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【師弟出会い編】森川ジョージ『はじめの一歩』×二宮裕次『BUNGO』豪腕特別対談Vol.1

「BUNGO」27巻発売記念!特別企画!

ヤングジャンプの人気野球コミック「BUNGO」の二宮裕次先生と、言わずと知れたボクシング漫画の超名作「はじめの一歩」の森川ジョージ先生の対談が実現。二宮先生の新人時代から厳しくも力強くアドバイスとエールを送り続けた森川先生の知られざるエピソードを全6回でお届けします!

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「まだ自分は何者でもないので、漫画でそれを叶えます!」って言ってきた。「お、ずいぶん格好いいこと言うじゃねえか。じゃあ厳しくしてもいいか」と思ってね。(森川)

―お二人が出会ったきっかけ、関係性について教えてください。

二宮:僕がアシスタントとしてお世話になっていた棚橋なもしろ先生が森川先生と仲が良くて、僕たちアシスタントもパーティーなどでご挨拶をさせていただいていたんです。

家が近かったこともあり、「みんなで飲みに行くか?」と誘ってくださって。そこから仲良くなりました。

森川:それはあなたの感想ですよね(笑)? こちらが仲良くなったと思ったかどうかは、また別の話で…。

二宮:たしかに!そうですよね。僕は勝手にそう思っていました、すみません。「いやぁ、いい人だな」と思って仲良くなりました(笑)。

森川:彼は「週刊ヤングジャンプ」(以下、YJ)の前に「週刊少年マガジン」(以下、週マガ)で連載したことがあるんだけど、その結果が散々たるものでね。それで、いろいろと相談を受けまして。ネームを見たり、今後の構想についても聞いたりしたけれど、僕の目から見ると全然ダメで、「こんなのダメだよ!」って(冗談まじりで机を叩きながら)バンッ! ってやった記憶があるな(笑)。

二宮:はい、貴重な助言をいただきました。ありがとうございます!

森川:そうやって作家同士の話ができるようになった頃から、仲良くなったんじゃないかな。彼はイノタケ、井上雄彦先生が大好きで大ファンなの。それもあって、彼がどういったものが描きたいのかは大体わかっていたんだけど、本当にそういうものを持ってきやがって(笑)。「井上くんの本の横に、井上くんのような本が並んでいて誰が買うんだ?」という話をしたんです。

―お二人の話題は、やはり漫画についてが多いのでしょうか?

森川:いやいやいや、違います(笑)。僕は本当に漫画しかやってきていない人間なので、漫画のことを話そうと思うんですけど…彼はとんでもなくモテるので(笑)。漫画の先輩として「ああしたほうがいいんじゃないか、こうしたほうがいいんじゃないか」って話をすると「また彼女ができまして…」って。

二宮:ちょっと待って!!  実家の両親が目にするかもしれないでしょ!

森川:こっちも興味津々ですから「じゃあ漫画の話はちょっと横に置いておこう」と(笑)。こちらから「どうやってお知り合いになられたんですか?」って、ご指導を受ける感じですね。会って話すたびに付き合っている彼女が変わるので、いつも「商業誌ナメんなよ!」って思ってたもん(笑)。

二宮:漫画の話を横に置いたのは森川先生ですから(笑)。それに「俺は奥さんはいるけど彼女はいないんだからな」って、いつも凄く食いついてくれたじゃないですか(笑)。

―森川先生から見た二宮先生の最初の印象を教えていただけますか。

森川:本当に駆け出しの新人で、正直に言うけどヘッタクソで、商業誌ベースでは耐えられないと思っていた。僕ははっきり「諦めろ」って言ったの。「こんな下手さじゃ相当根性入れないと無理だから、今の段階なら諦めたほうがいいぞ」と。そうしたら「まだ自分は何者でもないので、漫画でそれを叶えます!」って言ってきた。「お、ずいぶん格好いいこと言うじゃねえか。じゃあ厳しくしてもいいか」と思ってね。そういう後輩ですね。

―先輩後輩の関係以上に、プライベートでの仲の良さが感じられます。

二宮:以前に森川先生から、敬愛されているちばてつや先生についてうかがったことがありまして。ちば先生が凄い方過ぎて孤高というか、ちょっと寂しそうに見えたと。だから自分が人に接する時は、あえて友達に接するようにしているんだとおっしゃっていて。

同じように僕にとって森川先生は“偉大な方”なので、尊敬していますけど親しげな感じで寄っています。

森川:これは全部嘘です(笑)。彼は井上くんが大好きなんだから。僕が井上くんに「僕の友達がサインを欲しがっているんだ。僕にはそんなこと言ってきたことないんですけど」って泣きながらサインを貰ってきたことがあるぐらいですよ。

二宮:その節はありがとうございます(笑)。森川先生に、井上雄彦先生のサインを貰ってこさせた唯一の人間だと思います(笑)。『バガボンド』の35巻に書いていただいて、大事に部屋に飾ってあります!

