらっていたのなら、
最高に良いと思いました。
この本には、「うまく死にたい」という言葉が何度か出てきました。
拝読する限り、山本さんはうまく死ねています。
わたしもいつの日か「うまく死ぬ」ができますように。
そして、後に続く人の心の支えになれれば嬉しいです。
「先に行って待っているからね。存分に生きて」
そんな言葉を残して。

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山本さんは緩和ケア中にもたくさんの本や漫画を読み、映画を観ていらっしゃいます。以下の通りです。

本・漫画
金原ひとみ 「アンソーシャルディスタンス」
吉川トリコ 「余命一年男をかう」
村上春樹「女のいない男たち」「ドライブ・マイ・カー」「ノルウェイの森」
角田光代「おやすみ怖い夢をみないように」
島本理生「星のように離れて雨のように散った」
海野つなみ「Travel journal」
文芸誌群像 長嶋有さん特集  田中兆子「イオンと鉄」
いくえみ綾「おやすみカラスまた来てね」

映画
海街diary
シン エヴァンゲリオン

ご自身の著書
山本文緒「ばにらさま」「自転しながら公転する」



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