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一行小説第1期(001 - 050)

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2014/4 - 2014/5
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2014年4月の記事一覧

019

医者に頼んで悲しみだけ切除してもらったらみるみる内に人間の形に成長していき、引き換えにわたしが消えていった。

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018

胸騒ぎがして家に帰ると見知らぬ男が眠っておりなんと神経の図太い泥棒かと呆れてしまったがよく見ると昔の自分であった。

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017

「海とはね、昔の人の涙なのだよ」と話をしてくれた名も知らぬ老婆がいまでは海岸で眼玉だけの姿になっている。

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016

絶対に守るつもりでいたけれどさっきまであんなに元気だった姫のからだはすでにもぬけの殻だった。

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015

薬を飲めば何かが変わると思っている狂人にだけはなるまいと思って致死量の毒薬を持ち歩いている。

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014

行き先を決めずに車を走らせていたら数字が浮いているだけの未完成の世界にたどりついた。

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013

風邪をひいたという患者に口をあけてもらったところ喉の奥から蛇がこちらを見ていた。

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012

どこか近所からすごい音がして驚いていると大学生だった妹が六歳になって星を拾ってきた。

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011

気になって直視しようとするけれどどっちを見ても視界の隅で大きな蜂が飛びまわっている。

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010

信号が青に変わると街中の人間が一斉に雀になって空へ吸い込まれてしまった。

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009

いつも通るこの道で何もかもわからなくなってしまい、ぼくはいまどこにいますかと手当たり次第に尋ねまわっている。

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008

人の影を踏んづけて遊んでいる彼が他の人より薄暗いわたしの影を甘くみた結果ずぶずぶと地面に吸い込まれていった。

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007

こわい目にあって泣きながら電話をかけたが祖母の声が聞こえた瞬間に去年の今ごろその祖母が亡くなったことを思い出した。

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006

ひと気のない動物園で人間の声が聞こえたような気がして耳をそばだてるとなるほど声はこの馬の腹の中からしている。

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