森川:いえいえ二宮さんの頼みでしたら…まぁ勝手に僕が貰ってきただけなんだけどね(笑)。

こっちもかなり厳しいことを言っている自覚はあるんだけど、二宮大先生だけは懲りずに何回も食らいついてくれて。(森川)

―二宮先生に限らず、森川先生へ相談をしてくる作家さんは多いのではないですか?

森川:掲載誌の中だと僕が一番年上だから、相談してくる後輩はいますよ。そこで「こうじゃねえか?」と言うと、大概次からは近寄って来なくなる。こっちもかなり厳しいことを言っている自覚はあるんだけど、二宮大先生だけは懲りずに何回も食らいついてくれて。

彼も僕も経験があるけれど、自分の漫画が打ち切りになるときって、100万人以上の読者から「おまえは要らない」って言われることと同義なんですよ。だったらタイマンで「要らないよ、こんなの」って言われたほうがマシでしょ。

二宮:はい! 大変ありがたかったです。森川先生からしたら、漫画に接する者としての当たり前のアドバイスとしておっしゃっていたんですよね。

森川:100万人に要らないって言われる結果が出ちゃってからじゃ取り返しがつかないでしょ。僕も先輩に言われたよ。さすがに担当編集も厳しいことは言いにくいだろうから。(同席していた『BUNGO』の担当編集を見ながら)…ね?

一同:(笑)

―スポーツ漫画というジャンル、そして現在描かれているスポーツを選ばれた経緯をお聞かせください。

森川:デビューから3本連続で打ち切りになって『はじめの一歩』だけが成功していて。何をやっても成功しなかったのに、はじめて描いたボクシング漫画が成功した。ボクシング漫画って「ウケにくい」といわれているジャンルなんですけど、僕にとっては一番簡単…という言い方はおかしいけれど、一番合っていたジャンルなんだとは思います。

―題材にボクシングを選んだのは、一番興味のあるものだったからでしょうか? 

森川:好きだから避けていましたね。好きなものに手を付けると失敗するんですよ。

ただ、ちょうどあの頃、マイク・タイソンが階級制覇したんだよね。マイク・タイソンは僕と同世代で大好きな選手。「タイソンがこういうふうにKOした、ああいうふうにKOした」と話していたら、当時の担当が「そんなに好きならボクシング漫画描いてみたらいいじゃん」って言ってきて。「いや『あしたのジョー』が掲載されていた雑誌で描けるわけねえだろ」って返したんだけど。20歳くらいのときだったかな。本当に二宮はバスケによく手を付けたなって、ある意味感心しますよ。

二宮:いや、本当に命知らずでした(笑)。週マガには『あひるの空』がありましたし…。

―二宮先生はバスケの次に選んだ題材が野球ですね。

二宮:野球とバスケが好きだったんです。どちらかで連載したいなと思って、最初は一番好きなバスケを選んだんですが、終わっちゃったので…。次は野球かなと。

―シニアリーグが舞台の漫画はかなり珍しいと感じますが。

二宮:取材を進めるうちに、甲子園に出場するような人は、中学時代から「あいつとやったことあるよ」って言い合う連中ばかりだと気づいたんです。なので高校野球とは違う、学校外での人間関係も描けたら面白いんじゃないかと思い、決めました。

漫画は「“誰が、何を、どこで”の順番が大事なのに、二宮は“何を”が先に来てる。バスケが先で“誰が”にあたるキャラクターが一番最後になっているからダメなんだ」と。(二宮)

―新連載をスタートさせる際に、森川先生からアドバイスなどはありましたか?

二宮:打ち切りになったあと、森川先生に「バスケの漫画を描こうと思ったんだろ。だからダメだったんだよ」と言われて…。

森川:なんか偉そうなこと言ってるな。嫌な予感がする(笑)。

二宮:かなり響きましたよ。漫画は「“誰が、何を、どこで”の順番が大事なのに、二宮は“何を”が先に来てる。バスケが先で“誰が”にあたるキャラクターが一番最後になっているからダメなんだ」と。

森川:いいこと言ってるじゃん(笑)。

二宮:それが響いたので、次は野球をやろうと決めてはいましたけど、まずはキャラクターを大事にしました。キャラクターをいろんな場面に置いてみて、どんな場面でも面白くなりそうな奴だなって思ってから、野球をやらせたという順番になっています。

今の『BUNGO』があるのは森川先生のアドバイスのおかげでもあるんですね。

二宮:間違いないです(笑)。森川先生に会えてなかったら、僕は漫画家になれていなかったと思います。

森川:それはないだろう(笑)。でも立派だよね。もう27巻でしょ?

二宮:『はじめの一歩』は131巻ですけど!!

森川:こっちは細々とやっているだけだから。

第2回に続く!

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